空が青ければそれでいい

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「………」
「………」
「………」
「何黙ってんの。名前言うたやんか」
「別に何もないけど…三年にお前みたいなんおったか?印象、全然あらへん」
ちょっとってか、かなり嫌味っぽく言うたった。
名前聞いても聞き覚えないし、三年って去年は二年やろ。ダブってなけりゃ。
結構、去年も二年生のお兄さん方に、一年のくせに生意気やなんて小学生みたいな難癖つけられてハルと派手に暴れた記憶あるけど、こんな奴、一回もお目にかかったことあらへん。
デカい上にこないに目立つ顔なら、尚更憶えとるはず。大体、東条ヤッたんも嘘なんちゃうんか。
マジでヤサ男とか。あの一瞬見せる猛獣の目も作りモンとか…。俺の気のせいとか。たまたま東条のアホが、どこぞのチンピラに絡んでやられたんかもしらんやん。
お前がヤったっていう証拠は、どこにあんねん。
「…誰が三年なん?」
色々、頭ん中で慣れへん試行錯誤してたら、風間龍大がアホな質問してきよった。
コイツ、まさかこの顔で天然か?
「…お前やん」
ワレ以外誰がおんねん。
「あ~」
何やねん、空なんか仰いで。学校の奴、みんながお前知ってる思うてんのか。
ちょっとイケメンやからって、調子のんな。って何で俺、コイツと仲良く屋上でフケてんの。
「あんな、俺さ、一年なんやけど」
ボーって風間龍大の隣で誰もおらん屋上見てたら、聞き間違いかと耳を疑う言葉。
一年?一年って何?
一年………。
「はぁぁあああ!!!!!!!!!?」
青空に飲み込まれた、俺のマヌケな声。
だって、何?一年て何?四月に高校生なったって言うん。こないだまで中学生やったって事?
そんな図体して、そんな態度で一年……。
「お前、ふざけんなよ!」
「ふざけるって…何なん?俺一回でも年上って言った?」
言うてへんよ。言うてへんけど、お前は雰囲気で言うてたんやて。
三年やて。
年上やて。
大体、何食ったらそないにデカなんねん。どうせ今だに成長してんねんやろ!
オマエもハルと同じ様に、ニコチンに負けんとスクスク空に向かって成長してんねんやろ。
俺なんか煙草も吸うてへんのに、身長なんかここ三年で3センチ。1年1センチってなんやねん!
中三から一気に延びるってハルが慰めにもならん言葉言うてたけど、結果3センチ。成長痛なんか、味わった事もあらへん。
夜に自分の成長する骨の軋む音で目が覚めるって、あんなん都市伝説くらい信用してない。
経験ないから。
そう言えば、煙草吸うてる人間より周りの煙吸うとる人間の方が健康被害デカイって、何かで聞いたな。
あのハルボケ、人の家でスパスパスパスパニコチン蒔き散らして、その健康被害が俺の身長ちゃうんか!
「なぁ、覚えてんの?」
「はぁ?何を覚えてへんねん」
俺は今忙しいねん!ニコチン健康被害や!ってか覚えてるって何や。
お前の一年っていう言葉で明らかに態度デカなる俺も俺やけど、態度デカなるちゅーねん。この世界、年功序列は大事やで。
年下は年下らしくしとったらいいねん。大体何でタメ口やねんコイツ。
「ちゃんと東条ヤッたやん。言うこと聞いてくれんねんやろ?等価交換」
コイツ…やっぱりアホや。ノータリンや。
涼しい顔して、何ごっつい事抜かしとんねん。言う事聞きますって、俺が一言でも”はい”って言うたか。
言うてしまえば、お前が勝手に東条とやり合っただけやんけ。
「お前、怪我人に何言うてんねん。言うこと聞くって俺に何さす気や」
パシリ?ストレス発散のサンドバック?金出せとか?どれもこれも言われそうやし、言われたらうざいなぁ。今怒りに任せて戦闘モード入れちゃう?
「何か構えてへん?」
無意識に構えた身体に気ぃついて、俺の顔を覗き込む。
ってか近いねん。顔が!お前の目、反則やし…。
多分、男の色香ってやつなんやろうけど、同性でもクラクラするわ。
女やったら、簡単に堕ちていくんやろな…。羨ましい。
「構えるやろ。俺、これ以上傷増えるん嫌やし」
頭打ったんかもしらん。東条がボカボカ殴るから、知らん間にガツンと…。
だからコイツにジーって見られて、不本意にも顔が赤なりかけたんや。俺おかしいねん。頭打ってん。
「傷って、殴られるとでも思ってんの?」
「金はないからな」
「金巻き上げると思ったん?」
「パシリは嫌や、肋痛いもん」
「俺、そんなん一回も言うてへんし。案外、自虐的か?」
シャーッて、マジもんの猫やったら絶対牙剥いてる。俺は猫やないから牙剥けん代わりに、裏拳。
でも容易く避けられて、“危な…“って。
ムカつく。
お前がなんや、言うこと聞け言うたんやないんか!?それを自虐的って何やねん!
「何なん。マジで猫やな」
「はあ!?」
あかん。ケガなんかどーでもいい。
肋なんかいっそのこと折れてまえ。
コイツ絶対殺いわす。
何でワレに猫扱いされないかんのや!さっきから、年上って思われてへんような感じする。年下は年下らしゅうしとれ!
あまりに頭来て、すぐ横にある暴言ばっかり吐きよる風間の襟を掴みあげる。立ったらかなりの身長差があっても、座ってる今なら大差あらへん。
おのれの牙、引っこ抜いたるわ!
「ガキが調子扱いて、誰に口利いとんねん」
「疲れへんか?」
「は?何を言うてんねん」
「敵やって決めてスイッチ入れて、片っ端から牙剥いて喧嘩して。昨日みたいに袋にされて疲れへんか?いつ休まんねん?」
視線逸らさんで、真っ直ぐ射抜く様に見つめられる。その瞳が何もかも見透かしてきそうな気がして、自分で動揺してんのが解る。
何やコイツ…何やコイツ…何やコイツ!何言うてんねん!
意味分からんて!
「闘っとかな、何かに潰されるんか?」
やめろ…。
「自分を奮い立たしとかな、真っ直ぐ立ってられへんねやろ?」
やめろ…って。
「何に怯えてんねん」
「やめんか!!」
殴るが早いか、言うが早いか、俺の拳は風間の頬に綺麗に入った。
「ええ加減にさらせ!お前何やねん!グダグダ訳わからん!」
一発じゃ足りん。腸煮えくり返る。
グツグツと音立てて、血液が沸騰しとる。風間の襟を掴みあげて、もう一発と思ったら、手が、でっかい手が俺の拳を包み込みよった。
乱れた前髪の隙間から覗く瞳は、間違えなく猛獣ー。
獲物の喉笛を噛み切らんばかりに、こっちを見据えとった。
ゾクリとした。喰われると…、直感で思った。
お互いの心臓の音が、ボリュームあげたみたいに聞こえてきそう。ドクドク、風間のが聞こえんはずやのに、聞こえてくる様な気がする。
「図星や」
先にその静寂を切ったのは風間やった。怒り狂ってる俺の熱とは違う、静かな、それでいて刺すような熱。
全てを見透かされるんちゃうかって思うくらいの、アイツの深い漆黒の瞳。
そこだけ時間止まったみたいな…。
目逸らせんままおったら、だんだんアイツの顔が近づいてきて、近いって言おうとした唇を何や柔らかいもんに塞がれた。目の前の長い睫毛。
え…?って襟首掴んでた手の力抜けて、いつの間にか膝立ちの俺の腰に回された手がグッと力入って、キスしてるってアホみたいに時間経ってから分かった。
抵抗するよな?普通。殴ってんで。しかも男やもん。
柔らかい胸もない、同じもん股間にぶら下げた男。
それにキスって…。
でも抵抗してへん。
出来ひん。
したない。
おかしい…こんな気持ちイイって…。
クチュッてやらしい音立てて離れた唇。
それを、離れんで欲しいなんて思った俺はどうかしてる。
独特の口紅の不味い味も、ベタベタ感もない。
それでいて心地良い時間。
ディープなんやのうて、ただ唇合わせただけでの軽いやつ。
そんなんだけやのに、めちゃゾクリとした。
ヤバいくらい。
いや、野郎とチュウした時点で痛い。でも…ちょっとフワフワした。
男とのチュウは初めてやけど、こないに気持ちええもんなん?ってか、チュウってこんなスゴいん?
ゾクってしてフワフワする、こんなええもんなん?
「エロい顔…血の味するわ」
風間がペロッと俺の唇舐めて、囁くみたいに言う。
自覚ある。絶対エロい顔してる。
「何やねん、お前。口の中切って痛いねん」
腰に回された手がまだ何かゾクってして、それ隠すみたいに唇を手で拭った。
何か殺いわしたるって思ったんも、戦意消滅って感じ。
そりゃあんな事されて、戦意なんかある訳あれへん。いや、普通はキレて殴るんかも。
でもあんなフワフワしてゾクッてしたら、戦意根こそぎ持っていかれた感じ。
「言うこと聞いてって言うたやん」
「言う事ってこれ?…何や、お前恋愛対象男か」
男前やのに勿体ない。そんな問題ちゃうかもしれんけど、下半身の欲望のままに女漁る俺からしたら羨ましい面構えしとんのに、当の本人が男にしか興味あらへんって…なぁ…。
「ちゃうよ。アンタやからや」
聞いた瞬間殴った。消えた戦意一気に溢れ出た感じ。
だっておかしいやろ!?俺やからってどういう意味やねん!いくら女みたいなツラしてても、俺にそっちの趣味はない。考えた事も無い。
そりゃ、ちょっとドキッてした。コイツの顔とか仕草とか認めた無いけど、すげー男前や。
だからって、よろしく願いしますなんてケツ差し出すかい!!!!
「イタ…」
「何やねん!嫌がらせかお前!」
「なんで?」
なんで?聞き返すなよ。何やねんな。"アンタやから"って女顔を気にしてる俺に、お前は上等な喧嘩売りよったんやろ。
売られた喧嘩買うがな。
「オマエ、やっぱりムカついた。人おちょくるんも大概にせぇよ」
喧嘩買いますよ。今すぐガチで勝負や。
「おちょくってへんし」
真顔で言われても、説得力のかけらもあらへん。混乱しとるんは俺やし。
どう見ても三年の面構えが、実は一年。等価交換が、チュウ。しかも、ヤバいチュウ。
「はぁぁぁ…」
何か盛大に疲れて、溜め息。相変わらず腰に回された手を解いて、臨戦態勢を崩した。ってか崩れた。
こないな訳分からん男にヤられた東条が、情けない。
「オマエ…変やわ」
「そうか?」
「変。かなりヤバいレベル」
「……」
そっからは何も話さんかった。ただ、何か居心地良ーて、天気いいしで気がついたら寝てた。
人おったら寝れん俺が熱もないのに人の隣で寝て、めちゃくちゃ気持ちいい居心地。
たまに鼻をかすめるフレグランスが、更にいい。デカい手が頭撫でてきて、顔に出来た痣を労るように撫でてくる。
何や、人の胡座の真ん中で丸なってる猫みたいに、身許してた。目が覚めた時は奴の膝枕。
あり得ん現実に固まる俺に、「寝顔…喰ったろうか思った」ってあり得ん一言。喰われてたまるか!と屋上を飛び出した。

若いって良いな。
あれだけ折れてる思って床這い蹲ってた感じの肋も、微妙マシになってきた。若さ故?若さ故でも、やっぱり肋はあかんて。
教室戻ったらいつもの喧噪。あちこち見慣れた顔が面そろえて、次誰ヤったろかみたいなんを模索してる顔。俺もこんな顔しよるんやろか。
血に飢えてるっていうより、愛情に飢えてる奴らが与えられん愛情を求めて暴れ狂う。俺も愛情に飢えてるんかな。
一時間だけのはずが、ちゃっかり昼まで野郎の膝枕で爆睡。
あり得ん。疲れてたんや、せや疲れてたからや。じゃないとあり得ん。
「威乃、お前どこ行っとってん」
教室に帰ってきた俺を見つけて、ハルが寄ってくる。
一時間が昼休みまでフケて、寝てる時に何度かメールが入ってた。
“どこにおんねん”
屋上に探しに来られんかっただけ幸い。あないな姿見られたら、もう死ぬしかなくなる。
「何か…寝てた。あ、ハルさ、風間龍大って知ってる?」
「お前、まさか会うたんか?」
何その反応。知ってる?の答えにならんやんか。
「何や知ってんのか」
ハルみたいに二年の頭やってる奴は、ただ者やないアイツはチェック済みなんやろうか。世間知らずは俺だけか。
「会うたんか?喧嘩か?」
「ちゃうちゃう、ちょっと名前知っただけや」
言われへん、お姫様抱っこにチュウに膝枕。知られたら死ぬ。プライドがズタボロなる。
「あいつはやめとけ。知る必要ない」
妙に真剣な顔して言うハル。何なん?アイツただの訳わからんノータリンやで?なんて言えるわけなく、言える雰囲気やのーて、窓から見える青空に視線移した。
相変わらずどこまでも繋がる青空。これ、地球の裏っかわとも繋がってるってスゴない?
「威乃、飯」
俺のアホみたいな妄想打ち切る、ハルのそっけない言葉。コイツにそんなん言うたら、鼻で笑われそうや。

空が云々なんて。
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