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第三章 捻くれ皇子の疑問と熱視線
勘違いではないようです2
しおりを挟む――――ドッ!!
幼い彼の面影がいまの笑顔と重なった瞬間、心臓が大きく跳ねた。
「リゼ、飲まないの? せっかく淹れたのに」
「は、はは、い、いただきますぅ!!」
しゅんと可愛らしく落ち込む彼に、慌ててカップを手に取った。なぜだ、猫シャーモードはいったいどこへ行ったんだ。どうしていまは懐かしのゴロゴロモードなのだ。
(陛下になんと思われるか。可愛い息子が年増に求婚したあとにトラウマにされ、さらに生まれ変わりの没落貴族使用人の私にまた懐いたら……)
想像するだけで、ダラダラと汗が溢れて流れて、手がガッタガタに震えている。ただ私は主君に仕えたいだけなのだ。本当にそれだけ。本当なんです、陛下。
(いやいや、待て待て。冷静になろう。記憶は昔のものだ。勘違いかもしれない)
カップを持ちながら『自意識過剰なのも呆れたものだ。私の中身はゴリラだぞ』と卑下し、ふっと息を吐いて冷静になる。
「美味しい、リゼ?」
「あっ、はい、美味しいです」
「そう? あんまり飲んでないから」
「あっ、違っ……飲んでますよ! たくさん!」
殿下がしゅんと少しだけ悲しそうにしている。
(私がくだらない勘違いをしている間に、なんてことを!)
私としたことが主君にいらぬ心配をかけさせてしまった。殿下が直々に淹れてくれた貴重なありがたい紅茶をごくごくと勢いよく飲む。
飲み干したあと、はっと我にかえった。思わず男騎士たちと酒場にいるような飲み方をしてしまった。殿下を横目で見ると、案の定目を丸くしている。
「は、はしたなかったですよね!? すみま……」
「ううん。そっちの方が好き」
けれどふっと優しく笑った。「もう一杯淹れてあげる」とポットにお湯を注ぐ。
(……あ、あの、勘違いですよね? )
「リゼのために仕入れたんだよ。この間の紅茶のお返し」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます。殿下の淹れてくれる紅茶はとっても美味しいです!」
「そう? ほかのものと変わらないと思うけど」
「いえ、そんなことはありません! 蒸らし時間も完璧ですし、さすがなんでも上手にできるだけありますね!」
騎士のときのくせで、うちの子自慢のようにべらべらと褒めると、殿下が静かにカップに紅茶を注いでいる。ゆっくりとそのカップを私に差し出して顔を上げた。
「褒めすぎ。恥ずかしい」
(か、勘違い……)
その頬がほんのりと朱色に染まっている。それは懐かしの色で……つまりは……。
(勘違いじゃない!!)
――――ドッドッドッ。
この王宮から少し離れた静かな場所のためか心臓が跳ねている音が鳴り響いている。昔の彼と完璧に重なった私にだけみせる優しく自然な表情。
(うそだろう。なんでだ。リゼの何がそんなに懐かれる要素があったんだ?)
「リゼ」
「あ……」
長い指先が伸びてきて、口の端をなぞる。
「ついてる」
真っ白な殿下の手袋が紅茶の色に淡く染められる。そのまま唇をなぞって……。
「お兄様ーーーー!!」
――――バンッ!
部屋の扉がいきなり開かれた音で、びっくぅと身体が跳ねた。瞬時に殿下の手から後ろ回転で離れる……が、壁の距離を見誤って額が激突した。痛い。
「何してるの? リゼ」
「あっ、こここここれは準備体操というか、筋力上げるためというか」
「そう? なんだか大変なのね? 使用人の仕事って」
「あははー。そうですねー。仕える人によりますけど」
ルノ様が不思議そうに上から覗いている。しゃがみこんでいたのを屈伸して誤魔化す。そんな私たちを愉しそうに笑って見ている殿下は本当に捻くれた性格になったと思う。
(まぁ、あの空気から逃げられたのはよかったのか……ん?)
「っわ……あっ、お、皇子っ、殿下」
「お母様、落ち着いてください」
「そ、そそそうよね!? 初めて離宮にお呼ばれしたから興奮しちゃった」
ルノ様の後ろから現れたのは、小柄なふわふわした黄色の髪の女性とその女性に似て可愛い顔をした十歳くらいの男の子。それに……。
「なーにしてんだ、お前は? しっかり働かねーとお給金あげないんだからな?」
いつものゴリラ。このまま屈伸運動で顎に頭アタックしてやろうか。いや、ルノ様もいるのだから我慢我慢。
(って、この女の人と男の子は……)
「アルフェント様、女の子に酷いことを言ってはだめです!」
「あぁ、悪い悪い。なんだかこいつを見てると妙にいじめたくなるんだよ」
「もぅ、だめったらだめですよ。めっ!」
ほわほわ~。
なんなのだ。この甘い空間は。可愛らしい女性にぽこぽこと胸を叩かれて、アルフェント兄様はまんざらでもなさそうだ。鼻の下が伸びて伸びきっている。見てはいけないものを見させられている気分。吐きそうだ。
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