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60 男性魔術師たちの悩み②
しおりを挟む「なにこの人、本当に同じ男? でもなんか無性に負けた気分になるのはなんでだと思う、ルイ」
「知らない。お前の日頃の行いのせいだろう」
「いやいや、それはルイもでしょ」
コソコソと話す二人をまた馬鹿にされたのかとテオドールが睨みつければ静かになる。
「んで、ちゃんとできるか心配だと……大丈夫でしょ。なんたってこのルイだって四年も聖人みたいな可愛らしい生活送ってたんだから」
「おい、俺を比較対象として出すな」
ルイが今の妻と婚約する前、四年近く誰とも交際しなかったことを言っているのだろうとテオドールは思い出す。けれどまた頭を抱えて両手を開く。
「え? なに、テオドール様……」
「……十年」
「はい?」
「十年してない!! 四年どころじゃない!」
ダンっと机を叩いたテオドールに『十年……』と二人が呆然とする。だけどすぐにライトの身体が震え出した。
「じ、じゅう……ぶ、ぶははは!! だめだ、やばっ! そんなんもう童貞じゃん! まじ面白すぎ!!」
「ど、童貞……仕方ないだろう! 誰とも付き合う気持ちがなかったんだから!」
「ぶははは!! もっ、やめ……その顔で十年……周りに勘違いメンヘラ女大量発生させてたのに……十年……ははは! だめだ面白すぎる!!」
「おい、ライト。その程度に……」
「いや、無理でしょルイ、こんな面白いことないって……ぶははは!! ……あ」
ライトの前に大きな影が浮かぶ。恐ろしい表情を浮かべたテオドールと身体の周りに浮かぶ大量の魔術陣。
「ご、ごめんなさ……って、ぎゃーーーー!!」
透明の大きな壁が何重にもライトにのしかかっていく。悶え苦しむライトを無視してテオドールがまたベンチに腰掛けた。
「相談相手を間違えた」
「それは俺も含まれるのか。あいつとは一緒にされたくないんだが」
「ルイ、君の口の端が少しあがったのを僕が気づいてないと思う?」
「あぁ……」
また恐ろしい笑顔を浮かべたテオドールにルイがすっと少しだけ横にずれて距離を離す。
「まぁ、大丈夫だろ。好きな相手となら」
「ルイ……」
「下手くそでも。あの能天気ならなんでも許してくれそうだが」
目を開いてルイの言葉を聞くテオドール。そんなテオドールにふっと少し笑いかける。あのツーツェイがその程度で嫌いにならないことをテオドールに伝えたルイなりの励ましのつもりだったのだが……。
「なんで僕が下手くそだと決めつけてるの」
またテオドールが恐ろしい表情をしている。『怒るのはそこなのか』と心の中で突っ込んでしまう。
「さっきから馬鹿にしてるの」
「いや……違う、していない」
「してなかったらそんなこと言わないでしょ」
「待て、テオドール。また始末書は書きたくない。帰るのが遅くなる」
「あぁ、大事な奥さんとの時間がなくなるもんね。だったら変なこと言わなきゃよかったのにね」
何個もまた身体の周りに描かれていく魔術陣。『だから他人の恋路には関わりたくない』とまた思った。
「また、ルイ様の机に始末書の用紙が置かれてるぞ」
「今度はなにをしたんだ?」
「あぁ、あの温厚なテオドール様をまた怒らせたらしい」
「また? まったく、どんな酷いことをしたんだか」
その後、ルイの机の上に置かれた大量の始末書の用紙に周りの部下の魔術師たちがヒソヒソと話している。それを睨みつければ『ひっ!』と声を出して静かになった。
(今回は俺は悪くない……と言っても納得しないだろうな)
前回、テオドールと殺し合いに近い喧嘩をしたときは妻が大激怒してこっぴどく叱られ数日無視された。また今回もそうなるのかと始末書の用紙にペンを走らせながら頭を抱えた。
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