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第五章 ずっとお守りします
これは恋なのでしょうか3
しおりを挟む「ふふ、たくさんあるようですね」
「そう、ですね。殿下が笑顔なら私はそれでいいようです」
彼が悲しく辛いことがあれば私に預けてほしかった。ぽっかりと空いた十八年間は長いものだったに違いない――――私も辛く苦しい時間だった。
そのときを思い出して顔を俯けさせた私にロザリー様がゆっくりとクッキーを差し出してくる。
「ロザリー様?」
「これは私の手作りなのです」
「あぁ、道理で美味しいわけだ」
彼女が柔らかく微笑んでからカップに手を伸ばして口つけたあと、ゆっくりとソーサーに置き直した。
「美味しいものを互いに美味しいと感じたい。悩んでいることがあれば、優しく手を差し伸べたい」
「え?」
「そう思うことはありませんか?」
「それは……」
「一緒に感情を共有し合いたい。私は愛しい人にはそう思うものだと思うのです」
(共有……)
ただ騎士として守りたい、皇帝になるのを見届けたい。そう思っていたはずなのに――――一番近くには私がいて、彼から微笑みかけられることを望んでいる。
「私は……」
小さなこと、くだらないことでも、ずっと一緒に笑い合えたのなら。想像するだけで幸せな気持ちに包まれた。
胸につかえていたものが、すとんと落ちるように整理される。そんな私の姿にロザリー様が嬉しそうに微笑んだ。
「俺の奥さんはやはり可愛らしいな」
(んげ!?)
いきなり背後から現れたアルフェント兄様。いまの会話を聞かれていたのかと焦ったが、彼の鼻の下が伸びに伸びきっている。どうやらロザリー様の惚気話しか聞こえていなかったようだ。
「アルフェント様っ!? ど、どうしてこちらに!?」
「いやぁ、陛下から先に帝都に戻ってもいいとお達しを受けてな」
にやにやと笑うアルフェント兄様と恥ずかしそうに照れるロザリー様。また見たくないものを見せつけられてすぐに立ち去りたくなる。
「アルフェント卿。陛下の護衛は大丈夫なのですか?」
「あぁ、大丈夫だろ。一番強いのが近くにいるから。それはお前がよく分かってるだろ?」
「あはははー……まぁたしかに」
(クレイセント様がいるから心配も少ないというわけか)
「それに早急に戻らねばならん理由もあったしな」
「理由?」
首を傾げてその理由とやらを聞こうとしたとき、なんだか外が騒がしい。
「何かあったのでしょうか?」
ロザリー様が様子を伺うために立ち上がれば……。
「アラン!?」
庭園に入ってきたのはアレンと数名の騎士たち。それにみな立つのがやっとといったくらいに傷ついている。
「母様っ、父様!!」
「どうして、こんな……何があったの!?」
「申し訳ありませんっ、僕っ……」
アランが血に濡れた剣を握りしめて震えている。
(護衛していたのではないのか!? それに騎士の数も減っている)
「ルノセシア様は!? 何があった!」
兄様がアレンの両肩を掴んで問いただせば、眉をゆがめて頭を下げる。
「僕……守ろうと……でもルノがっ……っぅ」
身体を震わせて大粒の涙を流しながら剣を強く掴む。ロザリー様が抱き寄せて頭を撫でるが、アランの震えは収まらない。
彼が話せる状態ではないことにアルフェント兄様が騎士の方へ向いた。
「どうしてこんなことになっている!?」
「っ……いきなり何者かに襲われました。お守りしようとしたのですが、そのまま……」
「ふざけるな! お前たちはルノ様直属の護衛騎士だろう!」
「父様っ! 僕がっ、僕が悪いのです! 僕にルノを守る力がなかったから」
「アラン……」
騎士の首の襟元をつかむアルフェント兄様の背中をアレンがつかんで必死に止める。
涙を流して顔を真っ青にさせるアレンに兄様が「っくそ!」と騎士をつかんでいた手を離した。
「アルフェント様……あれはおそらく呪術の類です。身体がうまく動かなくなりました」
「ルノ様、自らが私たちの代わりに……」
どうやら何人かに囲まれて最初は応戦していたが、急な身体の縛りにうまく動けなくなったらしい。
端からルノ様だけが狙いだったようで、引き渡せば命は助けてやると言われたようだ。
(なぜルノ様を……)
前にも思ったことだが、ルノ様は強い『白』の力を持っているが、皇女であるがゆえに皇位継承権は持っていない。そもそも彼女が狙われる理由がないのだ。
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