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43 テオドールside⑥
しおりを挟む「……なぜ、こんなところに子供が」
暗闇の先から見えたのは白いローブを羽織る年配の男性。驚いたようにテオドールを見つめている。その身体を包む光の粒に気がついて、さらに驚いたように目を開いた。
「まさか白魔術を使っているのか」
逃げなければと立ち上がるけれど、すぐに腕を掴まれて捕らえられてしまう。魔唱を唱えようとしたけれど黒い石のブレスレットを腕につけられて唱えても術が出せない。
「あ……」
(もうだめだ……逃げられない……)
「お許しください……なんでもします……どうか……」
身体を丸めて頭を下げる。地面に額をつけて涙を流しながら懇願する。
「口でも……なんでも致しますから……最後まではお許しください……どうか……」
白のローブを羽織る男がシーツから覗くテオドールの身体についたたくさんの赤い跡にはっと気がつく。
その男の腕が伸びたのに身体がまたビクリと大きく揺れた。けれど、次の瞬間ふわりと身体を包む白いローブ。金色の刺繍が裾に入っていて初めてみる美しいローブだった。
「大丈夫だ。私は君になにもしない」
その言葉と同時に身体を包んでいく大きな明るい光の粒。テオドールが出したものより強く温かな眩い光だった。身体につく赤い跡や傷が一瞬にして消えていく。
(跡が……すべて消えて……)
顔をあげれば、目の前で優しく微笑む男性。初めて見た人からの柔らかな温かい眼差し。
(この人は……)
「こんなに小さいのに……怖かっただろう」
呆然としていれば身体を抱きしめられて、包まれる温かな熱。その温かなぬくもりに涙が自然と溢れて頬を伝い地面に落ちていった。
その後、歩けると伝えたが背中におぶわれて帝国に連れていかれた。戦場の前線の他の魔術師たちがテオドールをおぶって森から戻ってきたのに目を丸くしていた。
のちに、その男性は帝国の高位白魔術師のモーガン・セオドア侯爵だと知った。
帝国にあるセオドア侯爵家の屋敷に連れていかれるまで、リンドワールの子供なのではと疑いの目が向けられたが、テオドールが白魔術を使えたこと、モーガンが帝国の子だときっぱりと伝えたことで疑いの目は晴れた。
「僕はこの国のものでは……」
「大丈夫だ。私たちは気にしない」
セオドア侯爵邸でモーガンとセリニアにそう何度も伝えようとしたけれど、返事はそれしか返ってこない。困って眉を寄せていると……。
「そういえば、君の名前は?」
「名前……名前はありません……僕は売られたので……」
「あぁ……」
モーガンとセリニアが悲しそうに瞳を歪める。だけれどすぐに明るいものに変わってセリニアが棚にある本を取り出してくる。
『テオドール』
開かれた本の中、その名前を記されたところを指す。
「神からの贈り物……」
その横にはそう記されている。そんな大層なものではないと首を振ったけれど、二人は笑うだけだった。
「テオドール、これが君の名前だ」
「あ……」
「テオドール。あなたはもう私たちの息子です。国は関係ありません」
ぎゅっと身体を抱きしめられる。包まれる人の温もり。二人から抱きしめられて苦しかったけれど、その苦しみも心地よいものだった。
「お父様、お母様……ありがとう…ございます……」
瞳からまた涙を流せばそれを優しく拭き取ってくれた。
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