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ハルと二人で食堂向かって歩いてたら、遠くで悲鳴が聞こえた。それがこの学校の常時とは言え、悲鳴の多さが普通やない。
ガラスの割れる音も、何か倒れてる音もする。久々のクソ派手な揉め事ってこと。
それにハルと顔見合わせて、野次馬決定。暇つぶしの、楽しいもん見つけた顔して駆けだした。
騒ぎは一年の階からで、すでにアホほど人だかり。
それをハルが「どけ」と言うと、ハルの顔を見た奴らは”名取や…”と言い、ヤバいとばかりに道を空ける。
お前はヤクザか…とは思ったけど、その後ろについて行けば良いだけやから、ラクはラク。
野次馬の消えた中央の、そこだけポッカリ穴開いたみたいに人のおらんとこに、騒ぎの根源があった。
廊下やのに、机が横倒しで転がってる。教室から放り出されたらしい。
あちこちに血が飛び散ってて、窓も割られて破片が散らばってキラキラ光っとる。かなりキてんな~と、他人事の様に見てまう。
ぐちゃぐちゃの惨状の中、何人かがまだ暴れとった。
「うわ~やり過ぎやん。これやったら生指の教師どもも出てこなしゃーないな」
ハルの横で腕組みなんかして、高みの見物しながら呑気に言うてたら、チラリと見えた。
見間違いやない。あんな目しとる奴、一人しかおらん。
風間龍大。
周りの奴らは顔もすでに俺以上にボコボコやのに、風間は顔にかすり傷一つあらへん。鼻息荒らして、どうにかして殺したると言わんばかりの奴らを、見た事も無い冷めた瞳で見下ろしてた。
お前の本当はそれか?
血まみれの顔で、殺気剥き出しで風間を睨みつける奴らには、見覚えのある奴ら。あれは、昨日俺の事をぐちゃぐちゃにした、金魚のフンやないか。
すでに昨日の俺みたいに、いや、俺以上にぐちゃぐちゃ。その周りには起き上がれんようになった奴らが、ゴミみたいに転がってた。
東条の御礼参りという名目で風間に因縁つけたんやろうけど、反対に返り討ち喰らってる。
流石金魚のフン。ようさん連なって来たんやなぁ…。
「…アイツ」
ハルがボソリと呟いたが、そんなんどーでもいい。
アイツは誰や?あれが風間龍大の本当か?
屋上でさっき逢った、風間の目とはまるで別人。冷血、冷酷、そんなんしか醸し出さん冷たい目。
鋭くて、目だけで人殺しそうな…。今かて、自分がボコボコにしとる相手を前にして、何の躊躇もない。
背中に嫌な汗をかいた。
きっと喧嘩したことある奴は解る、あの双眸。拳交わせるなら、いつでも死ぬ覚悟の目。
「ざけんな!何さらしてくれとんじゃ!」
風間に向かって、牽制するみたいに怒鳴る声。アイツ三年や。一回俺に、因縁つけてきた奴や。
ギャラリーも集まって、引くに引けんって感じなんやろな。
吠えてるけど、向かっていこうとはせん。いや、動けんのや。
風間が目だけで言うてる。動くなって。
そんな風間の後ろから鉄パイプ片手の男が、風間目掛けて鉄パイプを振り下ろした。道具使うなんて卑怯極まりない。悲鳴があがる。
顔を覆う奴も居てるけど、後ろに目ついてんのか全てお見通しなんか、風間は軽く身を翻した。
鉄パイプは風間に当たることなく、カンッて高い音がして、かったいコンクリの床殴った。
両腕に電気と痺れが走ったソイツは、声にならん声あげて風間を睨んだ。風間はそんなソイツの顔を、躊躇いも迷いもなく蹴り上げた。
血が弧を描きながら舞い、あちこちから悲鳴が飛び交う。任侠映画でも観てるみたいな、リアルな残酷。
誰一人、止めに入る奴はおらん。止めれる訳が無い。
目の前におるんは牙剥き出した、猛獣—————。
一人残された三年。よーさん連れてきた仲間は、もう動けん。
風間は転がってる鉄パイプを拾い上げた。
「使います?」
表情の全くない顔で差し出された鉄パイプ。
差し出された相手は、自分が今からどうなるんか、どこまでされんのかの恐怖から大量の汗をかいていた。
「せやから、やめときましょって言うたでしょ」
俺に勝てるはずがない、忠告したやないですかって事か。そないな事言われて、ほな止めときますわ。なんか言う奴はおらん。
相手を見下ろす風間の顔は、整った顔も手伝って無慈悲さが際立ってる。今更ごめんなさい言うたところで、無事に帰れる訳がない。
拳で相手が自分に敵わんの解ってるから、鉄パイプを差し出しとるんや。そうしたら、思う存分叩きのめす口実になる。
得物持ってたからっちゅう、真っ当な理由。
「どないすんねん」
何も言わん相手にイラついたんか、風間の口調が変わった。
もう戦意なんか相手にはあらへん。あるんは恐怖だけや。
こっから見ても解る。小刻みに体が震えとる。
「…アイツ…殺されんぞ」
隣におったハルが、誰に言うわけでもなく呟いた。
喧嘩売って、相手強すぎて、一人残って、怖いから許してなんて喧嘩売られた相手からしたら腹立つ。
「はぁ、やる気ないんやったら、死ね」
風間はそう言って、鉄パイプを振りかざした。
——————————あかん…!
「風間ぁ!!!!!!」
気ぃついたら叫んでた。風間は掲げた腕をピタリと止めて、俺を見た。
ゾクリとした。標的が俺に変わったみたいな。
血に飢えた獣が、睨みつけてきてる。牙剥き出して。
「………」
視線を外した風間は、もう一度相手を見据えた。ソイツは顔を腕で覆って、情けないくらい震えてる。
風間はそんなソイツにため息をついて鉄パイプを床に転がすと、背を向けてスタスタ歩いて消えた。
その瞬間に、一気にその場から緊張が解ける。
今頃になってやってきた教師が周りに転がってる奴らを抱えて、斎藤先生呼べと叫んでた。
今日はよーさん病院送迎やな、斎藤。
「威乃、どーいう事や。風間知ってるんか」
しもうた…と思っても、もう遅い。ハルが怖い顔してこっち睨んでた。
「名前知ってただけやん。呼んでみただけ」
「そんなんで、あの風間が止めたんやぞ」
名前呼ばれて止めた。知らん奴に…は、通らん?
だって、お姫様抱っことチュウと膝枕やもん。言いとうない。
「やる気のーなったんやて」
無理矢理にでも納得してくれ。
「隠すんか」
「隠してない」
隠してるけど、言いとうない。
「………」
「…ハルが…風間と知り合いちゃうんか」
風間の名前聞いた時の、ハルのあの顔。何かある。お前は言わんくせに、俺には言わせるんか。
そんな顔したハルは、チッと軽く舌打ちして風間の去った方向を見た。
今は後片付けの教師とか、まだ散らん野次馬でごった返しとる。そんな光景を見ながら、ハルは俺に一言、信じれん言葉を吐いた。
「風間は、アイツは人殺したんや」
え…?
食堂の飯はすこぶるマズい。カレーなんてコクもなければ、サラサラと水のようなルー。どんだけ薄めてんねん。
具も、米粒と大差ないくらいの大きさ。そんなカレーを食いながら、目の前で同じ様にカレーを食うハルを見た。
“人殺したんや”
ハルの言葉に動揺してた自分がおった。
何でやろ?怖い?やっぱり?いや違う。
あの鋭い目の内に隠された、縋るようなもう一つの目。あれの正体を見たような気したんや。
「やっぱり肋イタイ…」
「何や、まだ痛いんか」
当たり前や。肋やぞ、肋。
「俺、午後もフケる」
「お前どこにおんねん、さっきも」
「ん?…秘密や秘密」
アホかと言うハルに手振って、また屋上に向かう。確信持って。
「やっぱりおった」
屋上のドア開けたら、でっかい図体が寝転がってた。陽も高なってて、かなり暑い。
風間は片眉を器用にあげて、俺を見た。まるで、ここに来たのが気にいらんみたいな顔。
「何やねん?ここはもとは俺のフケる場所やってんぞ」
そんな風間の横に座って、同じ様に寝転がる。コンクリが陽に焼かれて、ジリジリ熱い。
ステーキの気持ちが、ちょっとわかった。
「もう来んと思ってたから」
風間が、青い空に目ぇ向けて言う。
ほら、やっぱり縋るような目。さっきとは明らかに別人や。
「お前な、さっきのはやり過ぎやぞ」
「あんたが止めてくれて助かった」
止めんかったら脳天かち割ってたんか?
「あんたやないぞ、秋山先輩や」
「聞きたない」
はい?何て言った?
一瞬自分の耳疑った。聞きたないって言った?
「オマエ、喧嘩売ってんの?」
「ちゃう…名前聞いたらもっと知りたなるやん」
知りたなるって何を?
顔に出たんか、風間がまた片眉をあげてこっちを見た。
癖なんか?
「…名前聞いたら色々知りたなるやん」
「自分は名前名乗ったやんけ」
「知っといて欲しいから」
何なんその理由。
自分は知りたないけど、自分のは知っとけみたいな。ワガママ。
言うこと聞け言うたりキスしたり、俺のこと知りたないとか言うたり。
「秋山威乃や、秋山威乃先輩」
オマエの聞きたないなんて要求、誰が聞いたるか。名前名乗った瞬間、言いやがったみたいな顔して風間は俺を睨む。
反対に俺は、言うたったみたいな顔。
「威乃?…変わった名前やな」
「猪鹿蝶から取ったんやて。適当やろ」
ばばあの一番の絵札らしいけど、そないな名前つけられたこっちの身にもなれ。この名前で得したことなんかあらへん。
名前だけで女やと判断され、顔見ても女やと言われ、それが原因で喧嘩に発展した小・中学時代。
今かてからかわれる良いネタや。
「威乃って呼んでええ?」
「…嫌じゃ」
即答。
俺が嫌がってんのに、ハルも彰信もそう呼びよる。二人が”威乃”って呼んでも初めは返事せんかったけど、根気負け。
街の真ん中で二人してデカい声で、威乃、威乃、叫ばれたら観念するしかあらへんかった。
熱いコンクリで二人して寝転がって、目閉じてたらマジで焼き豚なる。ジュージューとええ音立ててきそうや。
夏が目前。ここもそろそろ控えな、死ぬな。
そんな事思ってたら、フッて影が出来た。何やと思って片目開けたら、風間のドアップ。
「…お前、近いねん」
男に顔近付けられたら、かなり気持ち悪いよな。女にかてこないに接近されたらマスカラ落ちて微妙に目の下黒いとか、唇カサカサに無理矢理口紅塗ってるとか色んなとこに目行く。
それに、自分もなんかチェックされとるんやろか?と思ってまうし。
でも、風間は違う。同じ男やのに、気持ち悪いとか全然思わん。
それに、チェックしとるとかやない。喰う気満々って感じ。鋭い目で獲物捕らえて離さん。
彫刻みたいに通った鼻とか感情薄そうな唇とか、整ってるくせに感情を表に出さんから冷たさが増す。
そんな顔を近付けられてどこ見たらいいんか解らんで、目ぇ逸らすしかなくなる。
「…ちょ、マジで退けって」
不覚にも鼓動速なって、風間の胸を押した。その手を軽く捕られて、完璧押し倒されてる格好の俺。
「風間!」
めちゃくちゃ動揺してんのは、何されるか解るから…?
ガラスの割れる音も、何か倒れてる音もする。久々のクソ派手な揉め事ってこと。
それにハルと顔見合わせて、野次馬決定。暇つぶしの、楽しいもん見つけた顔して駆けだした。
騒ぎは一年の階からで、すでにアホほど人だかり。
それをハルが「どけ」と言うと、ハルの顔を見た奴らは”名取や…”と言い、ヤバいとばかりに道を空ける。
お前はヤクザか…とは思ったけど、その後ろについて行けば良いだけやから、ラクはラク。
野次馬の消えた中央の、そこだけポッカリ穴開いたみたいに人のおらんとこに、騒ぎの根源があった。
廊下やのに、机が横倒しで転がってる。教室から放り出されたらしい。
あちこちに血が飛び散ってて、窓も割られて破片が散らばってキラキラ光っとる。かなりキてんな~と、他人事の様に見てまう。
ぐちゃぐちゃの惨状の中、何人かがまだ暴れとった。
「うわ~やり過ぎやん。これやったら生指の教師どもも出てこなしゃーないな」
ハルの横で腕組みなんかして、高みの見物しながら呑気に言うてたら、チラリと見えた。
見間違いやない。あんな目しとる奴、一人しかおらん。
風間龍大。
周りの奴らは顔もすでに俺以上にボコボコやのに、風間は顔にかすり傷一つあらへん。鼻息荒らして、どうにかして殺したると言わんばかりの奴らを、見た事も無い冷めた瞳で見下ろしてた。
お前の本当はそれか?
血まみれの顔で、殺気剥き出しで風間を睨みつける奴らには、見覚えのある奴ら。あれは、昨日俺の事をぐちゃぐちゃにした、金魚のフンやないか。
すでに昨日の俺みたいに、いや、俺以上にぐちゃぐちゃ。その周りには起き上がれんようになった奴らが、ゴミみたいに転がってた。
東条の御礼参りという名目で風間に因縁つけたんやろうけど、反対に返り討ち喰らってる。
流石金魚のフン。ようさん連なって来たんやなぁ…。
「…アイツ」
ハルがボソリと呟いたが、そんなんどーでもいい。
アイツは誰や?あれが風間龍大の本当か?
屋上でさっき逢った、風間の目とはまるで別人。冷血、冷酷、そんなんしか醸し出さん冷たい目。
鋭くて、目だけで人殺しそうな…。今かて、自分がボコボコにしとる相手を前にして、何の躊躇もない。
背中に嫌な汗をかいた。
きっと喧嘩したことある奴は解る、あの双眸。拳交わせるなら、いつでも死ぬ覚悟の目。
「ざけんな!何さらしてくれとんじゃ!」
風間に向かって、牽制するみたいに怒鳴る声。アイツ三年や。一回俺に、因縁つけてきた奴や。
ギャラリーも集まって、引くに引けんって感じなんやろな。
吠えてるけど、向かっていこうとはせん。いや、動けんのや。
風間が目だけで言うてる。動くなって。
そんな風間の後ろから鉄パイプ片手の男が、風間目掛けて鉄パイプを振り下ろした。道具使うなんて卑怯極まりない。悲鳴があがる。
顔を覆う奴も居てるけど、後ろに目ついてんのか全てお見通しなんか、風間は軽く身を翻した。
鉄パイプは風間に当たることなく、カンッて高い音がして、かったいコンクリの床殴った。
両腕に電気と痺れが走ったソイツは、声にならん声あげて風間を睨んだ。風間はそんなソイツの顔を、躊躇いも迷いもなく蹴り上げた。
血が弧を描きながら舞い、あちこちから悲鳴が飛び交う。任侠映画でも観てるみたいな、リアルな残酷。
誰一人、止めに入る奴はおらん。止めれる訳が無い。
目の前におるんは牙剥き出した、猛獣—————。
一人残された三年。よーさん連れてきた仲間は、もう動けん。
風間は転がってる鉄パイプを拾い上げた。
「使います?」
表情の全くない顔で差し出された鉄パイプ。
差し出された相手は、自分が今からどうなるんか、どこまでされんのかの恐怖から大量の汗をかいていた。
「せやから、やめときましょって言うたでしょ」
俺に勝てるはずがない、忠告したやないですかって事か。そないな事言われて、ほな止めときますわ。なんか言う奴はおらん。
相手を見下ろす風間の顔は、整った顔も手伝って無慈悲さが際立ってる。今更ごめんなさい言うたところで、無事に帰れる訳がない。
拳で相手が自分に敵わんの解ってるから、鉄パイプを差し出しとるんや。そうしたら、思う存分叩きのめす口実になる。
得物持ってたからっちゅう、真っ当な理由。
「どないすんねん」
何も言わん相手にイラついたんか、風間の口調が変わった。
もう戦意なんか相手にはあらへん。あるんは恐怖だけや。
こっから見ても解る。小刻みに体が震えとる。
「…アイツ…殺されんぞ」
隣におったハルが、誰に言うわけでもなく呟いた。
喧嘩売って、相手強すぎて、一人残って、怖いから許してなんて喧嘩売られた相手からしたら腹立つ。
「はぁ、やる気ないんやったら、死ね」
風間はそう言って、鉄パイプを振りかざした。
——————————あかん…!
「風間ぁ!!!!!!」
気ぃついたら叫んでた。風間は掲げた腕をピタリと止めて、俺を見た。
ゾクリとした。標的が俺に変わったみたいな。
血に飢えた獣が、睨みつけてきてる。牙剥き出して。
「………」
視線を外した風間は、もう一度相手を見据えた。ソイツは顔を腕で覆って、情けないくらい震えてる。
風間はそんなソイツにため息をついて鉄パイプを床に転がすと、背を向けてスタスタ歩いて消えた。
その瞬間に、一気にその場から緊張が解ける。
今頃になってやってきた教師が周りに転がってる奴らを抱えて、斎藤先生呼べと叫んでた。
今日はよーさん病院送迎やな、斎藤。
「威乃、どーいう事や。風間知ってるんか」
しもうた…と思っても、もう遅い。ハルが怖い顔してこっち睨んでた。
「名前知ってただけやん。呼んでみただけ」
「そんなんで、あの風間が止めたんやぞ」
名前呼ばれて止めた。知らん奴に…は、通らん?
だって、お姫様抱っことチュウと膝枕やもん。言いとうない。
「やる気のーなったんやて」
無理矢理にでも納得してくれ。
「隠すんか」
「隠してない」
隠してるけど、言いとうない。
「………」
「…ハルが…風間と知り合いちゃうんか」
風間の名前聞いた時の、ハルのあの顔。何かある。お前は言わんくせに、俺には言わせるんか。
そんな顔したハルは、チッと軽く舌打ちして風間の去った方向を見た。
今は後片付けの教師とか、まだ散らん野次馬でごった返しとる。そんな光景を見ながら、ハルは俺に一言、信じれん言葉を吐いた。
「風間は、アイツは人殺したんや」
え…?
食堂の飯はすこぶるマズい。カレーなんてコクもなければ、サラサラと水のようなルー。どんだけ薄めてんねん。
具も、米粒と大差ないくらいの大きさ。そんなカレーを食いながら、目の前で同じ様にカレーを食うハルを見た。
“人殺したんや”
ハルの言葉に動揺してた自分がおった。
何でやろ?怖い?やっぱり?いや違う。
あの鋭い目の内に隠された、縋るようなもう一つの目。あれの正体を見たような気したんや。
「やっぱり肋イタイ…」
「何や、まだ痛いんか」
当たり前や。肋やぞ、肋。
「俺、午後もフケる」
「お前どこにおんねん、さっきも」
「ん?…秘密や秘密」
アホかと言うハルに手振って、また屋上に向かう。確信持って。
「やっぱりおった」
屋上のドア開けたら、でっかい図体が寝転がってた。陽も高なってて、かなり暑い。
風間は片眉を器用にあげて、俺を見た。まるで、ここに来たのが気にいらんみたいな顔。
「何やねん?ここはもとは俺のフケる場所やってんぞ」
そんな風間の横に座って、同じ様に寝転がる。コンクリが陽に焼かれて、ジリジリ熱い。
ステーキの気持ちが、ちょっとわかった。
「もう来んと思ってたから」
風間が、青い空に目ぇ向けて言う。
ほら、やっぱり縋るような目。さっきとは明らかに別人や。
「お前な、さっきのはやり過ぎやぞ」
「あんたが止めてくれて助かった」
止めんかったら脳天かち割ってたんか?
「あんたやないぞ、秋山先輩や」
「聞きたない」
はい?何て言った?
一瞬自分の耳疑った。聞きたないって言った?
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「ちゃう…名前聞いたらもっと知りたなるやん」
知りたなるって何を?
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癖なんか?
「…名前聞いたら色々知りたなるやん」
「自分は名前名乗ったやんけ」
「知っといて欲しいから」
何なんその理由。
自分は知りたないけど、自分のは知っとけみたいな。ワガママ。
言うこと聞け言うたりキスしたり、俺のこと知りたないとか言うたり。
「秋山威乃や、秋山威乃先輩」
オマエの聞きたないなんて要求、誰が聞いたるか。名前名乗った瞬間、言いやがったみたいな顔して風間は俺を睨む。
反対に俺は、言うたったみたいな顔。
「威乃?…変わった名前やな」
「猪鹿蝶から取ったんやて。適当やろ」
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名前だけで女やと判断され、顔見ても女やと言われ、それが原因で喧嘩に発展した小・中学時代。
今かてからかわれる良いネタや。
「威乃って呼んでええ?」
「…嫌じゃ」
即答。
俺が嫌がってんのに、ハルも彰信もそう呼びよる。二人が”威乃”って呼んでも初めは返事せんかったけど、根気負け。
街の真ん中で二人してデカい声で、威乃、威乃、叫ばれたら観念するしかあらへんかった。
熱いコンクリで二人して寝転がって、目閉じてたらマジで焼き豚なる。ジュージューとええ音立ててきそうや。
夏が目前。ここもそろそろ控えな、死ぬな。
そんな事思ってたら、フッて影が出来た。何やと思って片目開けたら、風間のドアップ。
「…お前、近いねん」
男に顔近付けられたら、かなり気持ち悪いよな。女にかてこないに接近されたらマスカラ落ちて微妙に目の下黒いとか、唇カサカサに無理矢理口紅塗ってるとか色んなとこに目行く。
それに、自分もなんかチェックされとるんやろか?と思ってまうし。
でも、風間は違う。同じ男やのに、気持ち悪いとか全然思わん。
それに、チェックしとるとかやない。喰う気満々って感じ。鋭い目で獲物捕らえて離さん。
彫刻みたいに通った鼻とか感情薄そうな唇とか、整ってるくせに感情を表に出さんから冷たさが増す。
そんな顔を近付けられてどこ見たらいいんか解らんで、目ぇ逸らすしかなくなる。
「…ちょ、マジで退けって」
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