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しおりを挟む『私が決めたことです。自由がなくなったとしても……』
(――――これだけはわかる)
『私はテオドール様を嫌ったりしません』
(偽善じゃない。嘘偽りない私の気持ち)
にっこりと安心させるように微笑めばテオドールの身体が微かに揺れた。さらに、下に言葉を書き加える。
『テオドール様は私のことを嫌いですか?』
ボードを差し出して、じっとテオドールを見つめる。そのツーツェイからの真剣な瞳に少しだけ視線を逸らしてから、ゆっくりと戻してツーツェイを捉えた。
「嫌いじゃない」
ほっと緊張が解けるように表情が緩む。テオドールに嫌われていないということがツーツェイにはなによりも嬉しかった。
けれどテオドールの表情は曇ったままだ。これ以上なにを悩んでいるのかと顔を覗きこめば、力なく笑う。
「嫌いじゃないから、困ってるんだ」
(え……困る?)
そっとツーツェイに伸びる長い指先。
今までテオドールはツーツェイに触れることは一切なかった。その指先が初めて頬に触れる。
喉の確認をしたときは恐ろしく冷たいものだった。だけれどいま頬に触れる指先は温かい。ゆっくりと頬を包み込まれれば大きな手のひらから温かさが頬に伝わって、そこから熱を帯びてくるように火照ってくる。
どくどくと早まる鼓動。
熱い眼差しで見つめられる透き通る青色の瞳に目が離せない。ごくりと喉が鳴ったとき……。
「ッ!?」
頬を包んでいた手をばっと離される。なにごとかとテオドールを見つめれば、視線がツーツェイから外れていて顔が青ざめている。
「どうして……ここに……」
額から溢れる汗。
(なにが……)
怯えるような、恐れるような、そんな初めて見るテオドールの姿。彼の視線を追えば、遠く離れた門の近くを歩く何人もの魔術師たち、それらが取り囲むのは綺麗な身なりをした人々。
その高級そうな身なりからこの帝国の貴族だろうかとぼんやりと眺める。何人か男女で歩いていることから夫婦やその令息令嬢かもしれない。
「ツェイ」
「ッ!?」
いきなり腕を引っ張られて、それらから背中を向けて覆い被さるように姿を隠される。
(テオドール様?)
「ごめ……ツェイ……先に帰ってて」
(え、でも……)
『体調が悪そうです、心配です』
あまりの体調の悪そうなテオドールに心配が勝り離れられない。
「ツェイお願いだから……」
『帰りません』
「大丈夫。僕は大丈夫だから早くここから離れて」
『帰りません』
なぜか拒否をするテオドールにむっとして同じ文章が書かれたボードを差し出す。『嫌です』と書き加えてテオドールに差し出したとき……。
「ツェイ!! いい加減にしろ!」
――――ビクッ!!
テオドールの強い言葉。温厚なテオドールが初めて見せた怒りの気持ちだった。いままでいくらツーツェイが頑なだったときでも最終的には困ったように笑って許してくれていた。
ボードを持つ指先が微かに震えていることにテオドールがはっとする。
「ご、ごめん。怖がらせるつもりはなくて……」
すぐに『ごめんなさい』と書かれたプレートを出して頭を下げる。
――――テオドール様を怒らせてしまった。
その事実にツーツェイは恐ろしく震える。いままで人を苛立たせたり、怒らせることはよくあった。その度に『仕方がない』と自身を慰めていたけれど、テオドールを怒らせたことは深い恐怖を感じる。
捨てられるという焦りの感情ではなく、悲しく辛い、重くのしかかられているような感情。
先程までは『嫌いじゃない』と言われ喜んでいた気持ちが一瞬で沈んだものにかわる。それにテオドールに対しては嫌われたくないと一際強く思う。
「ツェイ、怒ってないよ。頭を上げて」
『ごめんなさい』
「ツェイ……」
『ごめんなさい』
「あ、ツェイ!!」
半ば逃げるように走り去ったツーツェイ。けれどもテオドールがそのあとを追ってくることはなく、そのことにまた胸が締め付けられるように辛く苦しくなった。
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