愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

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 目が飛び出そうとはこのことだろうとツーツェイは思った。目を擦らなくてもわかる。目の前に誰もが振り返るほどの美形がいると。

 ふわりと揺れる柔らかそうな銀色の髪に少し垂れ目の大きな青色の瞳、整った鼻筋と輪郭。すらっと伸びる高い身長。童話に出てくる王子様のような微笑みを浮かべている。

「メモ帳、落としたよ。はい、どうぞ」

 流れるようにメモ帳を拾い、ツーツェイの手に乗せる。

(こんな綺麗な男性の指に汚いメモ帳を触らせてしまった!!)

 そう謎の罪悪感すら感じてしまうほど。

「ごめんね、いきなりだったから驚いてるよね? 座ろうか。少し話がしたいんだ」

 カチコチに固まってしまったのをいきなり屋敷に連れてこられたことが原因かと思っているのか、申し訳なさそうにソファに腰掛けるよう促してくる。
    使用人がソファの向かいにあるテーブルに紅茶を置いたあと、その男性が部屋の隅に立つ執事に目配せをする。

「テオドール様、席を外しましょうか?」
「うん。理解が早くて助かるよ、ありがとう」

 テオドールと呼ばれた男性に深く頭を下げてから、使用人たちが部屋から出ていった。

(む、むむむかいに美青年が、ひひびびせいねんが……)

「よかったら飲んで?」

 笑顔で紅茶のカップを差し出す男性。だがもはや紅茶どころではなかった。ツーツェイはこれほど美しい男性を初めて見たからだ。
    生まれて二十年、男性と触れ合う機会はまったくなかった。同僚とは事務的な会話しかなく、外に勝手に出ることは許されず、休日も一人で読書をする人生だった。

 そんな男性に免疫のないツーツェイがいま僅か3メートルほどの距離で見目麗しい男性と向かい合ってお茶を共にしている。それも二人きりで。
 このときばかりは声を出さないことに慣れているのを喜んだ。声を出していたなら発狂したに違いない。

 だけども、ふと頭に浮かんだ疑問。

 ――――この人は誰なんだ?

 あの夫婦の令息にしては若すぎる。見た目から判断できる歳は二十代だろう。先程の城下で見かけた魔術師と同じ白のローブと詰襟の軍服を着ていることから白魔術師なことはわかる。
   だが、少し服装に違いがある。そのローブの端には金色の刺繍がされていて飾緒も肩からさがっていて明らかに神々しい。

 その疑問に帝国の歴史書の内容を必死に思い出す。たしか魔術師にもランクがあった気がする。魔術師の中でも特に優秀な人しかなれない位がある。帝国内でも黒魔術師と白魔術師、それぞれ数名しかいなかったはず。

(まさかこの人は……高位(こうい)魔術師!?)

 その事実にまたガタガタと身体が震え出す。高位魔術師といえば能力が普通の魔術師より桁違いに高く、帝国内でも限られた人しか関わりが持てない。魔術師以外ではめったにお目にかかれる人物ではないのだ。

 もうツーツェイは錯乱状態だった。疑問が頭を埋めつくして、もはや煙が上がるのではないかというくらいショートしている。
    『もうどうにでもなれ』と半ばヤケになったツーツェイは震える手でメモ帳を取り出して疑問を連ねて、そのメモ帳を向かいの高位白魔術師にすっと差し出す。

『あなたは誰ですか?』

 その一文に全ての疑問が詰まっていた。失礼極まりないが仕方がなかった。

「……ふっ、あはははっ、そうだよね? ごめんね、自己紹介してなかった」

 それを読むと怒ることなく笑う目の前の男性。垂れ目の瞳がさらに緩やかにカーブを描いて優しそうな雰囲気を増している。

「僕はテオドール。この国の高位白魔術師だよ。それとこのセオドア侯爵家の跡取りです」

(え……)

 『跡取り』というワードにまたツーツェイは目を丸くする。あの夫婦にこんなに若い令息がいるとは思わなかった。いや、でも高齢出産だったら有り得るのか……と首を傾げていればテオドールが口を開く。

「あぁ、不思議に思うよね? 僕は養子だから。父と母とは血は繋がってないんだ」

(なるほど。どうりで若いはずだ)

 少しずつ解けていく疑問にほぅと息を吐いてしまう。
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