愛することはないと言った婚約者は甘い罠を仕掛けてくる〜声なし少女と訳ありの結婚〜

前澤のーん

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番外編

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◇◇◇


「あれ~、あれはツェイちゃんの弟……」

 呼び出しされた女性使用人の部屋にでも行こうかとライトが王宮の廊下を歩いていれば見覚えのある橙色の髪の毛をした小さな男児が壁の前で顔面蒼白になっているのに気がつく。

「えーと……あぁっ、イリナ……イリナ殿下、どうかされましたか?」

 俯くイリナの軽く肩を叩けば、ギッと強く睨みつけられる。

(わ~。ご乱心……これは……)

 イリナが手をつくところを見れば、何個もの魔術陣の上に分厚い透明の壁。その奥には部屋に通じる扉がみえる。あまりの厳重な壁に『あぁ、なるほど』とすぐに状況がわかる。

「お前、黒魔術師だろう!? すぐにこの壁を壊せ!」
「いやいや、無理ですって。これ作ったの帝国一の白魔術師ですよ」
「そんなこと俺には知ったことじゃない! なんとかしろ!」
「いや~。壁に攻撃してもいいですけど、弾き返されて一瞬であの世逝きですよ」

 手で横に首を切るような素振りすれば、イリナが怒りで顔を赤らめて震えている。

「帝国一の黒魔術師ですら避けきれないほどなんですから、俺が攻撃したら身体中穴だらけ。諦めてくださいな」

(はぁ~。今頃楽しんでるんだろうな~。あんな可愛い子と羨ましい)

 まさかルイに引き続きテオドールも想い人が出来るとは思わなかった。『そういう人ができるってどんな感情なんだろう』と甘い想像に悔しくもあり羨ましくもなる。

(……ん? でもツェイちゃんの甘い声は聞いてみたいかも?)

 そんな邪な考えがイリナに伝わったのか、さらに顔を赤らめて怒り眉を歪めて睨んでくる。

「貴様、姉上に変な想像をするな」
「えぇ~。想像くらい許してくださいよ。まぁ、テオドール様にバレないように壁壊してみますから」
「……っ」

 黙ったイリナに笑いかけてから、分厚く硬い壁に手を触れて魔唱を唱える。手に小さく静かな炎が宿って、透明の壁がじんわりと溶けていく。

(気が付かれるか……いや、ゆっくりと溶かせばわからないはず)

 ふふっと悪い笑みを浮かべて少しずつ薄くしていく。どうせ全てを壊せないのは分かっていた。全て壊してしまえばあの優秀な高位白魔術師がすぐに気がついて恐ろしい報復を受けるに違いない。なので中の声が聞こえるところまでで止めようと悪巧みする。

(さて、このくらいでいいかな……ツェイちゃんの甘い声は……ん?)

 少しだけ薄くなった壁に耳を当てようとしたとき何かが割れるような小さな亀裂音がする。それに感じる凄まじく強い力……。

「ッ!!」

 ――――バリッ!!

 その瞬間、いつの間にか足元にひかれていた魔術陣から新たな透明の壁が伸びる。僅かな魔術の力を感じ取っていたおかげで咄嗟に身体を離すことができて、間一髪のところで避ける。

「うっわ、あっぶな!! 腕なくなるとこだったんだけど!?」

 鋭い壁が天井に深く突き刺さったのに、バクバクとライトの心臓が音を立てている。それに久しぶりに感じた死の恐怖で手が震えている。

「あの人、俺を殺す気!? これでも一応公爵令息なんだけど……ってか、なんでヤってる最中も気がつくんだよ、まじ怖すぎ……」
「ヤっ!?……不埒な事をいうな!」
「いや事実でしょう」
「ぐっ!!」

(やっぱ、あの人……優しそうに見えても中身はかなり恐ろしい)

 ツーツェイには手を出さないのがやはり得策かと腰を上げる。それはイリナもわかったのか悔しそうに壁を叩いた。そんなイリナを慰めるようにライトが頭を撫でれば物凄い形相で睨まれたので、すぐに手を離した。

「はぁ、興醒め~、今日は大人しく寝よ」

 『貴様っ、我が国の王宮でなにをしようとしていたんだ』と怒り狂うイリナを無視して大人しく部屋に戻った。


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