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しおりを挟む裏庭の木陰が揺れるベンチの下でテオドールとツーツェイは並んで座っている。休憩時間でないため、ここにいる魔術師は少ない。先程のルイという黒魔術師に『ここはうるさい。二人で話でもしてこい』と身体ごとまた宙に浮かされ窓からベンチに飛ばされたからだ。
(死ぬかと思った……黒魔術初めて体感したけど、怖すぎる……二度とごめんだわ)
本来であれば黒魔術はこのような使い方はできない。ここまで自由に扱えるのは高い能力を持つ高位黒魔術師のルイだけだったのだが、そんな事情は遠い他国から最近この帝国にやってきたツーツェイにはわからない事情だった。
『ごめんなさい』
「いや、ツェイは悪くないよ。謝るのは僕の方だ」
プレートをそっとテオドールに差し出せば、申し訳なさそうに眉を歪める。その姿にボードを膝に乗せてペンを持つ。
『恥ずかしいものを見せてしまいました。テオドール様のご迷惑にな……』
「違う!!」
その先を書こうとすればいきなり手を掴まれ、驚きのあまり目を見開いて固まってしまう。「あ、ごめん」とすぐに手を離されたのでペンを置く。
「違うんだ。ツェイを恥ずかしいなんて思ったことはない」
(え……でも……じゃあどうして……)
そう質問をするようにじっと見つめれば、テオドールの瞳が揺れる。指先を絡ませて言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「君を……ツェイを縛りたくなかったんだ」
(え……縛る?)
「自由を奪いたくなかった。僕の婚約者だと公表してしまえばもう逃げ道がなくなってしまうだろう」
逃げ道とはなんのことだろうとツーツェイは疑問に思ったけど……優しいテオドールのことだ。
(私が嫌になったとき、すぐに婚約を解消できるようにと思ってのことかもしれない)
「両親からたくさんの縁談を勧められるのにも辟易していたんだ。だから、あの場では自分の利益だけを考えてしまった……けれど……君にはもっと人と交流して自由に生きて欲しい。僕に縛りたくないんだ」
(なぜ……)
この人は決して他人との壁は壊さない。それに縛りつけたくないというが本音は違う。『これ以上、自分に踏み込んでくるな』と忠告している。
ツーツェイはそんなテオドールに僅かに苛立ちを感じる。彼の優しさは残酷だ。『人を愛せない』というなら初めから優しくなんてしなければいい、冷たく突き放したらいい。
そうは思うけれど、すぐに理由がわかる。その理由から苛立ちがなくなり、今度は胸が痛く切なくなる。
――――彼がそれをしないのは……。
(テオドール様は人に嫌われるのが怖いのね)
それはツーツェイも一緒だった。
だからこそ彼の気持ちが痛いほどわかった。表面上でも偽り取り繕わなければ、その先に待ち受けているものがさらに辛いものになる。拒否をすることなど許されない。
なぜテオドールがこんなにも恐れているのか、その理由まではわからない。あの人格者である侯爵夫婦がそうしたとは考えられない。だとしたら二人に養子として拾われる前に原因があるのかもしれない。
(どちらにしろ考えていてもわからないことだわ)
諦めるようにふぅと息を吐く。その理由を無理やりテオドールに聞くのも嫌だった。とにかく自分と一緒だとすれば、彼に投げかける言葉はわかりきっていた。止めていたペンを持つ手を動かす。
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