78 / 80
番外編
10
しおりを挟む◇◇◇
「あれ~、あれはツェイちゃんの弟……」
呼び出しされた女性使用人の部屋にでも行こうかとライトが王宮の廊下を歩いていれば見覚えのある橙色の髪の毛をした小さな男児が壁の前で顔面蒼白になっているのに気がつく。
「えーと……あぁっ、イリナ……イリナ殿下、どうかされましたか?」
俯くイリナの軽く肩を叩けば、ギッと強く睨みつけられる。
(わ~。ご乱心……これは……)
イリナが手をつくところを見れば、何個もの魔術陣の上に分厚い透明の壁。その奥には部屋に通じる扉がみえる。あまりの厳重な壁に『あぁ、なるほど』とすぐに状況がわかる。
「お前、黒魔術師だろう!? すぐにこの壁を壊せ!」
「いやいや、無理ですって。これ作ったの帝国一の白魔術師ですよ」
「そんなこと俺には知ったことじゃない! なんとかしろ!」
「いや~。壁に攻撃してもいいですけど、弾き返されて一瞬であの世逝きですよ」
手で横に首を切るような素振りすれば、イリナが怒りで顔を赤らめて震えている。
「帝国一の黒魔術師ですら避けきれないほどなんですから、俺が攻撃したら身体中穴だらけ。諦めてくださいな」
(はぁ~。今頃楽しんでるんだろうな~。あんな可愛い子と羨ましい)
まさかルイに引き続きテオドールも想い人が出来るとは思わなかった。『そういう人ができるってどんな感情なんだろう』と甘い想像に悔しくもあり羨ましくもなる。
(……ん? でもツェイちゃんの甘い声は聞いてみたいかも?)
そんな邪な考えがイリナに伝わったのか、さらに顔を赤らめて怒り眉を歪めて睨んでくる。
「貴様、姉上に変な想像をするな」
「えぇ~。想像くらい許してくださいよ。まぁ、テオドール様にバレないように壁壊してみますから」
「……っ」
黙ったイリナに笑いかけてから、分厚く硬い壁に手を触れて魔唱を唱える。手に小さく静かな炎が宿って、透明の壁がじんわりと溶けていく。
(気が付かれるか……いや、ゆっくりと溶かせばわからないはず)
ふふっと悪い笑みを浮かべて少しずつ薄くしていく。どうせ全てを壊せないのは分かっていた。全て壊してしまえばあの優秀な高位白魔術師がすぐに気がついて恐ろしい報復を受けるに違いない。なので中の声が聞こえるところまでで止めようと悪巧みする。
(さて、このくらいでいいかな……ツェイちゃんの甘い声は……ん?)
少しだけ薄くなった壁に耳を当てようとしたとき何かが割れるような小さな亀裂音がする。それに感じる凄まじく強い力……。
「ッ!!」
――――バリッ!!
その瞬間、いつの間にか足元にひかれていた魔術陣から新たな透明の壁が伸びる。僅かな魔術の力を感じ取っていたおかげで咄嗟に身体を離すことができて、間一髪のところで避ける。
「うっわ、あっぶな!! 腕なくなるとこだったんだけど!?」
鋭い壁が天井に深く突き刺さったのに、バクバクとライトの心臓が音を立てている。それに久しぶりに感じた死の恐怖で手が震えている。
「あの人、俺を殺す気!? これでも一応公爵令息なんだけど……ってか、なんでヤってる最中も気がつくんだよ、まじ怖すぎ……」
「ヤっ!?……不埒な事をいうな!」
「いや事実でしょう」
「ぐっ!!」
(やっぱ、あの人……優しそうに見えても中身はかなり恐ろしい)
ツーツェイには手を出さないのがやはり得策かと腰を上げる。それはイリナもわかったのか悔しそうに壁を叩いた。そんなイリナを慰めるようにライトが頭を撫でれば物凄い形相で睨まれたので、すぐに手を離した。
「はぁ、興醒め~、今日は大人しく寝よ」
『貴様っ、我が国の王宮でなにをしようとしていたんだ』と怒り狂うイリナを無視して大人しく部屋に戻った。
15
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる