愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

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番外編

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「すべてツェイのお母様のおかげだね。本当に女王陛下はすごい人だ」
「あ……は、はい」

 感動しているのか、嬉しそうに少し頬を赤らめたテオドールにツーツェイも安心するけれど……。

 ――――チクリ……。

(ん? んん?)

 胸に走る小さな痛みに首を傾げてしまう。

(ん~、なんだろう。ざわざわする)

 何故だろうと思っていればいつの間にか王宮に近づいていたのか立派な高い塀と奥にそびえる王宮が見えてくる。さすが国の王宮なだけあって豪華な造りだった。



「ツェイーーーー!!」
「んぐっ!?」

 すぐに王宮の謁見の間に通されれば、扉が開いたあとの直後に何かに抱きくるまれる。

(こ、これは絶対……)

「お父様!! く、くるしっ……」
「会いたかったぞ!! 手紙を書いても少ししか返ってこないから悲しくて悲しくて」
「そ、それはお父様がいつも倍以上の量を送ってくるからでしょう!? 交流もまだ始まったばかりで手紙のやり取りも大変だからある程度にしてくださいと書いて送ってたのに!」
「あぁ、怒るツェイも可愛いなぁ」
「もうっ!! やめてください! 恥ずかしいからっ」

 頬を擦り付けてくる父親をギリギリと手で押し返す。そんな親子に後ろに立つ魔術師たちと使用人たちが目を丸くしている。仮にも長い間、離れ離れだった親子なはずなのに距離がすでに近いと。

 それは単純に父から送られてくる大量の手紙が原因だった。あまりの大量に送られてくる手紙に、途中からツーツェイも面倒くさくなって適当に返すようになった。

「シュトレン殿下、お久しぶりでございます」

 後ろでテオドールとライト、魔術師、使用人たちが一斉に頭を下げる。その姿に父親であるシュトレイン殿下がふんっと鼻を鳴らす。

「あぁ、お前か。いたのか? 気がつかなった、存在感が薄いものでな」

 ――――ピキーン!

 テオドールをふっと蔑むように笑う父親にその場にいた全員が固まったように静かになる。

「ちょっと、テオドール様。めっちゃ嫌われてるじゃん。なにしたんですか?」
「なんにもしてない」
「えー? てかテオドール様を存在感薄いって言う人、初めて見たんだけど。やば、うける」

 笑いを堪えるライトにテオドールが怒りで震えている。

「なにをしているの。勝手に行動しないでと言っているでしょう?」
「あぁ、エミール。申し訳ない」

 後ろから慌てて出てきた母親のエミール女王が怒ったように王配である父親のシュトレンを睨みつけている。
 ドレスの裾を抱えて頭には橙色に輝く宝石のティアラをつけた正装で現れたのに、男性魔術師や使用人、ライトが目を大きく開いている。

「めちゃくちゃ美人! こんな美魔女初めてみた!」
「すごいな……」

 そのヒソヒソとざわめきだつ男性たちにシュトレン殿下が恐ろしいオーラを放ったのに、すっと冷めて一瞬でまた静かになった。

「ごめんなさいね。ゆっくり挨拶ができなくて。ツェイ、長旅で疲れてないかしら?」
「いえ、大丈夫です。慣れてますから」
「ふふ、そう。テオドール」
「はっ」

 目線をテオドールに移したのに頭を下げる。

「頭を上げてちょうだい。あなたもツェイの警備ありがとう」
「いえ……」

 微笑む女王に、テオドールが息を飲むように喉が動いたのに、ツーツェイがむっとしてしまう。

(なんだか、ムカつく……)

 先程の胸の痛みもなぜかわかった気がする。

「皆も。警備に感謝するわ。今日はゆっくりと休んでちょうだい」

 女王がにっこりと笑えば、皆の雰囲気もすぐに温かなものに変わる。女王の人柄か、リンドワールの国が良くなっている理由がわかるものだった。

「お母様……」
「あら、あなたも来たの? さっきまで恥ずかしがっていたのに」

 後ろからまた現れた小さな男の子。まだ十になったくらいだろうか。だけれど橙色の瞳に髪とすでに将来の美貌を約束されているように可愛らしい顔をしている。

(髪と瞳の色が一緒……まさか……)

 驚いたように口を開いてしまうツーツェイを見つめる丸い小さな瞳。

「……お姉様?」

 ――――ギューン!!

 恥ずかしそうに口を開いて笑ったその男の子にツーツェイの胸が苦しくなる。
 身悶えていれば、その男の子が近寄ってきて、ぎゅっと抱きついてくる。

「お姉様っ、僕は……僕はずっとお姉様にお会いしたかったのです!」
「あ……あ…お、えぇ」

(ぐ、ぐほぁ!? び、美少年が! 美少年が私に抱きついてきている!?)

 口をパクパクとさせてしまう。もはや言語が話せなくて胸が締め付けられて死にそうになる。

「ふふ、ツェイ。この子はあなたの弟のイリナよ」
「イリナ……」
「はいっ、お姉様」
「ぐっ!」

 にこーっと笑うイリナが可愛すぎてツーツェイも強く抱き締めてしまう。嬉しそうに背中に手を回して抱き返してきたので悪い気持ちではないのだろう。

「おー、ツェイちゃんにそっくりな可愛い弟くんですね。テオドール様」
「……なんだか、嫌な予感がする」
「え? どういう……」

 初めての姉弟の対面を誰もが微笑ましく眺めていたけれど、テオドールの表情が曇る。ライトが首を傾げたとき、ツーツェイの腕の隙間からこちらを見ているイリナ。それに気がついてライトが手を振るが……。

「そこの男どもは引っ込んでろよ」

 そう口パクで伝えてくるのに手が固まった。
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