ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁

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第4章~⑨~

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==========Time Out==========

 数十発、いや、もしかすると、百発近い光の珠は、一斉に爆発し、一つに固まって、視界いっぱいに拡がり、強烈な閃光を放っている。
 直前まで聞こえていた爆音が止み、静寂に包まれた中で、まばゆいばかりに上空で輝き続けるその姿は、まるで、宇宙空間で巨大な太陽を見ているかのようだ。

「スゴい……間近で太陽を見ているみたい……」

 つぶやいた彼女の一言が、自分と同じモノだったことを、なんだか嬉しく感じた。

「トンデモない迫力だな……」

 思わず、同意するように感想が漏れる。

『私たちにしか見られない光景もある!』

 彼女は、確かにそう言ったが、それは、想像以上に圧倒的な光景だった。

「小嶋、ありがとう……」

 不意に、また、つぶやきが漏れた。
 その言葉に、小嶋夏海は、

「えっ!?」

と、反応する。

「いや、まさか、こんなにスゴい光景が見られるとは思ってなかったからさ……小嶋が、こいつの能力を使って、『打ち上げ花火を見てみたい』って言わなかったら、いまのこの景色は、見られなかっただろう?」

 祖父さんの形見を指さしながら、そう言うと、彼女は、「そっか、そうだね……」と言って笑ったあと、

「でも、それは、坂井が、私たちを花火大会に誘ってくれたからだよ……本当にありがとう」

穏やかな表情で、そう口にした。
 その表情を見ながら、

「いや、それなら、感謝は花火観賞会を企画してくれたカワタさんに、だな……今年は、ほぼ花火大会は開催されない状況だったから……」

と言って、ニヤリと笑う。
 こちらの表情が確認できたのか、彼女も、

「確かに、そうだね……」

微笑んで、同意した。

 そして、「ねぇ、せっかくだから、もう少し、話しをさせてもらってもイイ?」と、確認を取る。

「あぁ……」

と、短く答えると、小嶋夏海は、言葉を選ぶように、ゆっくりと語り出した。

「さっき、坂井は私のことを羨ましいと言ってくれたけど……私は、時間停止が起きている間、『周りから取り残されたみたいで不安になる』と感じることができる坂井の方が、羨ましかった……聞いてもらったとおり、ウチの両親は、私が小学校の高学年になった頃から、ずっと険悪な雰囲気でね……二人が家にいると、喧嘩ばかりで、本当に息が詰まりそうだった……去年から父親は、在宅勤務になったみたいなんだけど、家にいたくないのか、毎日カフェとかネット環境が整っているテレワーク用のホテルに出掛けて仕事をしてるみたいなんだよね。笑えるでしょ? どんだけウチの母親と一緒にいたくないんだって……そんな風だから、お互いに疲れたんだろうね。ついに別居することにしたみたい」

 彼女の独白に近い語り口に、無言で耳を傾ける。

「家の中が、そんな状態だったから、自宅にいても、心が落ち着くような状態じゃなくてね……でも、そんなこと、誰かに聞いてもらうことも出来ないし……学校でも、ユミコやユカみたいに家族仲が良い友達が、本当に羨ましかった。だから……どこか、壁みたいなモノを感じて、周りにイライラしてたのかも知れない」

「そうだったのか……」

「うん……でもね、この子、『時のオカリナ』で、時間が止まってる間は、周りのことを気にせずにいることができる。自由で、開放感があって、救われている気がする。静かで、豊かな時間が流れている気がするんだ。逆に言えば、私は、それだけ周りの目を気にしたり、にイラついていたりしたんだろうね……」

 自虐的な笑みで、自分の心境を語る彼女に、オレが掛けてやれる言葉はなかった。

「だから、坂井から、この子の能力に初めて気付いた時、家族の姿を見て、『このまま、永遠に周りの時間が動かなかったら、どうしよう』と不安になった、っていう話しを聞いて、『あぁ、坂井は心配できるくらい家族仲が良いんだな』って、羨ましく思ったよ。私なんて、家の中で、この子の能力が発動した時、いつも喧嘩ばかりで口うるさい両親の声が聞こえなくて、安心したもの」

 彼女は、そう言ってコカリナを指差しながら微笑むが、その表情は寂しげに見える。
 そして、真夏の太陽の何倍もの大きさに見える光の塊に照らされた、その顔を見つめながら、何も声を掛けられないでいるオレに、小嶋夏海は、穏やかな口調で語り出した。

「だから……だからね、自分が、自由でいられるこの時間をくれた坂井に、スゴく感謝してるよ。そりゃ、最初に坂井が突然目の前に現れて、無理やりマスクを外したことがわかった時は、『このオトコを社会的に抹殺してやろう』と思ったけど……」

 語り始めとはうって変わって、彼女らしいストレートな口調で、ジロリ――――――と、こちらを睨みつけたあと、おどけた仕草で肩をすくめる。

「そ、それは……本当に申し訳ない」

 謝罪の言葉を口にする以外、選択肢を持たないオレのようすを見て、彼女はクスクスと笑い、さらに、続けて語る。

「まぁ、そうして、本当に反省しているみたいだってことは、すぐにわかったし、私が一方的に突きつけた『契約』や勝手に進めた『実験』にも、付き合ってくれて……それに、私が欲しかったプレゼントも、この子の能力を使って、私がしたかったことも、全部、坂井が叶えてくれた……そして、夏休みの終わりに、こんな素敵な光景を見られて……」

「いや、それは、ほとんどが、コイツの能力のおかげだ……オレは、何もしてねぇよ……」

 謙遜ではなく、本心から、そう思う。そして、こう続ける。

「でも、小嶋が望むことなら、『何だって叶えてやりたい!』って、思うのは、本当だぜ」

 思い切って出た、その言葉に、小嶋夏海は、一瞬、目を丸くしたしたあと、

「大げさ……でも、そんな風に想ってたんだ……」

 そう、つぶやいてから、何かを振り払うかのように、数度、首を横に振り、これまで見た中で、一番優しく、穏やかな表情で語った。

「ありがとう。私は、この夏のことを、この目で見た色々な景色を、絶対に忘れないよ」

=========Time Out End=========

 彼女の言葉が終わるのと同時に、

 バ・バ・バ・ババ~ン
 パラ・パラ・パラパラパラパラ

と、大音響が鳴り響き、『トカリナ』の時間停止が終了したことを告げる。

 その音の方向に目を向ける小嶋夏海の面持ちは、何かが吹っ切れたように晴れやかだ。

 家族にも、友人にも告げられなかった自らの思いの丈を語り、なおかつ、涙ひとつこぼさない彼女の芯の強さに、あらためて、感じ入る。

『この目で見た色々な景色を、絶対に忘れない』

 数秒前に、彼女が口にした言葉を反芻しながら、夏休み最初のプールでの出来事や、大雨の日の幻想的な風景、そして、太陽の何倍もの大きさで夜空を照らした光の塊よりも、隣に立つ少女の表情を目に焼き付けておきたい、と強く思った。

『時よ止まれ、汝は美しい――――――』

 そして、彼女に教えてもらった『ファウスト』の一節を思い出す。
 美しい――――――という言葉の本当の意味を、この時、初めて理解できた気がした。
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