愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

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「ツーツェイ様? あのー、ちょっとまた作りすぎかと……」
「美味しいんですけど、また食べきれないっていうか……」
「あー……今回も冷凍するか」

 ――――ダンッ!!

 無言でパン生地を捏ねるツーツェイ。思いっきりパン生地を机に打ち付ければ使用人たちがすすっと離れていった。
 ツーツェイは悩んでいた。その悩みがまたパン作りに現れる。その悩みとは……。

(テオドール様がまったく触れてくれないッ!!)

 というなんとも破廉恥な悩みだった。そのため誰にも言えずに生地を捏ねてパンを作るしかなかった。

 モーガンとセリニアが屋敷にいたときはよかった。義両親がいる部屋の近くで、そんなことをする勇気はツーツェイにはなかった。ましてや初めてだ。そういうのを気にせずしたかった。

『じゃあ、ツーツェイ、テオドール。また行ってくるよ』
『数カ月したらまた戻ってきますからね』

 数週間かしてモーガンとセリニアは何人かの使用人を連れてまた遠い他国へ旅行へ行くことになった。屋敷の玄関で二人を見送る。

『はい、でもあまりご無理はなさらないでくださいね? 疲れたらすぐに屋敷に戻ってください。あと手紙も毎週書いて送ってくださいね、あとは……』
『ふふ、心配してくれてるのかしら? 私たちの可愛い息子は』
『っ! そ、そんなことは……なくはないですが……』
『ははは、私たちは幸せ者だなぁ』

 テオドールが耳を赤くして目線を逸らせば、二人が嬉しそうに背中を叩く。前より他人行儀ではなくなった親子をみてツーツェイも嬉しくなった。
 にこにこと笑っていれば、こっそりとセリニアが手招きしてくる。なんだろうとツーツェイが顔を近づけると……。

『女は度胸ですよ、ツーツェイ。奥手な男性にはこちらから攻めるのですよ?』
『ッ!?』

 まさかのご指南。真っ赤に顔を染めたツーツェイに微笑んでから二人は颯爽と屋敷を出ていってしまった。

(お、お義母様はなんでもお見通しなのね)

 テオドールとツーツェイがまだ清い関係なのを見越した指南に恥ずかしく頬に手をあてて悶えた。

『ツェイ?』
『な、なんでもありません!!』
『えっ?  うん?』

(でもそれは……お二人がいたからで。さすがにこれからはすぐに触れてきて……)

 なんて甘い想像をしてまた身悶えた。テオドールが魔術省に行ったあと、夜に備えてすぐに準備をしなければとツーツェイはいつもより入念に身体を洗って髪を整えた。

 その夜、帰りが遅かったテオドールをベッドのうえで正座して待つ。

『ツェイ? まだ眠っていなかったの?』
  
 扉が開かれれば、お風呂に入ったあとだったのか髪から水の雫が落ちるのをタオルで拭きながら部屋に入ってきたテオドール。少しだけ大きなシャツを軽く羽織ってボタンを二、三個だけとめているだけなので綺麗な鎖骨と胸板が見えて硬直する。

 今まではツーツェイにも一線を超えない壁があったので、あまりこのようなラフな姿を見せることはなかった。けれど、いまは気を許してくれているのかそういった気楽な姿を見せてくれるようになってきていた。そんなテオドールの姿にツーツェイの目が開く。

(の、ののの脳内保存しなければ!! 私の婚約者様は美しすぎるわ!!)

 目をかっぴらいて見つめてくるツーツェイにテオドールの耳が少しずつ赤くなっていく。

『そんな見つめられたら、穴が空いちゃうから』
『ッ!!』

 赤らむ顔を隠すように手で覆って目線を逸らす。ドキュンと心臓を走る痛みに胸を抑えて見悶える。

『ツェイ? えっ、大丈夫!?』
『……だ、大丈夫です。お気になさらず』

 慌てて駆け寄ってきたテオドールからふわりと石鹸のいい香りがして頭がクラクラする。

(こ、この人は私を殺しにかかってるのか?)

 むっと口を尖らせて睨めば可笑しそうに笑われる。笑われたことにさらに口を尖らせると……。

 ――――ちゅ

 軽く触れる唇。ツーツェイの目がまん丸と開いてポカーンと口を開いて固まってしまう。

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