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第2幕・Respect(リスペクト)の章〜③〜
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5月14日(日)
夕方までのポジティブな気分とはうって変わり、奈緒美さんとの約束の前日の夜、緊張と不安でなかなか眠りにつけず、僕はベッドでゴロゴロと寝返りを打ちながら、とりとめのない考えと格闘していた。
(ランチのパンケーキ店はともかく、野球観戦は奈緒美さんに楽しんでもらえるのかな?)
(観戦を楽しんでもらうためには、最低限、阪神に勝ってもらわないと……)
(ストレスのたまる試合展開だと、球場の雰囲気も悪くなるしな……)
年間に、少なくとも十数試合は、甲子園と京セラドーム大阪に足を運んで、試合観戦いや参戦をしている僕にとって、試合の内容と結果が、これほど気にかかることもそう多くない。
もちろん、シーズン終盤の完全な消化試合や選手の引退試合以外は、どんな場合でもチームの勝利を願って球場に向かうけれど、これほどの緊張は、リーグ優勝の行方を占う、いわゆる『天王山』と言われる一戦を前にしたときと同じレベルだと言っても過言ではない。
(初観戦がヤジの飛び交うと、野球観戦そのものの印象が……)
(明日のウチの先発は、西純矢か……好投を期待したいけど)
(やっぱり、早めに家を出て素盞嗚神社に願掛けしよう!)
(頼む……頼むから、明日の試合は勝ってくれ!)
こんな風に、思いつめるほど、翌日の試合展開のことで僕の頭の中は、いっぱいだった。
ワンルームの天井を見つめて悶々としているうちに、ジリジリと時間が過ぎていく。空が白み始めた時間になって、ようやく眠気の切れ端をつかんだような気がした。その切れ端を離さないように、目を閉じ身体のチカラを抜くと、ようやく眠りに落ちることができた。
・
・
・
スマホのアラームで目を覚まし、寝不足気味で働きの良くない脳を耳モミ体操と冷蔵庫のミネラルウォーターで、無理やり起こす。
薄焼き玉子とカリカリに焼いたベーコンを挟んだパンをペットボトルのカフェオレで流し込んだあと、インナーに背番号8のTシャツを着こみ、テーラードジャケットを羽織って家を出る。
大きめのバッグには、外から見えないように、応援グッズのカンフーバットと手に持って振るだけで音が鳴る手の形をしたパチパチハンドを忍ばせた。
スマホでバスの接近情報を確認して、自転車に乗る方が早く到着できると判断した僕は、愛車にまたがり、待ち合わせ場所に向かう。
阪神甲子園駅の北側の駐輪場に愛車をとめて、駅の南側にある改札口にまわると、11時の待ち合わせより5分以上早いにもかかわらず、奈緒美さんは改札のすみで待ってくれていた。
前日に続いて、曇りがちではあるが、蒸し暑さを感じさせる天候だ。
今日の彼女のコーディネートは、プリントのシャツに、ピスタチオカラーのテーパードパンツのスタイルで、洒落たオフィスで働くのが似合いそうな雰囲気。アウターには、ロングトレンチを羽織っていて、大人っぽさが感じられる。
「御子柴さん、すいません! お待たせしてしまって……」
僕が声を掛けると、彼女は、おっとりした口調で、
「いえ、私もいま来たところですから……」
と、穏やかに微笑んで、言葉を続けた。
「試合が始まるまで、まだ時間はあると思うんですけど……お客さんがたくさんいてビックリしました」
「今日も、チケットは完売ですからね……球場は、4万2千人以上入れますから」
僕が答えると、奈緒美さんは目を丸くして、
「さいたまスーパーアリーナよりも、多いんですか!?」
と、驚いているようだった。
その後は、予定どおり、彼女のリクエストに応えて、駅から徒歩5分の場所にあるショッピングモール内のパン・ケーキ店に向かう。
11時過ぎというランチには少し早い時間ではあったにもかかわらず、店内はすでに満席に近い状態だった。
「お昼ごはんには早い気がするんですけど、ほぼ満員……スゴい人気ですね」
席に着いてから、僕がつぶやくように言うと、奈緒美さんは、
「えぇ、話題のお店ですから! 今日は、お付き合いいただいて、とっても嬉しいです」
と、満面の笑みで答えてくれた。
パンケーキ店の店内は、サイトに掲載されていた画像のとおり、白を基調とした洒落た内装で、シャンデリアなどの装飾も凝っている。
店舗が入居するモールが、甲子園球場の隣の敷地にあるとはいえ、いつもの観戦……いや、参戦スタイルである黄色と黒の全身トラ・コーデを選ばなくて、本当に良かった、と自分の選択が間違っていなかったことに、心の底からホッとする。
メニューの中から、奈緒美さんは、スモークサーモン&アボカドのパンケーキとアフォガード、僕は、サーモンのクリームパスタを選んだ。
(熟成ベーコンのパンケーキも気になったが、朝食と同じメニューになるので避けることにした)
クリームパスタだけのランチは、ややボリューム不足にも感じたが、
(足りなければ、球場メシを食べればイイや)
と考えて、追加の注文はしないでおく。
なにより、パンケーキを美味しそうに頬張る奈緒美さんの笑顔を眺めているだけで、満足だったということも大きい。
ゆったりと一時間近くの時間を掛けてランチと会話を楽しんだあと、モール内の大型スーパーで飲み物などを購入し、僕たち二人は、球場に向かうことにした。
夕方までのポジティブな気分とはうって変わり、奈緒美さんとの約束の前日の夜、緊張と不安でなかなか眠りにつけず、僕はベッドでゴロゴロと寝返りを打ちながら、とりとめのない考えと格闘していた。
(ランチのパンケーキ店はともかく、野球観戦は奈緒美さんに楽しんでもらえるのかな?)
(観戦を楽しんでもらうためには、最低限、阪神に勝ってもらわないと……)
(ストレスのたまる試合展開だと、球場の雰囲気も悪くなるしな……)
年間に、少なくとも十数試合は、甲子園と京セラドーム大阪に足を運んで、試合観戦いや参戦をしている僕にとって、試合の内容と結果が、これほど気にかかることもそう多くない。
もちろん、シーズン終盤の完全な消化試合や選手の引退試合以外は、どんな場合でもチームの勝利を願って球場に向かうけれど、これほどの緊張は、リーグ優勝の行方を占う、いわゆる『天王山』と言われる一戦を前にしたときと同じレベルだと言っても過言ではない。
(初観戦がヤジの飛び交うと、野球観戦そのものの印象が……)
(明日のウチの先発は、西純矢か……好投を期待したいけど)
(やっぱり、早めに家を出て素盞嗚神社に願掛けしよう!)
(頼む……頼むから、明日の試合は勝ってくれ!)
こんな風に、思いつめるほど、翌日の試合展開のことで僕の頭の中は、いっぱいだった。
ワンルームの天井を見つめて悶々としているうちに、ジリジリと時間が過ぎていく。空が白み始めた時間になって、ようやく眠気の切れ端をつかんだような気がした。その切れ端を離さないように、目を閉じ身体のチカラを抜くと、ようやく眠りに落ちることができた。
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スマホのアラームで目を覚まし、寝不足気味で働きの良くない脳を耳モミ体操と冷蔵庫のミネラルウォーターで、無理やり起こす。
薄焼き玉子とカリカリに焼いたベーコンを挟んだパンをペットボトルのカフェオレで流し込んだあと、インナーに背番号8のTシャツを着こみ、テーラードジャケットを羽織って家を出る。
大きめのバッグには、外から見えないように、応援グッズのカンフーバットと手に持って振るだけで音が鳴る手の形をしたパチパチハンドを忍ばせた。
スマホでバスの接近情報を確認して、自転車に乗る方が早く到着できると判断した僕は、愛車にまたがり、待ち合わせ場所に向かう。
阪神甲子園駅の北側の駐輪場に愛車をとめて、駅の南側にある改札口にまわると、11時の待ち合わせより5分以上早いにもかかわらず、奈緒美さんは改札のすみで待ってくれていた。
前日に続いて、曇りがちではあるが、蒸し暑さを感じさせる天候だ。
今日の彼女のコーディネートは、プリントのシャツに、ピスタチオカラーのテーパードパンツのスタイルで、洒落たオフィスで働くのが似合いそうな雰囲気。アウターには、ロングトレンチを羽織っていて、大人っぽさが感じられる。
「御子柴さん、すいません! お待たせしてしまって……」
僕が声を掛けると、彼女は、おっとりした口調で、
「いえ、私もいま来たところですから……」
と、穏やかに微笑んで、言葉を続けた。
「試合が始まるまで、まだ時間はあると思うんですけど……お客さんがたくさんいてビックリしました」
「今日も、チケットは完売ですからね……球場は、4万2千人以上入れますから」
僕が答えると、奈緒美さんは目を丸くして、
「さいたまスーパーアリーナよりも、多いんですか!?」
と、驚いているようだった。
その後は、予定どおり、彼女のリクエストに応えて、駅から徒歩5分の場所にあるショッピングモール内のパン・ケーキ店に向かう。
11時過ぎというランチには少し早い時間ではあったにもかかわらず、店内はすでに満席に近い状態だった。
「お昼ごはんには早い気がするんですけど、ほぼ満員……スゴい人気ですね」
席に着いてから、僕がつぶやくように言うと、奈緒美さんは、
「えぇ、話題のお店ですから! 今日は、お付き合いいただいて、とっても嬉しいです」
と、満面の笑みで答えてくれた。
パンケーキ店の店内は、サイトに掲載されていた画像のとおり、白を基調とした洒落た内装で、シャンデリアなどの装飾も凝っている。
店舗が入居するモールが、甲子園球場の隣の敷地にあるとはいえ、いつもの観戦……いや、参戦スタイルである黄色と黒の全身トラ・コーデを選ばなくて、本当に良かった、と自分の選択が間違っていなかったことに、心の底からホッとする。
メニューの中から、奈緒美さんは、スモークサーモン&アボカドのパンケーキとアフォガード、僕は、サーモンのクリームパスタを選んだ。
(熟成ベーコンのパンケーキも気になったが、朝食と同じメニューになるので避けることにした)
クリームパスタだけのランチは、ややボリューム不足にも感じたが、
(足りなければ、球場メシを食べればイイや)
と考えて、追加の注文はしないでおく。
なにより、パンケーキを美味しそうに頬張る奈緒美さんの笑顔を眺めているだけで、満足だったということも大きい。
ゆったりと一時間近くの時間を掛けてランチと会話を楽しんだあと、モール内の大型スーパーで飲み物などを購入し、僕たち二人は、球場に向かうことにした。
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