僕のペナントライフ

遊馬友仁

文字の大きさ
25 / 78

第2幕・Respect(リスペクト)の章〜⑦〜

しおりを挟む
 彼女の疑問に、僕はまたしても、苦笑しながら答える。

「ライトスタンドでは、これからが始まりますからね……1番打者バッターから9番打者バッターまでのヒッティングマーチを歌って、もう一回『六甲おろし』を歌って、応援団長のシュプレヒコールが終わってから解散になるのが通常のパターンです。今日は、単独首位に立ちましたし、試合内容も熱い場面が多かったんで、盛り上がるんじゃないですかね?」

 二次会、というフレーズが気になったのか、奈緒美さんは、目を丸くして感想を述べた。

「そうですか……ライブの会場でも、ライブがたあとに、会場周辺での人たちが盛り上がっていることはありますけど、あんなに大規模な人数が残っているのは見たことがないです。会場にも迷惑が掛かっちゃいますし……野外だと、夜になると、騒音に対する苦情もスゴいんですよ」

 彼女の言葉には、「ですよね……」と同意するしかないのだが……。
 そんな会話をしながら駅に向かう途中、国道と高速道路が重なる高架下に差し掛かった。

 高架下から見上げる天井部分は、七色のレインボカラーに彩られたネオンが輝いている。

「そういえば……感染症がまん延してからは禁止されてしまったんですけど、以前は、この高架下でも内野席やアルプス席で試合を観た人たちが集まって二次会をしてたんですよ」

 僕が、この場所に連れてきてもらった最初の頃は、夜になると真っ暗になっていた記憶のある場所を見上げながら言うと、あきれるような表情と、感心したような表情が入り混じったような雰囲気で、奈緒美さんは、

「タイガースのファンは、本当に熱狂的な人が多いんですね……ちょっと、その様子は観てみたかった気がします」

と、答える。その言葉に、僕はすぐさま反応した。

「スマホを買ったばかりのときに、高架下の二次会を撮影してYouTubeにアップしたことがあるんですけど……よければ、観てみますか?」

 思わず口にしてしまった提案に、奈緒美さんは、一瞬、面食らったような表情を見せたあと、クスクスと笑いだし、

「そうですね、今度、是非……」

そう、返事をしたあと、

「今日は、色々な発見があって楽しい一日でした」

と、感想を口にする。
 彼女の楽しげな表情に、僕の顔もほころび、

「そ、それは、良かったです!」

と、返答すると、奈緒美さんは澄ました表情で答える。

「えぇ……野球観戦の楽しさ、タイガースファンの熱さ……それに、中野くんのガチぜいっぷりも楽しませてもらいましたから……」

 その最後の言葉に、ほころんでいた僕の顔は、一瞬で赤くなった。

(今日は、控えめにしてたつもりなんやけど……)

「す、すいません……熱くなってしまって……」

 色々なことに熱が入りすぎてしまったことを申し訳なさを感じて謝罪すると、

「いえいえ、本当に楽しかったですよ。また、球場に来るのが楽しみになりました」

彼女は、いつもの穏やかな表情で答えてくれた。
 そんな会話を続けるうちに、阪神甲子園駅の改札口に到着する。奈緒美さんは、ここから、阪神電車と阪急電車を乗り継いで帰宅するそうだ。

「すいません……北口まで一緒に戻れたら良かったですけど、今日は自転車で来てしまったので……」

 すると、彼女は、笑みを浮かべながら首を振り、

「今日は、母の日ですからね……お母さん孝行をしてあげてください。でも、今度は、試合のあとに、二人で二次会に行きませんか?」

と言って、盃を傾けるような仕草を見せる。その奈緒美さんの一言に、僕は嬉しくなり、反射的に

「はい! ぜひ!」

と、即答していた。
 タテ縞のレプリカユニフォームや黄色の法被はっぴ姿の大勢の人々にまぎれて、奈緒美さんは、改札口に消えていく。

 彼女の姿を見送った後、駅の北側の駐輪場に向かいながら、今日の試合の勝利、サトテルの満塁弾、勝ちゲームを奈緒美さんと見ることが出来たこと、そして、何より再度の観戦の約束を取り付けることができただけでなく、のお誘いまでしてもらえたことに興奮し、僕は、線路下の通路で、本日のヒーローのように、両手を下からすくい上げるようなポーズで

「おっしゃ~~~!!!!!!」

と、雄叫びをあげる。
 その高架下の通路に反響する声に驚いたようすを見せながら、近くを歩いていた80年代当時のタイガースキャップを被ったおっちゃんが、

「兄ちゃん、エラい元気やな! 阪神、勝って嬉しいのはわかるけど、次に来るときまで、その元気は置いときや」

と、声を掛けてきた。

「あっ、すんません……」

とっさに、謝ると、おっちゃんは、手をサッとあげただけで、無言で去っていく。
 そして、冷静になった僕は、「あっ!」と声をあげて重要なことに気づく。

(次の試合のチケット、どうしよう……)

 そう、シーズン開始前ならなんとかなっただろうが、いまや、甲子園球場のチケットは、争奪戦になっていて、とくに、週末の試合ともなれば、シーズン開始後のいまとなっては、入手困難になっているのだ。 
 
「サトテルの満塁弾グランドスラム」と同じくらい難易度の高そうな「レギュラーシーズンのチケット入手」というシナリオに頭を抱える。
 
 次のミッションの達成方法に大いに悩みながら、僕は母親との待ち合わせのため、自転車で西宮北口の駅に向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...