愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

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番外編

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 互いの国を結ぶ長い森の中のルートを抜ける。どうやら最近出来たルートのようで、まだ内密なものらしい。限られた魔術師と使用人には事情が伝えられて警備に同行してもらっていたため、とくに不都合はなかった。
 そうして馬車も何度か乗り換えて厳重な警備でリンドワールの領土に入った。


「わぁ! テオドール様、海っ、海があります!」
「ツェイ、あれは湖だよ。リンドワールは湖の国だと言われてるからね。国中にたくさんの湖があるんだ」
「へぇ、すごく綺麗……」

 長い森を抜けると広がる緑色の草原と青く光る湖。発展している帝国とは違って自然が多く、湖も初めて見るものだった。
 馬車の窓を開けて身を乗り出していれば、風で帽子が外れそうになったのを慌てて手で押さえる。

「暑くない? 王宮に入れば外していいからね」
「大丈夫です。お二人も着替えいただいてすみません」
「あぁ、いいのいいの。あのローブの方が暑苦しいからね~」

 身分がわからないように髪を纏めて広いつばのつく帽子で隠している。隣と向かいに座るテオドールとライトも帝国の魔術師であることを隠して普段着に着替えていた。

(なんでライト様のシャツのボタンはこんなに外れているんだろう)

 向かいに座るライトの白いシャツのボタンが何個か外されていることに疑問を覚える。ボタンが外れているのなら縫わなければとじっと見つめてしまえば、ライトの口の端があがる。

「ふふ、もっと見てもいいんだよ」
「えっ? あの……」
「ツェイ、こんなの見なくていいから」
「え~、テオドール様には見せてないし」

 シャツの襟を指先で開かれて胸板が見せたのはわざとだったのかと気づく。そんなライトにうっと口をおさえてしまう。

(目がチカチカして、なんていうかこう……)

「どうしたの? あっ、ツェイちゃん! やっぱりテオドール様より俺の方が……」
「いえ……なんだかライト様の色気は胸焼けします」
「え!? ひどっ!」

 わざと悲しそうに怒るライトに満面の笑みのテオドールがツェイの頭を撫でる。『良い子だね、ツェイは』と水を渡されてそれをありがたく受け取って口を付けた。

 しばらく経ってから、自然を抜けて入る城下の街並み。帝国よりは人は多くなく、どちらかというとツーツェイが長年暮らしていたミレイア国に近いものがあった。それでも国の中心部であることには変わりないので賑わっている。

「へぇ、これが秘密主義のリンドワールか。意外に他の国と変わらないね。でも可愛い子が多いかも」

 ライトが興味深けに窓枠に手をつきながら、城下を歩いている女性たちに手を振る。女性たちがそんなライトに驚いて顔を真っ赤にさせてざわめきたっているのにツーツェイはげんなりとしてしまった。

(この国の女の子たちが泣くことにならなければいいけど)

 はぁとため息をついていれば、隣に座るテオドールがじっと窓の外の景色を眺めている。

「テオドール様?」
「あぁ、ごめん。昔とはまったく違うなって……」
「え?」
「昔はなんていうか……もっと暗い雰囲気があって、こんなにも賑やかではなかったかな」
「そうなんですね」

 ツーツェイは、すべて片付いたあとにテオドールから過去のことを軽く聞いていた。
 彼が物覚えがつく前に売られたこと、この城下で人身売買で例のエリオットに買われたこと。すべてが辛く苦しい過去でそれを聞いたときは瞳から涙が止まらなかった。

(また思い出して嫌な気持ちにならないかな……)

 しゅんと俯けば、そっとツーツェイの瞳に触れる指先。

「よかった、いまは泣いてないね」
「あ……」
「大丈夫だよ。昔の面影はないし、それに幸せそうな国民たちが見れて安心した」
「そうですね、みんな幸せそう」

 テオドールの目線の先には笑顔で歩く人々。どの人もみな幸せそうだ。それにテオドールがいた頃のような道端で人身売買が行われている雰囲気は欠片もない。


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