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40 テオドールside③

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 なにもすることのない日々を様々な本を読んで暇を潰していた。
 そうしてしばらく経ったある日、エリオットに部屋に呼ばれる。呼ばれた部屋から響く声。なにかと扉を開けば……。

「ッ!!」

 恐ろしく目を疑った。目の前で裸で絡み合う男女。たくさんの男性に囲まれたエリオットが艶かしい目でこちらを見てくる。

(気持ちが悪い……)

 強い嘔吐感に吐きそうになるのを必死に抑える。直感で早く逃げ出さなければと思うけれど、身体が硬直してしまって震えあがって動かない。そんな姿にまた深紅の口紅が塗られた唇の端があがった。

「あぁ、美しい。これがいれば退屈な日々がなくなりそうだわ」

 首に絡みつく腕。真っ赤に塗られた爪の指が頬を撫でる。

「っ……やめ……」
「ふふ、ここまで待った甲斐があったわね。数年でさらに美しくなったわ」

(怖い…… 怖い……)

 そう心の中で抵抗するけど身体をまさぐられる手は止まらない。なにをされているのかわからなかった。けれど気持ち悪さだけは収まらなかった。
 朦朧とする意識の中でずっと「お許しください」と涙を流しながら抵抗していた気がする。



(汚れてしまった……)

 鏡に映る身体中につく赤い痕。それを消そうと浴場で必死に身体を洗うけれども落ちない。
 幼いからか最後まではされなかったものの身体を這う舌と強制的な行為の気持ち悪さに吐き気を催す。何度吐いても気持ち悪さはなくならなかった。

(あぁ、使用人たちが言っていたのはこういうことだったのか)

 後ろで密かに話されていたこと。自分は『慰みもの』のために買われたのだとテオドールは悟った。
 それにその日以降は厳しい監視下に置かれ、逃げることも難しくなってしまった。

 毎日繰り返される忌まわしい行為。その度に増えていく身体の痕。

 目の前に用意された食事。手を動かせば服がめくれて見える腕につく赤い痕に使用人たちが蔑んだように見下ろしてくる。

 ――――ばっ!

 すぐに腕を隠すけれど、指先の震えは収まらない。食事はとらずにその蔑んだ視線から逃れるように部屋に戻った。
 机に置かれた歴史書。ページをめくって写真を眺める。そこには優しく微笑む美しい王女殿下。

「この人にはこのような痕はないんだろうな……」

 そっと写真に触れる。白く透き通るような細い身体。なぞるようにその白い肌の写真に触れた。その写真に触れる自身の腕につく赤い痕が目に入って、触れた手を離して視界に入らないように胸に抱える。


 ――――もう死んでしまいたい。


 その気持ちが身体を蝕んでいく。こんなに汚れきった身体でこれからどう生きていけばいいかわからなかった。

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