公爵夫人は国王陛下の愛妾を目指す

友鳥ことり

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序章

睦言

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 四柱式てんがい付き寝台の垂れ布はすべて下ろされ、寝台の中は薄闇に包まれていた。
 寝室の窓のカーテンもすべて閉じられている。
 清潔な敷布のせっけんの香りと、男性用香水の匂いがベルティーユの鼻孔をくすぐる。
 さきほどまで着ていたはずのうすべにいろと白のしまようのドレスはきぬれの音を立てながら床にすべり落ちた。
 侍女のミネットが見たら「上等なドレスにしわがついてしまうじゃないですか」と目くじらを立てることだろう。
 頭の片隅でそんなことを考えていたのも束の間、慣れた手つきでパニエの紐を手早くほどく夫が唇を重ねてきた途端にドレスのことは意識から消え去った。

「あ……、待って、オリヴィエール」

 性急に身体を重ねてくる夫の勢いに戸惑い、ベルティーユは唇が離れた一瞬に手袋をはめたままの手で相手の口を押さえた。
 しかし、それは相手にとっては挑発でしかなかった。

「待てない」

 オリヴィエールは妻の手袋を素早く脱がすと、その指を自分の口に入れてゆっくりと舌先でめて刺激を加える。

「まだ、夕食もすんでな……」
「君以外に食べたいものはない」

 紐をほどき終わったパニエを床に放り出すと、絹のストッキングとシュミーズを脱がしにかかる。
 外出先から戻ったベルティーユが馬車から降りた途端、玄関先で待ち構えていた夫に抱き上げられて寝室まで連れ込まれた。普段なら侍女に手伝ってもらいながら着替えるのだが、帽子も外套もすべてオリヴィエールの手によって脱がされ、部屋のあちらこちらに落ちたままになっている。
 帰宅の挨拶をする暇もなかった。

「どうなさったの? 今夜はボシェ伯爵のお屋敷で会合だったはず……んっ」

 質問に答える気がないのか、オリヴィエールは再び妻の口を自分の唇で塞いだ。
 熱い舌が口の中に入り込み、ベルティーユの舌に絡みつくとまいがした。
 身体の芯にぶわりと火が灯るような感覚が沸き上がる。
 下穿きが脱がされ、肌が冷気に触れて身震いするのも束の間、両足を掴まれ大きく広げられた。

「限界だ」

 苦しげにうめいたオリヴィエールは、自分の服も脱ぎ捨ていると、固く膨張した股間を押し付けてきた。

「美しくみだらな僕の奥方。僕をこんなに狂わせる女性は君だけだ」

 ベルティーユの秘処に指を一本差し込むと、中を刺激しながら首筋に舌を這わせる。
 その行為にベルティーユが軽く嬌声を上げると、オリヴィエールは中から流れ出した液で濡れた指でさらに妻の股を大きく押し上げた。

「あっ……んっ……!」

 充分に濡れきっていない中に灼熱の棒が勢いよく挿入された。

「は……あっ」

 荒い呼吸を繰り返しながら夫は妻の片方の乳房をくわえた。
 その瞬間、ベルティーユの身体の中に新たな炎が生まれ、自分の中に侵入しているものを無意識のうちに締め上げる。

「――っ」

 さきほどまでの肌寒さなど忘れたように、全身が熱かった。
 天蓋で覆われた寝台の中は、淫靡な香りと熱が渦巻いている。
 最初はゆっくりと腰を動かし始めたオリヴィエールだったが、すぐに激しく腰を打ち付けるようにして妻の中を突いた。

「ふ……んっ……わっ」

 感覚が溶けそうになりかけていたベルティーユは、秘処の蕾を指でつまんで刺激された途端、喘ぎ声を上げて背中をのけぞらせた。
 一瞬意識が飛んだと思ったところに、耳元でくぐもった声が発せられると同時に熱い飛沫が身体の奥に放出される。

「はぁ……ん」

 ベルティーユが切なそうに声を漏らすと、いったん身体を離すかに見えたオリヴィエールはそのまま満足げに汗ばんだ妻の身体を強く抱きしめ囁いた。

「東方の皇帝の後宮で使われているという媚薬を手に入れたんだが、使ってみないかい? 皇帝の愛妾たち御用達だそうだよ」
「え? そんな物、使っては駄目ですっ! わたしは……充分満足していますっ!」

 紅潮した顔をさらに赤らめてベルティーユは抵抗する。

「僕はまだぜんぜん満足できていないよ。陛下の愛妾を目指すなら、まずは僕を満足させてくれないと」
「び、媚薬はやめてくださいな」
「それは、君次第だね」

 薄闇の中、欲望と期待に満ちた瞳でオリヴィエールは妻を見つめる。
 戸惑いつつもベルティーユが夫の首に腕を巻き付けると、おずおずと口づけた。ゆっくりと唇を割るようにして舌を差し込むと、相手の舌が待ち構えたように絡みついてくる。

「ふっ……んっ」

 呼吸が乱れ、怪しげな声がベルティーユの口から漏れた。
 その瞬間、自分の中で夫の欲望が大きく膨れ上がるのを感じ、息を呑んだ。

 夕食の準備が整ったことを告げるの音が屋敷中に響いたが、ダンビエール公爵夫妻の耳には届かなかった――。
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