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38 テオドールside①
しおりを挟む(柔らかい……深く……もっと……)
細かに息を吐くツーツェイの耳を撫でれば身体が微かに反応するように動く。口内に舌を差し込めば驚いたように瞳を開いたけれど、すぐぎゅっと瞳を閉じた。
初めてだっただろうツーツェイは受け入れようと応えてくれる。部屋に漏れる音は互いの舌に絡む唾液の水音と吐息だけ。
ツーツェイはこんなときでも声はださなかった。
(このまま抱いてしまえば甘い声を出してくれるだろうか)
そうテオドールは頭の片隅で思ってしまう。
――――ツェイの声はどんな音色なのだろう。
『テオドール』
モーガンとセリニアにもらった名前。
神からの贈り物という意味があるらしい。そんな大層な人間ではないと首を振ったけれど、優しく笑って頭を撫でられた記憶がある。
(その声でその名前を呼ばれたらどれだけ幸せだろう)
甘い想像に駆られたけれどすぐに冷静になる。馬鹿らしいとふっと笑って唇を離せばツーツェイがぐったりとしている。
「ツェイ!? あっ、ごめ、やりすぎた……」
顔が真っ赤に染まっていて朦朧としてる。そのままベッドに横にさせれば眠ってしまったようで穏やかな寝息が聞こえてくる。
少しだけ汗ばんで湿っている額を撫でてやれば、指先が冷たくて気持ちがよかったのか擦り付けてきた。
「本当に……これが無意識なんだから怖いな」
細い髪を梳けば指から流れ落ちる橙色の髪。蝋燭に照らされて揺れて輝きながら落ちる髪を眺めてから、赤く柔らかい濡れる唇を指先で拭った。
(――――もう充分だ)
「君に触れるのはこれが最後」
本当はずっと触れるつもりはなかった。そのはずなのに……。
すっと立ち上がって部屋を出る。書斎に移動して棚にしまってあった歴史書を取り出した。そのページをめくると男女の写真。
「女王陛下……」
美しい橙色の髪をなぞるように指先で写真にそっと触れてから、本を閉じて胸に抱える。この歴史書はテオドールの心の拠り所だった。
「僕はなんなのでしょうか」
小さく呟いて光の粒を放つ。それは幼い頃に初めて放った光と同じくか細い光だった――――……。
はっきりとあるテオドールの記憶の始まりは檻の中だった。物覚えがつく前に両親に売られたようで、気がつけば檻の中に入れられていて売り物にされていた。
檻の外で物を物色するのと同じような視線で売値が言われる。最初は訳がわからず怯えて身体を丸めて耐えていた。
だが慣れというものは怖い。そんな状況に麻痺してきたのか、そのうち檻の外をぼうっと眺めるようになった。
檻の外は城下のようで、たくさんの人が歩いている。みな金木犀の花を模したブローチを胸につけていることから、それがこの国にとって大切な花なのだろうかとぼんやり眺めていた。
(外に出たい……)
楽しそうに歩く人々を見てそう軽く思っていれば、目の前の檻を隔てて立つ綺麗な身なりをした貴婦人。周りに若い男性を連れている。三十前だろうか化粧が厚く年齢が分からない。それに鼻を突くような甘ったるい香水の匂いに顔を顰めてしまう。
「これをもらうわ」
(……あぁ、買われたのか)
幼いながらもそうすぐに理解した。この貴婦人に買われたのだと。
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