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第3章~⑪~
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その表情に、一瞬、ドキリとさせられる。
ただ、そのことを悟られないよう、平静を装って、首に下げたコカリナに目を向けた。
クラスメートとアミューズメント・プールに行った際に、ミスト・シャワーのある場所で使用して以降、先週、事故に遭いかけた少年を目撃した時と公園の猫を撫でる際にこの機能を使ったので、小窓のカウンターの数字は、『38』になっている。
「いま歌ってたのは、『雨に唄えば』だっけ? 小嶋の歌をフル・コーラス聞かせてもらえるなら、構わない」
冗談めかした口調で言うと、彼女は笑いながら答えた。
「それは気分次第かな?」
個人的には、つい先ほど、普段は見せることのない、あどけない表情で歌う彼女の姿を見られただけで、満足したという思いもある。
「わかったよ」
と、返答すると、彼女は微笑みを絶やさないまま、こちらに歩み寄り、再び『トカリナ』に触れ、無言でうなずく。
彼女の指先がコカリナと接触したことを確認して、表裏両面にある六つの穴をすべてふさぎ、吹口から息を吹き込んだ。
==========Time Out==========
目の前には、再び現実世界の枠を越えた光景が広がる。
雨音は止み、雨粒は空中で静止したままだ。
聴覚と視覚から得られる情報を通して、あらためて、目の前の同級生と自分だけが、この時、この瞬間、自由でいられるのだ、ということを実感する。
「坂井も、こっちに来ない?」
という彼女の言葉に誘われ、水滴が視界いっぱいに広がる世界に足を踏み入れる。
そのまま、二人で、ペデストリアンデッキを駅の方へと歩いていく。
雨に濡れた地面を踏む、パシャパシャという音以外に物音はない。
「静かだね。本当に二人だけの世界になってしまった感じ」
そう、つぶやいた彼女に、
(自分と同じ感想をいだいていたのか……)
と、親近感を覚えつつ、「あぁ、そうだな……」と同意する。
ショッピング・モールと駅のちょうど中間地点のあたりは、デッキの南北の景色を一望できる最も見晴らしの良い場所になっている。
雨模様の天候で、ただでさえボンヤリと煙っている上に、視界の全面に広がる雨粒のおかげで遠方を見渡すことはできないが、マンション群や駅前のカリヨンなど、いつも見慣れている風景が、幻想的な雰囲気をまとっているようすに思わず息をのみ、このまま、この景色を眺めていたいという気持ちにさせられた。
ペデストリアンデッキの手すり越しに、北側に広がる街並みを眺めながら、
「このまま、時間が止まったままだったら良いのに――――――」
と、つぶやくように言った彼女の口から、またも自分と同じ感想が漏れたことに驚きつつも返答する。
「あぁ、本当にな……」
今度は、彼女の方が、少し意外そうな表情をしたあと、問い返してきた。
「あれ? 坂井は、時間が停止している間は、居心地の悪い気分になるんじゃなかったっけ?」
「それは、もう慣れたよ。それに、小嶋と二人なら、自分ひとりだけが取り残されたような気持ちになることもないしな」
頬をかきながら答えると、しばらくして、
「ふ~ん、そうなんだ」
ニヤニヤと笑う表情とともに、そんな言葉が返ってくる。
そして、「前にも話したかも知れないけど……」と言ったあと、
「私は、時間が止まっているこのセカイのほうが、心地よく感じるんだよね。静かで―――落ち着いていて―――自分たちだけが自由になれるセカイなら、わずらわしい周りのことを考えなくて済むしね……」
そう続けて語って、今度はうつむきながら、少し寂しげに表情を崩した。
以前の会話のときも気になったが、小嶋夏海は、人間関係について、何か気掛かりなことがあるようだ。
その言葉と表情が気になったので、「そうか……」と、つぶやいたあと、彼女に語りかける。
「なぁ、もし、何か悩んでいることがあるなら……オレで良ければ、話しを聞かせてもらえないか? 世界の時間が止まっている間なら、他の誰かに聞かれたりしないしな」
オレの言葉に、隣に立つ同級生は、ハッとした表情になり、つぶやくように返答した。
「そう、だね……ありがとう。話せるようになったら聞いてもらおうかな?」
彼女の言葉にうなずき、「おう!」と、少し語気を強めて返事をする。
「うん」
彼女が小さく首をタテに振ったように見えた。
その仕草を確認し、いまは、これ以上、立ち入らないでおこうと、話題をかえることにする。
「雨の中の観察実験も、一定のメドは立ったってことで良いか? あと、小嶋のリクエストでやり残したことは……花火大会くらいか?」
そう問いかけると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「覚えててくれたんだ! プールにも行くことができたし、あとは大きな花火さえ観ることができたら、夏休みの思い出としては、思い残すことはないかな?」
「なら、近くで開催される花火大会の日程を確認しないとな! ネットで検索すれば、すぐに見つかるんじゃないか?」
根拠があったわけではないが、彼女を元気づけるように語りかける。
「うん……だと、イイけどね」
つられたように、苦笑を浮かべた表情は妙に印象的だった――――――。
=========Time Out End=========
その表情を目にするのとほぼ同時に、デッキの手すりに打ち付ける雨音が耳に入ってきた。
「もう、十分近くも時間が経ったんだ……」
小嶋夏海が、名残り惜しそうにつぶやく。
「なんだか、時間が経つのが早く感じたな」
そう返事を返すと、
「それだけ、私たちにとっては、大切な時間だったってことなのかもね―――」
と、彼女は応じたので、「あぁ、そうだな」と、同意する。
自分でも理由はわからないが、オレは、この実験のパートナーに少し近づけたような気がした。
(彼女のためにも、なんとしても、花火大会を観に行ってみたい! )
そう考えて、雨上がりの午後は、『夏休みの友』との交流を差しおいて、図書館の情報交流ルームで、夏休み中の近隣の花火大会についての情報収集を試みた。
しかし――――――。
長引いた大雨などの各地の花火大会は、のきなみ『中止』という告知がなされていた。
ただ、そのことを悟られないよう、平静を装って、首に下げたコカリナに目を向けた。
クラスメートとアミューズメント・プールに行った際に、ミスト・シャワーのある場所で使用して以降、先週、事故に遭いかけた少年を目撃した時と公園の猫を撫でる際にこの機能を使ったので、小窓のカウンターの数字は、『38』になっている。
「いま歌ってたのは、『雨に唄えば』だっけ? 小嶋の歌をフル・コーラス聞かせてもらえるなら、構わない」
冗談めかした口調で言うと、彼女は笑いながら答えた。
「それは気分次第かな?」
個人的には、つい先ほど、普段は見せることのない、あどけない表情で歌う彼女の姿を見られただけで、満足したという思いもある。
「わかったよ」
と、返答すると、彼女は微笑みを絶やさないまま、こちらに歩み寄り、再び『トカリナ』に触れ、無言でうなずく。
彼女の指先がコカリナと接触したことを確認して、表裏両面にある六つの穴をすべてふさぎ、吹口から息を吹き込んだ。
==========Time Out==========
目の前には、再び現実世界の枠を越えた光景が広がる。
雨音は止み、雨粒は空中で静止したままだ。
聴覚と視覚から得られる情報を通して、あらためて、目の前の同級生と自分だけが、この時、この瞬間、自由でいられるのだ、ということを実感する。
「坂井も、こっちに来ない?」
という彼女の言葉に誘われ、水滴が視界いっぱいに広がる世界に足を踏み入れる。
そのまま、二人で、ペデストリアンデッキを駅の方へと歩いていく。
雨に濡れた地面を踏む、パシャパシャという音以外に物音はない。
「静かだね。本当に二人だけの世界になってしまった感じ」
そう、つぶやいた彼女に、
(自分と同じ感想をいだいていたのか……)
と、親近感を覚えつつ、「あぁ、そうだな……」と同意する。
ショッピング・モールと駅のちょうど中間地点のあたりは、デッキの南北の景色を一望できる最も見晴らしの良い場所になっている。
雨模様の天候で、ただでさえボンヤリと煙っている上に、視界の全面に広がる雨粒のおかげで遠方を見渡すことはできないが、マンション群や駅前のカリヨンなど、いつも見慣れている風景が、幻想的な雰囲気をまとっているようすに思わず息をのみ、このまま、この景色を眺めていたいという気持ちにさせられた。
ペデストリアンデッキの手すり越しに、北側に広がる街並みを眺めながら、
「このまま、時間が止まったままだったら良いのに――――――」
と、つぶやくように言った彼女の口から、またも自分と同じ感想が漏れたことに驚きつつも返答する。
「あぁ、本当にな……」
今度は、彼女の方が、少し意外そうな表情をしたあと、問い返してきた。
「あれ? 坂井は、時間が停止している間は、居心地の悪い気分になるんじゃなかったっけ?」
「それは、もう慣れたよ。それに、小嶋と二人なら、自分ひとりだけが取り残されたような気持ちになることもないしな」
頬をかきながら答えると、しばらくして、
「ふ~ん、そうなんだ」
ニヤニヤと笑う表情とともに、そんな言葉が返ってくる。
そして、「前にも話したかも知れないけど……」と言ったあと、
「私は、時間が止まっているこのセカイのほうが、心地よく感じるんだよね。静かで―――落ち着いていて―――自分たちだけが自由になれるセカイなら、わずらわしい周りのことを考えなくて済むしね……」
そう続けて語って、今度はうつむきながら、少し寂しげに表情を崩した。
以前の会話のときも気になったが、小嶋夏海は、人間関係について、何か気掛かりなことがあるようだ。
その言葉と表情が気になったので、「そうか……」と、つぶやいたあと、彼女に語りかける。
「なぁ、もし、何か悩んでいることがあるなら……オレで良ければ、話しを聞かせてもらえないか? 世界の時間が止まっている間なら、他の誰かに聞かれたりしないしな」
オレの言葉に、隣に立つ同級生は、ハッとした表情になり、つぶやくように返答した。
「そう、だね……ありがとう。話せるようになったら聞いてもらおうかな?」
彼女の言葉にうなずき、「おう!」と、少し語気を強めて返事をする。
「うん」
彼女が小さく首をタテに振ったように見えた。
その仕草を確認し、いまは、これ以上、立ち入らないでおこうと、話題をかえることにする。
「雨の中の観察実験も、一定のメドは立ったってことで良いか? あと、小嶋のリクエストでやり残したことは……花火大会くらいか?」
そう問いかけると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「覚えててくれたんだ! プールにも行くことができたし、あとは大きな花火さえ観ることができたら、夏休みの思い出としては、思い残すことはないかな?」
「なら、近くで開催される花火大会の日程を確認しないとな! ネットで検索すれば、すぐに見つかるんじゃないか?」
根拠があったわけではないが、彼女を元気づけるように語りかける。
「うん……だと、イイけどね」
つられたように、苦笑を浮かべた表情は妙に印象的だった――――――。
=========Time Out End=========
その表情を目にするのとほぼ同時に、デッキの手すりに打ち付ける雨音が耳に入ってきた。
「もう、十分近くも時間が経ったんだ……」
小嶋夏海が、名残り惜しそうにつぶやく。
「なんだか、時間が経つのが早く感じたな」
そう返事を返すと、
「それだけ、私たちにとっては、大切な時間だったってことなのかもね―――」
と、彼女は応じたので、「あぁ、そうだな」と、同意する。
自分でも理由はわからないが、オレは、この実験のパートナーに少し近づけたような気がした。
(彼女のためにも、なんとしても、花火大会を観に行ってみたい! )
そう考えて、雨上がりの午後は、『夏休みの友』との交流を差しおいて、図書館の情報交流ルームで、夏休み中の近隣の花火大会についての情報収集を試みた。
しかし――――――。
長引いた大雨などの各地の花火大会は、のきなみ『中止』という告知がなされていた。
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