愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

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「なに? お前がかわりになるって言うの?」
「やだぁ、さすが平民は平民同士で庇い合うのね~」

 その可笑しそうに笑う声に殴られる痛みを思い出して、微かに指先が震えるけれど我慢する。少し痛みを我慢すれば過ぎることだと。

「き、君……」

 後ろで困惑している老夫婦に少し微笑んでから、また頭を下げた。

「ッ!!」

 そのときツーツェイの腹部に走る衝撃。どうやら横蹴りされたようだ。蹲っていても人の弱いところを狙ってくるあたり護身術が生かされている。

 ――――ドカッ! バシッ!!

「いつみても腹が立つわね!! かわりになるなら声くらい出しなさいよ!」

 嗚咽を漏らすツーツェイだが声は決して出さない。そんなツーツェイにさらに腹を立てたミーシャとシュナウザー伯爵夫人が追い打ちをかけるように殴る蹴るを繰り返してくる。

(二人はしんどいっ! うぐぐ、二人はしんどいって!!)

 声を出せないぶん、心の中で叫んでいれば……。


「やめないか!!」

 力強い声が後ろから響いて、ツーツェイを蹴っていた二人の足が止まる。

「な、なに……」
「君たちは人をなんだと思っているんだ」
「なんて見苦しいの。貴族ならその態度を改めなさい」

 痛む身体を少し持ち上げて、振り向けば先程の老夫婦が背筋を伸ばして立ち上がっている。立ち振る舞いが先程とは全く違う。
   あまりの凛々しい姿にツーツェイは目を大きく開いた。さすがの二人も気圧されたのかたじろいている。

「な、なんなの!? 平民のくせして……」
「旦那様ーー! 奥様ーー!!」

 また後ろから聞こえる声。そちらをみれば何人かの使用人のような格好をした者たちが走ってくる。

「あれほど離れないでってお伝えしているのに! また屋敷から出て行ってしまわれるんだから……って、なにかありました?」

 不思議そうに辺りを見渡しつつ老夫婦を取り囲む使用人たち。使用人の一人が持っていた綺麗な上着を老夫婦の肩にゆっくりとかけた。

「あ……な…なんで……」

 その上着を手馴れたように着る老夫婦。その上着の胸元で光る二本の金色の剣が交差する藍色のエンブレムブローチ。それに気がついた二人が絶句して顔を青くしている。

(なにが起こってるの? それに綺麗な上着にブローチ……あれはたしか……)

 そのブローチの下には白い光の粒のような模様と白鳥が描かれた家紋も刺繍されている。

「人にぶつかったときはどうするんだったかな?」

 そう老夫婦の主人の方が言えば……。

 ――――ばっ!!

 今度はミーシャとシュナウザー伯爵夫人が慌てて頭を地面にさげる。

「も……申し訳ありません……ノズウェル帝国のお方だと知らず」

(やっぱり帝国の方だったのね。ノズウェル帝国……たしか大国である帝国)

 ツーツェイはすぐに文字を覚える必要があったので、拾われてからシュナウザー伯爵家にある大量の本を読み漁っていた。
    誰とも会話ができなかったので本を読むことだけが彼女の楽しみになっていた。それによってツーツェイには教養と知識が自然と身についていった。

 ノズウェル帝国とは遠く離れた大陸にある大帝国だ。攻撃の黒魔術と回復の白魔術が発達している。ツーツェイたちが住むこの国とは比べ物にはならない力を持っている。
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