愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

文字の大きさ
23 / 80

23

しおりを挟む
 


 裏庭の木陰が揺れるベンチの下でテオドールとツーツェイは並んで座っている。休憩時間でないため、ここにいる魔術師は少ない。先程のルイという黒魔術師に『ここはうるさい。二人で話でもしてこい』と身体ごとまた宙に浮かされ窓からベンチに飛ばされたからだ。

(死ぬかと思った……黒魔術初めて体感したけど、怖すぎる……二度とごめんだわ)

 本来であれば黒魔術はこのような使い方はできない。ここまで自由に扱えるのは高い能力を持つ高位黒魔術師のルイだけだったのだが、そんな事情は遠い他国から最近この帝国にやってきたツーツェイにはわからない事情だった。


『ごめんなさい』
「いや、ツェイは悪くないよ。謝るのは僕の方だ」

 プレートをそっとテオドールに差し出せば、申し訳なさそうに眉を歪める。その姿にボードを膝に乗せてペンを持つ。

『恥ずかしいものを見せてしまいました。テオドール様のご迷惑にな……』
「違う!!」

 その先を書こうとすればいきなり手を掴まれ、驚きのあまり目を見開いて固まってしまう。「あ、ごめん」とすぐに手を離されたのでペンを置く。

「違うんだ。ツェイを恥ずかしいなんて思ったことはない」

(え……でも……じゃあどうして……)

 そう質問をするようにじっと見つめれば、テオドールの瞳が揺れる。指先を絡ませて言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。

「君を……ツェイを縛りたくなかったんだ」

(え……縛る?)

「自由を奪いたくなかった。僕の婚約者だと公表してしまえばもう逃げ道がなくなってしまうだろう」

 逃げ道とはなんのことだろうとツーツェイは疑問に思ったけど……優しいテオドールのことだ。

(私が嫌になったとき、すぐに婚約を解消できるようにと思ってのことかもしれない)

「両親からたくさんの縁談を勧められるのにも辟易していたんだ。だから、あの場では自分の利益だけを考えてしまった……けれど……君にはもっと人と交流して自由に生きて欲しい。僕に縛りたくないんだ」

(なぜ……)

 この人は決して他人との壁は壊さない。それに縛りつけたくないというが本音は違う。『これ以上、自分に踏み込んでくるな』と忠告している。

   ツーツェイはそんなテオドールに僅かに苛立ちを感じる。彼の優しさは残酷だ。『人を愛せない』というなら初めから優しくなんてしなければいい、冷たく突き放したらいい。
   
 そうは思うけれど、すぐに理由がわかる。その理由から苛立ちがなくなり、今度は胸が痛く切なくなる。
    
 ――――彼がそれをしないのは……。


(テオドール様は人に嫌われるのが怖いのね)

 それはツーツェイも一緒だった。

 だからこそ彼の気持ちが痛いほどわかった。表面上でも偽り取り繕わなければ、その先に待ち受けているものがさらに辛いものになる。拒否をすることなど許されない。

 なぜテオドールがこんなにも恐れているのか、その理由まではわからない。あの人格者である侯爵夫婦がそうしたとは考えられない。だとしたら二人に養子として拾われる前に原因があるのかもしれない。

(どちらにしろ考えていてもわからないことだわ)

    諦めるようにふぅと息を吐く。その理由を無理やりテオドールに聞くのも嫌だった。とにかく自分と一緒だとすれば、彼に投げかける言葉はわかりきっていた。止めていたペンを持つ手を動かす。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

処理中です...