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39 テオドールside②
しおりを挟むその後、広い屋敷に連れていかれた。どうやらこの女性はこの国の貴族で名前はエリオットというらしい。貴族なだけあって使用人たちも身なりが整えられた人ばかりで、すぐに綺麗な服を与えられ、ちゃんとした食事ももらえた。
「お前はやっぱり美しいわね」
綺麗に洗われて整えられた姿を見て、エリオットがそう嬉しそうに笑う。深紅の口紅が塗られた口の端があがる、その笑顔に背筋が凍るように冷たくなった。
(なぜ、この人は僕にちゃんとした衣食住を与えてくれているのに……)
それに使用人とは別の個別の部屋に入れられ、仕事も与えられなかった。
「なにかすることはありませんか?」
屋敷の使用人に問いかけても、みな表情を曇らせて『なにもない、部屋にいろ』と返されるだけだった。
「よく見つけたわね、あれ。今まで見たなかで一番の上玉じゃない」
「ええ。でも、まだなにもしてないのよね」
「さすがに幼すぎるから、もう少ししたらじゃない?」
後ろでそう話されるのが聞こえる。けれど幼く意味が理解できなかった。
「リン……ド……ワール……こく……」
文字を読めば少しでも役に立てるだろうかと、部屋にある本を開いて読み始めた。その中にあった新しい本。比較的、ページ数が少なく読みやすいものだった。
時間だけが膨大にあったので、辞書を片手に文字を一文字ずつ調べて声に出す。
(この国の名前?)
表紙が読めたあとページをゆっくりとめくる。
「わぁ……」
そこには微笑む美しい女性の写真。輝くような橙色の髪に瞳、その美しさに目を開いて見つめてしまう。
「これは誰なんだろう」
そう興味が湧いて必死に本を読んだ。どうやらこの国の王女様らしい。道理で美しいはずだと理解した。
その本にはいままでの国の歴史が書かれていた。昔から他国と交流はあまりせず、独自の誇りを持っていたこと、けれどいまの国王になってから発展のために他国に侵略を始めたこと。それによってさらに発展をとげたとも書かれている。
だが隣国の大帝国とだけはいまだに交戦中らしい。その本にはどれだけ帝国が悪いか、恐ろしいか、倒すべき相手として悪敵だと罵られていた。幼いテオドールもどれだけ帝国は恐ろしいのだろうと身体が震えた。それに……。
『この国の王族は聖なる力を持った者が稀に生まれる』
(聖なる力?)
それを国の誇りにしていると。詳しい力の内容は書かれてはいなかったが、その力があれば帝国を倒し、さらに国は発展するだろうと書かれている。
「すごい……そんな力を持った人が……」
この国に生まれるのかと高揚感を覚える。それに帝国は倒すべき悪い存在なのだと幼いテオドールの頭に刷り込まれた。
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