愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

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「……いまここであなたと会ってるでしょう、それではだめなのですか?」
「ツェイ……」
「それに私はただのツーツェイだとお伝えしたはずです」

 にっこりと微笑めばテオドールの瞳も弧を描いたあと、その握った手が開かれる。テオドールを探している最中に転んだときの手のひらの傷。屋敷に帰ってから軟膏を塗られていたけれど痛々しく赤い血が滲んでいる。

「父に治してもらわなかったの?」
「はい。すぐに治るだろうからって……」

 屋敷についてからモーガンがすぐにその傷に気がついたけれど、にやりと口の端をあげて軟膏だけ塗られた。

「白魔術師が軟膏を使うわけないのに……はぁ、わざとだな」

(あ……)

 魔唱を唱えて手をかざせば、白く眩く光って傷が塞がり綺麗に治っていく。

「ありがとう……ございます」
「ツェイ」
「はい」

 美しく綺麗に光る手のひらを見つめていた顔をあげれば、優しく微笑むテオドールがいる。頬に触れる温かな光る指先。


「僕の名前を呼んでくれる?」


 ――――その声で。

 その指先が撫でるように唇に触れる。
 そこからドクンドクンと熱を帯びていく。ゆっくりと撫でられる唇を薄く開く。


「……テオ……ドール……」
「うん」
「テオドール……テオドール様っ……」

 瞳から大粒の涙が何度も頬を伝って落ちていく雫。
 ツーツェイは何度も声を出す。ずっとずっと呼びたかった、その名前を。

 ぎゅっと抱きしめられて温かい。いままで抑えていた気持ちが声になって溢れてくる。


「愛しています」

 抱きしめる身体が少し震えて、それすら愛しいと感じて強く抱きしめかえす。

「あなたを愛しています」

 もう一度、伝わるように耳元でゆっくりと大切に伝える言葉。

 その言葉に背中に回されていた手が頭上にかざされて白く光り輝く魔術陣が描かれれば、光の粒が降り注いでいく。

(これは……あのときと同じ光)

 初めて愛称で呼ばれた日に見たものと同じ光の粒。蝋燭だけの灯りで僅かに灯されていた部屋が眩く光り輝く。あまりの綺麗さに身体を離して眺めれば……。

「僕も……」

 そっと頬に触れた大きな手。赤く染まるツーツェイの頬を温かく包みこむ。


「僕もツェイを愛している」

 揺らめく光の粒の中で微笑むテオドール。光に輝いて揺れている青色の瞳。その美しさにツーツェイは息を飲んだ。

(私がもう一つ伝えたかったこと……)

 それを思い出して、またゆっくりと口を開く。


「……テオドール様の白魔術は綺麗です」

 頬を包むテオドールの光る手に触れて優しく撫でる。そんなツーツェイに瞳が開かれたけれど、すぐに弧を描く。

 輝きながら降り注ぐ光に包まれて、どちらともなく顔が近づく。目を閉じて、互いの体温を確かめ合うように口付けした。

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