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第1幕・Aim(エイム)の章〜⑩〜
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4月26日(水)
新年度が始まって、約三週間が経過した。
すでにタブレット端末を使い慣れている生徒たちが入学する中学校では、新入生への端末の配布が終了し、小学校でもゴールデンウィーク明けに行う一年生のタブレット利用開始に向けた準備が整っている。
連休前に、必要な作業を終えることができて業務の負担が減った僕は、職員室に戻ってきた山脇先生と、いつもの野球談義を楽しんでいた。
「昨日は、雨で中止になってしまったけど、巨人戦やし試合して欲しかったな~」
「小雨だったし、グラウンド状態が悪くなければ、試合はできたかも知れませんね」
「そうそう! あと、巨人戦と言えば、この前、パーフェクトやった村上クン、中日も抑えてくれたな!」
「あの安定感は、ホンモノかも知れませんね! 今年は、ちょっと、ローテーションがキツいので、村上が出てきてくれたのメチャクチャ嬉しいです」
僕が、そう返答すると、山脇先生は同意するようにうなずいたあと、「そう言えば……」と、つぶやき、こんな話しを聞かせてくれた。
「もう、何年も前のことやけど……山崎っていうピッチャーが、東京ドームで巨人相手に初完封したことがあってな~。ただ、そのとき、解説の江川と掛布に、投球内容をボロクソに言われてたんや……『彼が完封したら、僕は野球に対する見方を変えます』とか、なんとか……」
「そうなんですか!? 今なら、ネットで火が着いて、大炎上してる発言かも知れませんね」
山脇先生の興味深い思い出話しに、苦笑しながら返答する。
自分がリアルタイムで見てきたより以前には、この球団や選手にまつわる刺激的なエピソードが、まだまだたくさんあるようだ。
昼休みに、その投手について検索してみるか――――――などと、考えながら、別の話題に移ろうとする先生の話しに耳を傾ける。
「ところで、今日は、サトテルに期待してるねん」
「佐藤ですか? 今シーズンは、ムチャ振りしなくなったイメージはありますけど……今年は、まだホームラン打ってませんよ?」
「今日の巨人の先発は、また戸郷やろ? テルくんは、戸郷と相性がイイからな! そろそろ一発打ってくれるんちゃうかな?」
※
昼休みになり、昼食を食べ終えた僕は、午前中の山脇先生との会話を思い出しながら、スマホで色々と調べ物をしてみた。
先生の言うとおり、昨シーズンの佐藤輝明は、この日、ジャイアンツの予告先発として名前が告げられている戸郷を得意としていたことがわかった。
(そろそろ、サトテルにもホームランを打ってもらいたいな……)
夕方からの試合に想いを馳せながら、今度は、先生の言っていた山崎投手について、検索してみる。
すると、ウィキペディアの山崎一玄という項目がヒットし、《経歴》の項目に、山脇先生の言っていたとおりのエピソードの記述があった。
自分も他人のことを言える立場ではないけど、阪神ファンの記憶力というか、昔のことにこだわる執着力は、あなどれない。
きっと、僕も、数十年後には、今のタイガースの主力選手に対して、評論家や解説陣が、どんなコメントを残していたのか、誰かに語っているだろう。
そんな、(他人からすれば)どうでも良い空想にひたりつつ、僕は、もう一つ、春から気になっているトピックに関するニュース記事を閲覧していく。
今シーズンの阪神タイガースの試合結果の次に気になってしまうのは、MLBのオークランド・アスレチックスに移籍した藤浪晋太郎のことだ。
入団当初から「トラを背負うエース」として期待されながら、四年目以降は制球難に苦しみ、思うように活躍できないまま、昨シーズン末にメジャーリーグへの挑戦を表明した彼は、僕自身にとっての新しいヒーロー候補だ。
最初に僕のココロを掴んだ鳥谷敬と金本知憲は、すでにチームの中心として活躍し、キャリアのピークや晩年を迎えていたが、藤浪晋太郎は、高校時代にエースとして甲子園で春夏連覇を達成し、夏の大会をテレビで観ながら、
「こんなスゴい投手が、阪神に入団してくれたらなぁ」
と、亡くなった祖父と語り合っていた、チーム加入前からの期待の逸材だった。
その年の秋のドラフト会議で、和田監督(当時)が一位指名のクジを引き当て、阪神が藤浪との交渉権を獲得したときには、監督と同じように、自分もガッツポーズをしていた。
自分の両親の年齢に近い中堅以上のプロ野球選手ではなく、兄のような年齢の高校生に、より親近感が湧いた、というのも、彼に期待以上の感情をいだいた理由かもしれない。
明るい未来を夢見たその喜びが、現実になるかのように、阪神ファンの、いや、プロ野球ファンの期待通り、藤浪晋太郎は、プロ入り三年目まで着実に成績を伸ばしていった(もう大昔のように感じるが、この頃までは、同期の大谷翔平を上回る成績だったのだ)。
しかし――――――。
チームが優勝争いを演じた三年目の登板過多が祟ったのか、彼のキャリア四年目に就任した金本監督の方針と合わなかったのか、それ以降の藤浪晋太郎は、チームやファンの期待するような成績が残せていない。
四年目以降の国内での成績が見栄えしないままの渡米には、賛否さまざまな意見があると思うが、個人的には、その挑戦を心から応援したいと思っている。
先発投手としてのこだわりが強い彼らしく、移籍したアスレチックスでは、この日まで四度、先発として登板したものの、いずれも、序盤に失点を重ねて敗戦投手になっている。
チーム状態が悪く、暗黒時代の阪神タイガース以上のペースで敗戦を積み重ねて行っている今年のアスレチックスであっても、この状況では、先発投手として、ローテーションの一角を担い続けるのは難しいだろう。
WBC優勝の余波で、メディアの報道では、大谷翔平の(文字通り)一挙手一投足に注目が集まっているけれど、なんとか、藤浪晋太郎の存在感を見せつけてほしいと思わずにはいられない。
藤浪が阪神で中継ぎとして起用されていた頃、彼の登板のたびに甲子園球場のスタンドが異様な盛り上がりを見せていたことを目の当たりにしている一人のファンとして、ベースボールの母国で、メジャーリーガーをも唸らせる豪速球と鋭いスプリットを武器に三振の山を築く姿が見られることを、僕は心から願っていた。
【本日の試合結果】
阪神 対 巨人 4回戦 阪神 4ー8 巨人
先発の西勇輝が3回5失点と炎上。打線は、山脇先生の予言(?)どおり佐藤輝明の今季1号ホームランなどで中盤に追い上げて1点差に迫るも、8回にジャイアンツ長野の3ランホームランが飛び出し、万事休す。
ジャイアンツのエース・戸郷翔征には、これで2連敗となった。
◎4月26日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:10勝9敗 1引き分け 貯金1
順位:2位(首位と2ゲーム差)
◎4月26日終了時点の藤浪晋太郎の成績
勝敗:0勝4敗
防御率:14.40
新年度が始まって、約三週間が経過した。
すでにタブレット端末を使い慣れている生徒たちが入学する中学校では、新入生への端末の配布が終了し、小学校でもゴールデンウィーク明けに行う一年生のタブレット利用開始に向けた準備が整っている。
連休前に、必要な作業を終えることができて業務の負担が減った僕は、職員室に戻ってきた山脇先生と、いつもの野球談義を楽しんでいた。
「昨日は、雨で中止になってしまったけど、巨人戦やし試合して欲しかったな~」
「小雨だったし、グラウンド状態が悪くなければ、試合はできたかも知れませんね」
「そうそう! あと、巨人戦と言えば、この前、パーフェクトやった村上クン、中日も抑えてくれたな!」
「あの安定感は、ホンモノかも知れませんね! 今年は、ちょっと、ローテーションがキツいので、村上が出てきてくれたのメチャクチャ嬉しいです」
僕が、そう返答すると、山脇先生は同意するようにうなずいたあと、「そう言えば……」と、つぶやき、こんな話しを聞かせてくれた。
「もう、何年も前のことやけど……山崎っていうピッチャーが、東京ドームで巨人相手に初完封したことがあってな~。ただ、そのとき、解説の江川と掛布に、投球内容をボロクソに言われてたんや……『彼が完封したら、僕は野球に対する見方を変えます』とか、なんとか……」
「そうなんですか!? 今なら、ネットで火が着いて、大炎上してる発言かも知れませんね」
山脇先生の興味深い思い出話しに、苦笑しながら返答する。
自分がリアルタイムで見てきたより以前には、この球団や選手にまつわる刺激的なエピソードが、まだまだたくさんあるようだ。
昼休みに、その投手について検索してみるか――――――などと、考えながら、別の話題に移ろうとする先生の話しに耳を傾ける。
「ところで、今日は、サトテルに期待してるねん」
「佐藤ですか? 今シーズンは、ムチャ振りしなくなったイメージはありますけど……今年は、まだホームラン打ってませんよ?」
「今日の巨人の先発は、また戸郷やろ? テルくんは、戸郷と相性がイイからな! そろそろ一発打ってくれるんちゃうかな?」
※
昼休みになり、昼食を食べ終えた僕は、午前中の山脇先生との会話を思い出しながら、スマホで色々と調べ物をしてみた。
先生の言うとおり、昨シーズンの佐藤輝明は、この日、ジャイアンツの予告先発として名前が告げられている戸郷を得意としていたことがわかった。
(そろそろ、サトテルにもホームランを打ってもらいたいな……)
夕方からの試合に想いを馳せながら、今度は、先生の言っていた山崎投手について、検索してみる。
すると、ウィキペディアの山崎一玄という項目がヒットし、《経歴》の項目に、山脇先生の言っていたとおりのエピソードの記述があった。
自分も他人のことを言える立場ではないけど、阪神ファンの記憶力というか、昔のことにこだわる執着力は、あなどれない。
きっと、僕も、数十年後には、今のタイガースの主力選手に対して、評論家や解説陣が、どんなコメントを残していたのか、誰かに語っているだろう。
そんな、(他人からすれば)どうでも良い空想にひたりつつ、僕は、もう一つ、春から気になっているトピックに関するニュース記事を閲覧していく。
今シーズンの阪神タイガースの試合結果の次に気になってしまうのは、MLBのオークランド・アスレチックスに移籍した藤浪晋太郎のことだ。
入団当初から「トラを背負うエース」として期待されながら、四年目以降は制球難に苦しみ、思うように活躍できないまま、昨シーズン末にメジャーリーグへの挑戦を表明した彼は、僕自身にとっての新しいヒーロー候補だ。
最初に僕のココロを掴んだ鳥谷敬と金本知憲は、すでにチームの中心として活躍し、キャリアのピークや晩年を迎えていたが、藤浪晋太郎は、高校時代にエースとして甲子園で春夏連覇を達成し、夏の大会をテレビで観ながら、
「こんなスゴい投手が、阪神に入団してくれたらなぁ」
と、亡くなった祖父と語り合っていた、チーム加入前からの期待の逸材だった。
その年の秋のドラフト会議で、和田監督(当時)が一位指名のクジを引き当て、阪神が藤浪との交渉権を獲得したときには、監督と同じように、自分もガッツポーズをしていた。
自分の両親の年齢に近い中堅以上のプロ野球選手ではなく、兄のような年齢の高校生に、より親近感が湧いた、というのも、彼に期待以上の感情をいだいた理由かもしれない。
明るい未来を夢見たその喜びが、現実になるかのように、阪神ファンの、いや、プロ野球ファンの期待通り、藤浪晋太郎は、プロ入り三年目まで着実に成績を伸ばしていった(もう大昔のように感じるが、この頃までは、同期の大谷翔平を上回る成績だったのだ)。
しかし――――――。
チームが優勝争いを演じた三年目の登板過多が祟ったのか、彼のキャリア四年目に就任した金本監督の方針と合わなかったのか、それ以降の藤浪晋太郎は、チームやファンの期待するような成績が残せていない。
四年目以降の国内での成績が見栄えしないままの渡米には、賛否さまざまな意見があると思うが、個人的には、その挑戦を心から応援したいと思っている。
先発投手としてのこだわりが強い彼らしく、移籍したアスレチックスでは、この日まで四度、先発として登板したものの、いずれも、序盤に失点を重ねて敗戦投手になっている。
チーム状態が悪く、暗黒時代の阪神タイガース以上のペースで敗戦を積み重ねて行っている今年のアスレチックスであっても、この状況では、先発投手として、ローテーションの一角を担い続けるのは難しいだろう。
WBC優勝の余波で、メディアの報道では、大谷翔平の(文字通り)一挙手一投足に注目が集まっているけれど、なんとか、藤浪晋太郎の存在感を見せつけてほしいと思わずにはいられない。
藤浪が阪神で中継ぎとして起用されていた頃、彼の登板のたびに甲子園球場のスタンドが異様な盛り上がりを見せていたことを目の当たりにしている一人のファンとして、ベースボールの母国で、メジャーリーガーをも唸らせる豪速球と鋭いスプリットを武器に三振の山を築く姿が見られることを、僕は心から願っていた。
【本日の試合結果】
阪神 対 巨人 4回戦 阪神 4ー8 巨人
先発の西勇輝が3回5失点と炎上。打線は、山脇先生の予言(?)どおり佐藤輝明の今季1号ホームランなどで中盤に追い上げて1点差に迫るも、8回にジャイアンツ長野の3ランホームランが飛び出し、万事休す。
ジャイアンツのエース・戸郷翔征には、これで2連敗となった。
◎4月26日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:10勝9敗 1引き分け 貯金1
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勝敗:0勝4敗
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