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しおりを挟むぎゅうっと強く握りしめたボードを下げて鞄に仕舞おうとしたとき……。
「なにごとだ」
いつの間にか後ろに停まっていた馬車。そこから降りてきた男性に周囲の女性が沸き立つ。ツーツェイも目を開いて釘付けになってしまう。黒髪に切れ長の瞳、テオドールに負けないくらい綺麗な顔をしている。
けれどすぐに身体が震えた。美しい容姿をしているが感情のない無表情の顔が恐ろしさ際立たせていたからだ。
「ルイ様っ!! 申し訳ありません! 少し不審人物が……」
「不審?」
ちらりと瞳だけツーツェイの方に移すと、ツーツェイの身体がなおさら固まってしまう。蛇に睨まれた蛙とはこのことかと思ってしまう。
その鋭い視線がツーツェイのボードに移ったのに、慌ててボードを背中に隠す。そこにはいままでの一連のやり取りが書かれていた。
これ以上の痴態はさすがに耐え兼ねるものがあった。この目の前の男性は黒のローブを着ていることから黒魔術師だということがわかる。それにテオドールと同じ高位魔術師であることを示す金色の刺繍がローブに入っている。
(これ以上はテオドール様に迷惑をかけるだけだわ)
頭を下げて、その場から走り出そうとすれば……。
「ッ!?」
(んぎゃ!?)
いきなりの強い風の力で身体が持ち上げられる。それによって宙に浮くツーツェイの身体。身体の下に魔術陣が描かれていることから魔術によって風を起こし持ち上げられているのだろう。
それにその魔術陣の下で先程の黒魔術師が鋭い目でツーツェイを見上げている。いまにも人を殺しそうな目で。
(ひぃっ!? な、なに!? 帝国は出待ちしただけで殺されるの!? というか出待ちなんかしてないんだけど)
あまりの恐ろしい目線に殺されるのかと思って、なんとか逃げようとじたばたと手足を動かす。
「暴れるな。燃やされたくなければ大人しくしていろ」
けれど顔の真横に新たに描かれた魔術陣にピタリと身体が硬直する。
「る、ルイ様、なにを……」
「こいつは俺が処分する」
「は、はい?」
門番たちもなにが起きてるのかわからず固まっている。ルイと呼ばれた黒魔術師がツーツェイを持ち上げたまま門を開き、中に入って行ってしまう。
(な、なんなの、この人は!? てか苦しい!)
さすがに風の力で持ち上げられ連れていかれるなんて初めてのことだった。『連れていくなら普通に言ってくれれば歩くのに!』とボードに書いて文句を言ってやりたい気分だったが強い力で持ち上げられていて腕を自由に動かせない。
そのまま魔術省の建物の中に入れば、案の定、建物内の魔術師たちが驚いて目をこれでもかと開いて見ている。そんな視線も無視して白のローブを羽織る魔術師たちが多くいる棟に向かっていく。
――――バンッ!
勢いよく開かれた扉の部屋の中には多くの白魔術師たち。広い部屋に机が何十台も並べられて、みなまた驚いたようにこちらを見る。そこには……。
「え……」
ツーツェイの目に入る部屋の先の奥にある大きな机の椅子に座るテオドール。ルイに持ち上げられているのを見て、書類を書いていたペンを止める。
「ルイ……なんで……」
「ッ!?」
「わッ!?」
テオドールの身体に軽く放り投げられたツーツェイ。慌ててテオドールが立ち上がり受け止める。
「なんでここにツェイが……」
「門の前でそいつが理不尽に頭を下げていたから連れてきただけだ」
「え?」
「お前のせいだろう」
(――――あ……)
「なぜ隠している。そいつはお前の婚約者なのだろう」
その一言にその場がザワつく。やはり知られていなかったようで部屋にいた白魔術師たちが動揺しているのがわかる。
(やっぱり隠されていたんだ……だからリチャードは必死に止めていたのね)
その真意もわからず勝手な行動をとってしまった。謝らなければとポケットに入っていたプレートを取り出して捲る。
『ごめんなさい』
どうしたらよいかわからずそのプレートを掲げて見上げれば、困ったような表情を浮かべるテオドール。周りの白魔術師たちが『あの子、声が出せないの?』と小さな声で話していることに気づいてツーツェイの顔が青ざめていく。
恥ずかしいと思われているのに、さらに追い打ちをかけてしまったと。
(早くここから出なければ……また迷惑をかけてしまう)
プレートとボードを鞄にしまって頭を下げて、部屋から出ようとすれば……。
(ぐぇっ!?)
「待て。なぜ逃げる? 話は終わっていない」
またルイにワンピースの首の襟を掴まれて止められた。今度は首が締まって苦しい。
(こ、この人は女性に触れたら死ぬ呪いでもかかってるの!? 手を掴んでくれたらいいのに!!)
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