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黒髪の異端審問官

黒髪の異端審問官(2)

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「失礼致します」

 入ってきたのは肩で切りそろえた黒髪に漆黒の瞳の、整った美しい顔立ちの男だ。詰襟の一番上まできっちりとボタンを留めた黒の神官服がよく似合っている。年はシャーレンより2、3上だろうか。異端審問官としては最年少だろう。平民出身というのに貴族が幅を利かせる大教会で、しかもこの若さ。まさに異例中の異例の人事だ。よほど切れ者で、かつ強力な後押しがあったのだろう。

 男は洗練された物腰で一礼した。

「お初にお目にかかります。この度、異端審問官の任を拝命いたしましたロゼス・ザナフェンドと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」

 異端審問の名のもとに、何が行われているのかをシャーレンは知っている。
 内心はともかく、シャーレンは微笑んでみせた。

「よく来てくれました。ロゼス。私が白の神官長を務めているシャーレン・フォン・エル・ディエンタールです。貴方の評判はきいています。期待していますよ」
「ありがとうございます」

 答えて、ロゼスは伏せていた目をあげた。
 まっすぐとシャーレンを射抜く漆黒の瞳。
 ぞくりと背筋を冷たいものが走る。

 敵意?
 いや、敵意というよりも、もっと――

 しかし、次の瞬間にはロゼスは上品な微笑を浮かべていた。その目の奥には何も感じられない。

「シャーレン様は白魔術については並ぶもののいない識者だと伺っております。ご指導のほどよろしくお願い申し上げます」


 ……気のせいだったのだろうか?
 シャーレンは微笑み返した。

「……周知の通り、私は多少本は読みますが、実際には術をはほとんど使えない未熟者です。ですが、必要な際は出来るだけのことは致しましょう。……クルド。ロゼスに白の宮を案内してさしあげなさい」

 クルドが一礼する。

「さあ、ロゼス様。こちらへ」
「――失礼致します」
やはり見とれるほど優雅な物腰で礼をして、ロゼスは部屋を後にしていった。

 足音が遠ざかるのを確認して、シャーレンはそっとため息をついた。

 あの感覚は気のせい、だったのだろうか。
 初対面の相手。
 憎まれる覚えもないのだけれど。

 しかし、相手は異端審問官。
 用心するに越したことはないだろう。

「……ロゼス……ですか」

 切れ者と噂の男。
 少し、やりにくくなるかもしれない――。
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