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「ど、どうぞ、お入りください」
魔術省の門の前に仁王立ちして『早急に中に入れてください』とボードを出せば、その鬼の形相のツーツェイに門番がすぐに門を開けた。屋敷からは以前と同じように力を使って使用人たちの動きを止めて外に出た。
魔術省の中を歩けば、ツーツェイのあまりの殺気に魔術師たちが廊下の隅に寄っていく。
(むっ! あんの勘違い製造機の部屋が分からない)
初めて来たときはルイに持ち上げられて場所どころではなかった。そのあとのお出かけも裏庭で待つよう言われたので部屋には行っていない。
ちっと舌打ちしそうになるのを抑えて魔術師に声をかけようとしたとき、廊下の先に見覚えのある忌々しい黒魔術師が目に入る。向こうもツーツェイに気がついたようで、面倒くさそうに視線を逸らして踵を返した。
『お待ちくださいな』
腕を掴んで笑顔でボードを差し出す。
「離せ。お前に構っている暇はない」
『今度は持ち上げずにちゃんと隣を歩いてテオドール様の元に連れていってくださいませ』
ガリガリと力強く書いて恐ろしい笑みを浮かべる。向こうもまた恐ろしい無表情の顔で見下ろしてくるけど、ツーツェイも負けずに見上げる。そのうち折れたのか、はぁとため息をつかれて視線を逸らされた。
「テオドールはいない。屋敷にいるんじゃないのか?」
(え?)
「あいつのせいで魔術省が朝から騒がしい。屋敷にいるはずだが?」
どういうことかわからないツーツェイは目を丸くしてしまう。たしかに魔術師たちが騒がしい気がする。怒りで目に入ってなかったが。
『なにかあったのですか?』
「なにか?」
理由を聞こうとそうルイにボードを差し出せば、知らないのかと驚くように少しだけ瞳が開かれた。
「今朝、あいつが魔術師を辞めると皇帝陛下に伝えたんだ」
(え……魔術師を辞める?)
「そのせいで朝から魔術省が大混乱だ。あいつから聞いてないのか?」
聞いていない。そんな事は一言も伝えられていなかった。理解ができなくて頭が回る。それに朝、普通どおりに魔術省に向かっていった。屋敷の誰にもその事実を告げずに……。
「ッ!!」
嫌な予感がする。
いますぐにテオドールを探さなければと直感で思う。それは向かいに立つルイも悟ったのか、はっと今度は瞳が大きく開かれる。ツーツェイが走り出そうとしたのを腕を掴んで止める。
「お前はここにいろ! こちらでなんとかする」
身体を抑え込むように魔術陣を描かれて風の力で抑え込まれる。そのせいでギリギリと動かせなくなる身体。
(なにもせずに待っていろということ……?)
なにかしらのことがテオドールに起こっていることは間違いがない。それなのになにもせずに待つのはツーツェイは耐えられなかった。
(――――嫌だ! そんなの絶対に嫌!!)
「私を離して!!」
「ッ!?」
――――バンッ!!
ツーツェイが叫ぶと強い衝撃が走って身体を包む魔術陣が一瞬で砕け散る。その砕け散った黒の粒の中から抜け出して走り出した。
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