77 / 80
番外編
9
しおりを挟むそのまま浴室に入ればふわりと香る花の良い香り。その香る方をみれば開いた扉から見えるのは湯気がたつ広い浴槽。その浴槽のお湯の上にたくさんの色とりどりの花が浮かんでいる。
「テオドール様っ! たくさんお花が浮いてます!」
「あぁ、さすが王宮の貴賓室なだけあるね」
(わぁ! すごい、綺麗っ!!)
子供のようにはしゃぐツーツェイに微笑みかけてから、ゆっくりと降ろしてあげれば、湯船に浮かぶ赤い薔薇の花びらや花に目を輝かせてお湯から掬って遊んでいる。
「うーん。さっきまで恥ずかしがってたのに……」
「え? なにか言いましたか?」
「ううん。なんでもないよ」
「はい? あっ、これ珍しいお花ですね? 初めて見ました」
薔薇の中に浮かぶ花びらが多く重なった青色の大輪の花。初めて見る花に両手でお湯ごと掬って眺める。
「あぁ、でもこれは造花だね」
「あっ! 言われてみれば!」
「本物はもっと綺麗らしいよ」
「知ってるんですか?」
聞けばリンドワールにある一番大きなサウストーレ湖にだけに咲く水花で、名前はセルティルという花らしい。それも一年で三日間だけしか咲かないという貴重な花。
「今回、この日にツーツェイを呼んだのもそれを見せたかったのかもね」
「え?」
「そろそろ咲く兆しがあったらしいよ。早ければ明日から見れるかもって。さっき王宮専属の執事から聞いた話なんだけど」
「へぇ!それは楽しみです」
(この花が湖一面に浮いてる光景は綺麗なんだろうな)
「明日、サウストーレ湖に行こうか? ツェイに摘んであげる」
「はいっ! 行きたいっ、嬉しいです!」
「うん。それにこの花には風習があるから」
「風習?」
首を傾げたツーツェイのお湯に沈んでいた花を持つ手に触れてお湯から出す。
「愛しい人に贈る風習があるんだって。贈ればずっと傍にいれるらしいよ」
(ずっと、傍に……)
「だからツェイに本物を贈らせて?」
雫が落ちるその手と花に柔らかい唇が触れる。顔から湯気がたつんじゃないかと思うくらい急激に真っ赤に染まったのを、テオドールに可笑しそうにまた笑わた。
「もう入ろうか?」
嬉しい感情と恥ずかしい感情で固まってしまっていたツーツェイの耳元で甘く囁かれる。その瞬間、浴槽の花の綺麗さに感動していて忘れていたこの先のことを思い出して、またさらに固まってしまう。
(そ、そそそいえば、一緒に入るためにここに来たんでした!!)
やはり入ることには変わりないのかと困ったような視線を向けるけれど『なにをいまさら?』と強い圧の笑顔を浮かべたテオドールに言い返すことができず、頷いた――……。
22
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる