1 / 80
1
しおりを挟む――――バサバサッ!!
「これ洗っておいてくれる? とびっきりに綺麗にしておいてよね」
橙色の髪の毛の少女が床を濡れた雑巾で拭いていれば、頭の上から落とされる大量のドレス。周りにいた他の使用人たちが『またか』といった表情を浮かべたが、助けることはなく目線だけを逸らしている。
ドレスを頭に被りながら少女がゆっくりと顔をあげると、太い縦巻きロールの髪に、真っ赤な口紅を塗った女の子が口をにやつかせながら笑っている。
幼い顔立ちに似合わない髪型に厚化粧。そんな女の子に口元が緩んでしまわないように少女はきゅっと力を込めた。
本来であれば、すぐに返事をして頭を下げるところだったが、その少女は薄汚いメイド服のポケットから分厚い皺のよったメモ帳を取り出して挟んであったペンを動かす。
書き終わってから、すっとその女の子に差し出して……。
『わかりました。お嬢様』
そう書かれたメモ帳を手に持ち深々と頭を下げた。
◇◇◇
――――バシャバシャ……。
(むむっ、なかなかにこの汚れはしぶとい!)
屋敷の外にある洗濯場。そこで先程のドレスを洗剤が入った水につけて洗う。
――――バシャバシャ……。
(むむむっ、これはもしや墨では? お嬢様はお昼にイカ墨パスタでも食べたのかしら?)
なかなか落ちない汚れを不思議に思いつつ首を傾げた。
本当はさきほどの女の子が嫌がらせのために、わざと黒インクをドレスに零しただけだった。
(燃えるわ。こんなにも落ちない汚れは初めてよ。使用人生活十六年目の私、ツーツェイにできないことはないわ! 絶対に落としてみせる!)
けれど、このツーツェイという少女にとっては対抗心を掻き立てられる最高の汚れだった。
声は出さず、不敵に笑みを浮かべたツーツェイに周りの使用人たちが『きっと腹を立てているのだろう』と同情の目をする。しかし、誰も手は差し伸べず離れていった。
(ふぅっ! ピッカピカね!!)
数時間後、あらゆる手をつかって新品同様に綺麗になったドレス。そんなドレスをお天道様の下の物干し竿に掲げたツーツェイは満面の笑みで見上げる。
メモ帳を出してカリカリと文字を書いて、書き終えたそれを近くで同じように洗濯物を干していた使用人に差し出した。
『乾いたらアイロン掛け担当にお渡しください』
使用人は少し驚いた顔をしつつ、そう書かれたメモ帳を読んでから頷いた。
「あの子、ほんとに喋らないんですね」
「ええ。理由はわからないけど昔からよ」
「うわぁ、不気味ですね……」
後ろで使用人たちにヒソヒソと話されている。聞きなれた自らへの噂話。だけれどツーツェイはもはやなにも感じなかった。
(あの子は新人か。お嬢様のターゲットにならないといいけど。あっ、でもお嬢様の永久ターゲットは私だから大丈夫か!)
『てへっ!』と心の中で突っ込みを入れる。自らへの突っ込みに普通の人であれば赤面してしまうことだったが、長年誰とも軽快な会話のキャチボールをしたことがなかったツーツェイにとっては恥ずかしさは欠片もなかった。
3
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる