愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

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番外編

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 そのまま浴室に入ればふわりと香る花の良い香り。その香る方をみれば開いた扉から見えるのは湯気がたつ広い浴槽。その浴槽のお湯の上にたくさんの色とりどりの花が浮かんでいる。

「テオドール様っ! たくさんお花が浮いてます!」
「あぁ、さすが王宮の貴賓室なだけあるね」

(わぁ! すごい、綺麗っ!!)

 子供のようにはしゃぐツーツェイに微笑みかけてから、ゆっくりと降ろしてあげれば、湯船に浮かぶ赤い薔薇の花びらや花に目を輝かせてお湯から掬って遊んでいる。

「うーん。さっきまで恥ずかしがってたのに……」
「え? なにか言いましたか?」
「ううん。なんでもないよ」
「はい? あっ、これ珍しいお花ですね? 初めて見ました」

 薔薇の中に浮かぶ花びらが多く重なった青色の大輪の花。初めて見る花に両手でお湯ごと掬って眺める。

「あぁ、でもこれは造花だね」
「あっ! 言われてみれば!」
「本物はもっと綺麗らしいよ」
「知ってるんですか?」

 聞けばリンドワールにある一番大きなサウストーレ湖にだけに咲く水花で、名前はセルティルという花らしい。それも一年で三日間だけしか咲かないという貴重な花。

「今回、この日にツーツェイを呼んだのもそれを見せたかったのかもね」
「え?」
「そろそろ咲く兆しがあったらしいよ。早ければ明日から見れるかもって。さっき王宮専属の執事から聞いた話なんだけど」
「へぇ!それは楽しみです」

(この花が湖一面に浮いてる光景は綺麗なんだろうな)

「明日、サウストーレ湖に行こうか? ツェイに摘んであげる」
「はいっ! 行きたいっ、嬉しいです!」
「うん。それにこの花には風習があるから」
「風習?」

 首を傾げたツーツェイのお湯に沈んでいた花を持つ手に触れてお湯から出す。

「愛しい人に贈る風習があるんだって。贈ればずっと傍にいれるらしいよ」

(ずっと、傍に……)

「だからツェイに本物を贈らせて?」

 雫が落ちるその手と花に柔らかい唇が触れる。顔から湯気がたつんじゃないかと思うくらい急激に真っ赤に染まったのを、テオドールに可笑しそうにまた笑わた。

「もう入ろうか?」

 嬉しい感情と恥ずかしい感情で固まってしまっていたツーツェイの耳元で甘く囁かれる。その瞬間、浴槽の花の綺麗さに感動していて忘れていたこの先のことを思い出して、またさらに固まってしまう。

(そ、そそそいえば、一緒に入るためにここに来たんでした!!)

 やはり入ることには変わりないのかと困ったような視線を向けるけれど『なにをいまさら?』と強い圧の笑顔を浮かべたテオドールに言い返すことができず、頷いた――……。
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