愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

文字の大きさ
76 / 80
番外編

8

しおりを挟む
 

「て、テオドール様あれっ、あれっ!」
「あの父親からなんとなくわかってた」
「いや、にしても! めちゃくちゃ子供っぽくない恐ろしい顔してたんだけど!?」

 慌てるライトにげんなりとするテオドール。そんな二人を無視して、シュトレン殿下がツーツェイとイリナに近づく。、

「よかったなぁ、イリナ。お姉様が帰ってきてくれて」
「はい、父上っ! お姉様はずっとこの国にいてくれるんですよね?」
「あぁ、もちろんだ」
「えっ!? ま、待って、私は……」
「お姉様、嬉しいっ!! たくさん遊びましょうね」
「ははは、私も付き合おう」
「えっ!? ちょっと、二人とも私はテオドール様とっ……んぐっ!?」

 ぎゅーっと強く抱きしめてくる二人にツーツェイの声が塞がれる。顔を抱きくるめていることに、わざと喋れなくしているのだろう。

(ど、どうしよう!?)

 慌てるツーツェイにみかねたテオドールが近づいてくる。

「両殿下、お言葉ですがツェイは僕の婚約者で帝国に残るとお伝えしているはずですが」

 ――――ギッ!!

 テオドールの言葉に二人して恐ろしい視線で勢いよく睨みつけたのに、後ろにいる魔術師や使用人たちが『ひぃっ!』と恐怖の叫び声を上げる。

「ツェイが苦しそうです。そろそろ離してあげては?」

 ギリギリと睨みつける二人ににっこりと笑みを返したテオドール。三人が睨み合っている間に、腕から抜けて逃げ出したツーツェイにライトがこっそり話しかけてくる。

「ねぇねぇ、ツェイちゃん。テオドール様って前よりめちゃくちゃメンタル強くなったよね?」
「ははー……そうならよかったのかも?」
「あぁ、じゃないとやっていけないか」
「そ、そうですね……」

 その後、エミール女王が場を収めたことによってなんとかそれ以上の喧嘩にならずにすんだのだった。



◇◇◇


「ごめんなさい!!」
「え?」

 夕食後、割り当てられた部屋でツーツェイがテオドールに思いっきり頭を下げる。そんなツーツェイに荷物を片付けていたテオドールが不思議そうに顔を上げる。

「なんだか、父と弟が失礼なことばかりを……」
「あぁ……」

 あの二人を思い出したのかテオドールが顔を顰めたのにツーツェイがまた顔を青ざめさせる。そんなツーツェイに安心させるように表情を戻して、ふっと笑う。

「大丈夫だよ。大変だけど、あの二人の気持ちはわからなくもないから」
「え?」
「だって、僕が可愛い娘と姉を奪っちゃったわけだから」
「っ!!」

 かぁっと顔を赤らめさせたのにまた可笑しそうに笑う。恥ずかしさを隠すためにも、テオドールに背中を向けていそいそと鞄の荷物をまとめていく。

「ツェイ? どこにいくの?」
「あっ、はい。イリナに一緒にお風呂に入りたいって言われまして……」
「は?」

 夕食後、ワンピースの裾を引っ張ってなにかを言いたげなイリナに話を聞けば『もっとお姉様とお話がしたい』と可愛らしい上目遣いをしてお願いされたのだった。もちろんツーツェイは断ることなく頷けば、それを提案された。

 『なぜお風呂?』と疑問が頭に浮かんだけれど、可愛い弟の願いに断れるはずもなく、また頷いて頭を撫でてやった。

(ふふ、ゆっくり湯船につかってお話したいのかな?)

 『僕の部屋で待ってますね!』と嬉しそうにはしゃぐイリナに、そう単純にツーツェイは結論付けた。

「少し出てきますね。寝る前までには戻ってきます」

 それを思い出しながら笑顔を浮かべつつ、タオルと着替えを持って立ち上がったとき手をテオドールに掴まれて止められる。

「だめ」
「え?」
「絶対だめ」

 じっと見つめるテオドールに首を傾げる。若干、というよりかなり怒っている雰囲気も感じられて、ますます理由がわからない。

「お風呂なら僕と一緒に入ろう?」
「え? っわぁ!?」

 そのまま軽々と抱えられて部屋に隣接する浴室に連れていかれる。

「え!? ま、まって、な、ななんで……」
「嫌?」
「へ? い、いや?」
「ツェイは僕と一緒には嫌なの?」

(うぐっ!?)

 悲しそうに上目遣いで見上げてくるのに胸に衝撃が走る。いまさらだけれど、ツーツェイにとってテオドールの顔はどストライクの好みなのだ。そんなテオドールからの願いに断れるはずもない。

「でもイリナに……」
「大丈夫。僕から伝えておくから」
「は、はぁ」

 にっこりと笑ったテオドールになんだか嫌な予感がするのは何故だろうと思うけれど、すぐに口付けを頬に落とされて考える思考が微睡む。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

処理中です...