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しおりを挟むその後、テオドールは『勝手な行動をした始末書は書いてもらうからな』と恐ろしい笑みを浮かべた皇太子殿下に連れていかれてしまった。
女王陛下と父親は隠れて訪れていたらしく、すぐに国に帰らなければならなかった。『また会おう』と三人で抱き合っていたが、父親がツーツェイの身体にずっと張り付いて離れないのに最終的には女王陛下が呆れて首を掴んで連れ帰っていった。
そのままモーガンとセリニアに連れられてセオドア侯爵家に帰る。玄関先でまたもやツーツェイを探していたらしい使用人たちが慌てふためいてたけれど……。
「ただいま」
そうツーツェイが笑顔で声を出せば、みな驚いたように目を丸くしてからすぐに瞳にいっぱい涙を浮かべた。『お帰りなさい』と何人もの使用人たちに抱きしめられて揉みくちゃにされてしまったがそれすらも幸せだった。
モーガンとセリニアが久しぶりに屋敷に帰ってきたのでその日の夕食も豪華なもので、二人から他国の土産話をツーツェイも笑顔で返事を返した。
テオドールはやはり始末書などの対応に手間取っているのか夕食の時間になっても帰ってこなかった。
◇◇◇
(綺麗……)
その日の夜、部屋のベッドで横になりつつ歴史書の写真を眺める。そこに写るのは若かり日の母親。色々とあり過ぎて混乱していたが、静かな部屋にやっと落ち着いてくる。
(私にも家族がいたのね)
ぎゅっと胸に抱えれば温かく感じる。揺れる蝋燭の炎が眠気を誘ってくる。力を多く使ったのもあってかツーツェイはすぐに眠りについた。
「……ん……」
優しく頭を撫でる手に瞼を薄らと開く。そこには優しく微笑んでベッドに腰掛け、ツーツェイを見下ろすテオドールがいる。
(テオドール様……帰って……)
「あっ、ごめん。起こしちゃった?」
勢いよくがばっと起き上がれば驚いたように手を離したから、ふるふると首を横に振る。
「……おかえりなさい」
か細く声を出せば、テオドールの顔がまた驚くようなものになったけれどすぐに嬉しそうな笑顔に変わった。
「うん、ただいま」
頭を優しく撫でてから、白のローブを脱いで片付ける。また意識がはっきりしなくてぼんやりと眺めていれば、ツーツェイの胸に歴史書が抱えられているのにテオドールの視線が向いたのに気がつく。
(あ……)
この歴史書は書斎から勝手に持ってきてしまっていた。すぐに棚に戻そうと思っていたけれど眠ってしまって抱えたままだったのにツーツェイが焦る。頭を下げて本を返すように差し出すが、可笑しそうに笑う声が聞こえる。
「大丈夫。そんなことで怒らないよ」
『ツェイの国の本でしょう』とまたベッドに腰掛けて、差し出す本をツーツェイの胸に手で優しく戻される。
そっと掬われる髪。壊れ物を扱うように慎重に大切にその髪を梳く。テオドールがよくツーツェイに触れるときはそのように触れていたことを思い出す。
「いまだに信じられないんだ。君が僕の前にいることが」
その髪を見つめてそっと呟くのにツーツェイが首を傾げれば、その手を少し離す。
「本当は会うことすらできなかった。僕は孤児でツェイは王女様だから」
耳元で光る髪飾りを哀しそうに見つめる。そんなテオドールにまたツーツェイは眉を寄せた。
(この人はまだ……)
『それ以上言ったら怒りますよ?』
そう書いたボードを差し出せば、目を丸くしている。ツーツェイも癖でまた書いしまったことにはっとして耳を赤らめる。ごほんと咳き込んでから、ベッドの横にある机にボードをしまう。
正面を向き直して、テオドールの絡んでいた指先を握った。
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