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しおりを挟む「我が帝国で暮らすならこれを着けてくれ」
手の中で光を吸収する黒い石。その不思議な石になんなのだろうと見つめてしまう。
「結構貴重なものなのだぞ? 普通の封印石とは強さが全く違う」
(封印石?)
「陛下、それは……」
「いい。どうせ使い道がなかったものだ。力を封印したいと思う者なんてそうそうおらぬからな」
「ですが……」
「会話が手書きなのも大変だろう。それにお前もそういうときに声を聞きたいだろう?」
「ッ!?」
皇太子殿下がげんなりした表情を浮かべている。皇帝陛下の意味深な言葉の意味に気がついたテオドールが頬を赤らめる。
父親が物凄く怖いオーラを放ったのに気がついて赤く染まっていた頬を一瞬で青白く変えた。
ツーツェイはよく意味が分からず首を傾げながら、テオドールのローブの裾を引っ張って『どういうことですか』と疑問の眼差しを向けたが……。
「ツェイは知らなくていいから!」
そうテオドールにきっぱりと回答を遮断されてしまった。ごほんと咳き込んでからツーツェイの手に持つ封印石といわれた石のネックレスを手に取る。それをゆっくりとツーツェイの首につける。
「ツェイ、もう我慢しなくて大丈夫だよ」
(え……)
「声を出してみて」
恐怖から顔を横に振るけれど、優しく笑うだけ。
「大丈夫。あぁ、じゃあこの手紙を燃やしてみて」
「っ!」
ツーツェイのポケットに入っていた汚れた白い手紙。テオドールから別れを告げられたものだと思い出して、むっと怒りが湧いてくる。そんなツーツェイに少し気まずそうにテオドールが頬をかいた。
(こんなの燃やしてやる!)
「燃えろ」
そう強く願いながらいつものように声を放ったけれど、白い手紙は燃えない。
(え! な、なんで!?)
何度も「燃えろ」と声を出すけれど炎は出ず、手紙はまったく変わらない。顔を上げれば笑うテオドールの視線の先には胸元で光を吸収する黒い石がある。
(まさか、この石のおかげ……)
「身体に触れていれば力は出せない。安心しろ」
陛下がふっと笑う。
「テオドールと別れて国に帰りたくなったら返してくれ」
「なっ!? 陛下、変な冗談はおやめください」
「早くそうなれ」
「っ!!」
テオドールが怒れば父親が追い討ちをかける。そんな光景にまた笑い声が響く。
(力がなくなった……あの力が……?)
ツーツェイの全てを縛っていたあまりに強く抑えきれない力。それがなくなったということに身体の力が抜けてガクンと膝を床につけば、みな心配そうに駆け寄ってくる。
「ありが……とう……ござ……っ……」
ボロボロと涙が瞳から溢れて止まらない。か細く発せられた声は嗚咽が漏れて汚いものだったが、みなが優しくツーツェイを見守ってくれる。
「ありが…とう…っ…ございます…っく…あり……」
ツーツェイは初めて声を出して泣いた。身体を丸めて封印石を握りながら何度も感謝を伝えた。温かな多くの手が優しく背中を撫でてくれる。
――――温かく心地がいい。
その心地良さに涙を流しながら微笑んだ。
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