愚者の門番、賢者の聖杯

春森夢花

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七日後③

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白い蛇のような化け物の体は応接室の扉の中から伸びていた。あそこに何があるのか確かめてみたかったがとにかくジモンが固く握っている聖杯をゆっくり受け取り机に置くと、混乱しているジモンの目を掌で拭うと、うっすらとジモンの瞼が開いた。俺の姿を見て、再び身震いをする。それから、「うっ」と呻いて頬を膨らませたので咄嗟にジモンの口を押さえる。

「吐いちゃいけない」
「んうう」
「いいから飲み込むんだ。また、化け物が「こぼすな」って言いに来ますぜ」
「……んう……!」

ジモンが睨みつけるが俺の言葉は伝わったようだ。えづきながらも逆流した物を飲み込む。ジモンの口に手を添えたまま、さてどうするかと考えた所でどさり、とジモンの体が床に崩れ落ちた。

ジモンを宙づりにしていたこいつのケツに穴の中に入っている化け物の力が抜けたのだ。化け物はそのまま本物の太いロープかチューブのようにだらしなく床に転がっている。

もちろん、化け物の頭部はジモンの中だ。やれやれ、俺はこいつのケツの穴ばかり見ている、とうんざりしながらも黒い袈裟のような裾をめくり上げたところで背後でごとり、と音がした。

振り返ると、日本式のタオルと、男根の形をした白い化け物の頭部が俺のすぐ傍に置いてあった。それだけ見れば石膏で作ったディルドの様だ。

七日前に化け物の一匹が言っていた言葉を思い出す。

「これからは、お前があの男を塞ぐ。神からの頂き物を漏らさないように、塞ぐ。儀式の後はお前が面倒を見る」

とすると、あれはあの時の化け物の死骸と思って間違いないだろう。

俺がジモンの穴から取り出して放り出した後、すぐに消えたから無くなったと思ったが。

「まさか取っておいたとはね……。どうやらこいつらは幻じゃあ、なさそうだ……。やれやれ、旦那ァ。疲れている所、申し訳ありませんがね。もう一仕事しなくちゃならない。あんたの尻の中に埋まってるそれを取り出してこの白いブツで神の酒が漏れないように塞ぐんですってよ」
「ふ、ふざけるな!どうして、そんなことを」
「旦那はこの前言っていたじゃないですか。神様は俺を作り替えるんだって。だから、必要な事なんでしょうよ、これは」
「だが……」
「アタシは止めましたぜ、だけど強引に行くと言ったのは旦那じゃありませんか。……どっちにしても、アンタの中に埋まってる……白い生き物を取らなきゃここから出ることも出来ないですし、きっとそれを抜けばこの前みたいにドバッと液体がでる。アタシが言わなくてもそうなりゃどうなるか、身に染みて解っているんでしょうが。俺だってできればしたくはないね、こんなこと」
「う……うう」

ジモンが泣きながら俺に頼む。

「頼む、取ってくれ、ときたまこいつが中で動いて……怖いんだ、奥まで潜って腹を破られそうで……!それに、それに……え、液体が……入っている……!頼む、クドウ、取ってくれ……」
「解ってますよ、だから大人しく四つん這いになって尻をこっちに向けてくださいませんかね」

腹立たしい気持ちになっている俺が慇懃無礼に物を言えば、唇をかみしめて恥辱に耐えながらお前に従ってやるとでも言いたげな顔で俺に尻を向けた。が、俺は別にそういう趣味もなければ、やりたくてやっている訳でもない。どちらかといえばやめておいたほうがいいと言ってやったのに、意気揚々と神の門に入ってやっぱり同じことを繰り返した大バカ者の尻ぬぐいをしてやっているのだ。まったく報われないね、と思いながらタオルで手を包み、ジモンのケツの穴にずっぽりと入っている化け物の細長い胴体を掴み、ぐっ、と引き抜こうとすればジモンが呻く。仕方がないので強めに力を入れるとジモンが待て、と喚いた。

「ま、待て、痛いだろうが……、もっとゆっくりやれ!」
「そうは言っても旦那ァ……ちっとも抜けないじゃありませんか。多少はあんたもリキむなり、体の力を抜くなりして協力してくださいよ。大体……どうしてこうなっているんです?あの扉の向こうででいったい何をされているんです?」
「それが……覚えていないのだ」
「覚えていない?」
「解らん……あの部屋に入ると俺は、意識がなくなるような……それでいてなにかを、だれかに言われた気がするのだ。【作り変える】だとか【賢者の役目を果たせ】だとか。そして目が覚める前に体の違和感に気が付く。あの白い化け物……いや……神の使いに体のうちまで侵入はいりこまれて……俺は神の酒を注がれる。クドウ……なぜ、俺はそれだけのことをされても、強くなれないのだ……?俺には資格がないのか……?皆は人間離れした力を手に入れているというのに。俺と来たら、見ろ!まるで家畜のように化け物にし、尻の中にねじ込まれ、訳の分からない液体で体内を満たされている、それでも弱い俺は、俺はなんなんだ」
「だから、止めておけといったじゃないですか」
「止めれる訳がないだろうが!俺は……、王だぞ!一滴飲めば誰でも超人になれる神の力がそこにあるのだぞ、それを手に入れなくてなにが、国の王なのか!」
「……じゃあお聞きしますがね。次はあるんですか?」
「……なんだと」
「次があるとしたら。旦那はまた自分を犠牲にしてでも神の酒を貰いにくるんですか?まだ、数百人分しか神の酒、ないじゃないですか。次にあんたが言う神様が、神の酒を取りに来いと言ったらあんたはまた、ここに来るんですかい?」

俺が率直に聞くと、ジモンは動きを止めた。そして何度か何かを言いかけたけれど、口をつぐんでしまった。

おそらく、「もちろん、行くさ」と言いたかったんだろう。

だが、それよりも恐怖が勝ってしまったのだ。ジモンは黙って俯いた。そして、静かに首を横に二回振った。

だから俺も言ってやった。

「アタシもそう思いますよ。これは……やりすぎだ。まあ……本当はアタシがこんなことをいうのはおかしいのかもしれませんがね」
「クドウはいいのか?もしも途中で放棄などすればタダではすまないのかもしれんぞ」
「まあ……なるようになりますよ。どうせアタシは愚か者なのでね。あっちの世界に帰っても、どうせ……くたばるだけですから」

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