ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁

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第2章~⑭~

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 全員が集合時間に遅れずに集まったことで、八時〇二分発車の各駅停車に間に合った。

 それから、三つ先の駅で快速電車に乗り換える。夏休みと言っても、休日の早い時間帯とあって、乗り換えた列車の車両に乗客は少なく、六人全員の座席を確保することができた。

 康之たち四人が、ドア付近にある二人づつが向き合う形のクロスシートを占拠したので、オレは、小嶋夏海とともに、通路を挟んだ席の窓際に向かい合って座ることになった。乗り換える前よりも、お互いの距離が近くなったことと、四人と少し距離が出来たためなのか、目の前の彼女は、声のトーンを絞りながら、こんな提案をしてきた。

「ねぇ、坂井に相談と言うか、お願いがあるんだけど……プールにいる間、コカリナを私に預けてくれない?」

 突然の申し出に、少し驚きながら、素直に疑問をぶつける。

「ん? オレが持ってちゃ、マズいのか?」


「そうじゃないけど……男子は、プールサイドに小物入れなんて、持ち込まないでしょ? 坂井の水着には、ポケットが付いていなかったハズだし、プールにいる間、ずっとコカリナを首から提げているのも不自然じゃない?」

 言われてみれば、その通りだ。

 もちろん、着替えや貴重品とともに、更衣室のコインロッカーに預けておき、必要な時に取りに行って、使い終わったら元に戻しておく方法もある。コインロッカーは、施設の滞在中は何度でも荷物の出し入れが可能なタイプらしいので、タイミングを見計らって、プールサイドと更衣室を往復しても良い、とも考えたのだが……。

「コインロッカーに置いておいても良いけど、プールサイドと行き来するのも面倒だな……なら、小嶋に預けておくか」

 そう言って、オレは、ショルダーバッグから、『トカリナ』を取り出して彼女に手渡す。

「言っておくけど、一人で勝手に使わないでくれよ」

 冗談めかした口調で、念のためにクギを刺すが、小嶋夏海は

「坂井たち男子の対応に問題がなければね。何かあったら、時間を止めて、私たち三人だけで帰るかも」

 澄ました表情で、脅しとも、冗談ともつかないコトを言う。

(やっぱり、手元にコカリナを確保しておくべきだったか……)

 後悔しつつ、万が一にも、悪友二名(特に康之)が、規範から外れた行動を取らないように、と願わずにはいられなかった。

 ※

 目的地のアミューズメント・プールが隣接するマリンパーク駅には、開園時間の十五分前に到着することができた。

 入園口のメインゲート前には、開園間にも関わらず、すでに、数十人の家族連れ客らが並んでいる。

「お~、早めに来て正解だったな~」

と、話しかけてきた哲夫に、「確かに、これからヒトが増えてきそうだ」と同意する。

 連日続いている早朝からの強烈な陽射しに照らされること十数分、開園時間になりゲート前にいた人々が次々と園内に吸い込まれていく。スムーズに入場手続きを終えたオレたちは、ロッカールームに近い『トリトンの噴水』と案内図に書かれた場所で待ち合わせすることを約束して、それぞれの更衣室に向かった。

 十分足らずで着替えを終えたオレたち男子三人組は、強烈な陽射しの中、一定期間ごとに強烈に吹き上がる噴水を浴びながら、女子の到着を待つ。本来なら、チビっ子たち向けの場所なのだろうが、開園直後の時間帯ということもあってか、周りに小さな子どもの姿は、ほとんど見られなかった。

 時おり吹き上げてくる噴水と戯れている友人に、

「入場早々、テンションが高いな康之!」

と、声を掛けると、悪友は即答する。

「当たり前だ! 今日は、オレの中で夏休み二大イベントのうちの一つだからな!」

「二大イベント? 他にも、今日と同じくらい楽しみなことがあるのか?」

 気になったので、詳しく聞いてみると、

「あぁ、ココだけの話しだがな……」

と、声を潜めたので、そばにいた哲夫も、「お、なんだなんだ!?」と、近寄ってきて耳をそばだてる。
そして、鳩首凝議よろしく集ったオレたちを相手に、康之はささやいた。

「来月末、数年ぶりに『トキを止められる男は実在した』のDVDが発売されるんだ……。これを待望と言わずして、ナニを待望と言うのか!?」

 頭がクラクラした。容赦なく照りつける太陽の陽射しのせいだけでは、モチロンない。その発言のあまりのアホらしさに、めまいを覚える。それでも、すかさず哲夫がツッコミを入れるの聞き、安堵しかけたのだが……。

「はぁ……ナニを言い出すかと思えば……康之、のビデオは、九十九パーセントがヤラセなんだぞ! ちゃんと、を見極めてるだんろうな?」

 石川哲夫よ、オマエもか――――――。
 あまりに低レベルな会話に、卒倒しそうになりながら、ツッコミを入れる。

「オマエら、イイ加減にしろ! 時間を止められる人間なんて、存在するわけねぇだろ!? 時間を止めてるのは、あのオッサンじゃなくて、近くで動き回ってる犬の方だ!!」

「「な、なんだって~~~~~!!!!」」

 康之と哲夫は、揃って声をあげた。

「驚いたぜ……あのオッサンが時間を止める能力使いだと思いこんでいた」

 と、康之。

「しかし、時間停止の能力を持っているのは、あの犬の方だったと?」

 哲夫の言葉が続く。

「ああ……オッサンの方は、自分の能力だと勘違いしているようだがナ」

 オレは、冷徹に彼らに現実を叩きつけた。

「だが、犬には能力があっても、人間を動かすことが出来ない。だから、あのオッサンを選んだのか……」

 哲夫は、冷静に分析する。

「しかし、肝心のオッサンは、オンナに手を出すことしかしませんでしたってことか?」

 康之も、理解が追いついたようだ。

 二人の教養のなさには呆れるばかりだが、洞察力や頭の回転の速さには、一定の敬意を表したい。

 悪友二名が素直にうなずくのを眺めながら、世の中の《真理》を伝えることができた喜びに浸っていると、康之の口から、こんな質問が投げかけられた。

「ナツキ! いや、センセイと呼ばせてもらおう!! 時間停止系ビデオについて、もう一つ気になっていることを聞きたいんだが……」

「ン? どんなことだ?」

 調子を合わせて返答する。

「時間停止している最中に蓄積された快感が、停止解除された途端に襲ってくる現象は、実際にあり得るのか?」

「そ、それは……学会でも見解が別れているようだ――――――今後のさらなる研究と観察が待たれるところだ……」

「そ、そうか……世の中には、まだまだ解明されていない謎があるんだな」

 康之がつぶやき、哲夫もウンウンとうなずきながら言葉を続けた。

「ナツキ、また何か新しいことが判ったら、教えてくれ」

 そんな男子にしか出来ない哲学的かつ高尚な会話を終えたあと、ふと、

(康之の疑問を解くための実証実験を申し出たとしたら、小嶋夏海は、どんな反応を示すだろうか?)

と、想像してみる――――――。
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