勇者と魔王の明るい農村計画―最強魔王は最弱になり、勇者と共に開拓する―

灰色人

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冒険者ギルド2

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 ベルディアの後に続いて入った奥の部屋は、先ほどまでいたロビーと違う雰囲気の部屋だった。

 部屋には四人以外誰もおらず、まだ仕事が始まっていないことを伺わせる。

「とりあえず、先に登録しようかね……」

 そういいながらベルディアは自分の机だと思われる場所から厚手の羊皮紙ようひしを三枚取り出して机の上に置く。

「これに名前書いてくれるか?」

 一人一枚の羊皮紙と筆を受け取って書かれている項目を埋めていく。名前、年齢、職業など。

「ユノ、そういえば職業どうするんだい?」

勇者ブレイバーはもう使えないよね?」

「もう元がついちまってるからね……」

「じゃあ、剣士ブレイダーにしようかな」

「まあ、あんたらしいね。二人はどうするんだ?」

 ベルディアの言葉に再び頭に疑問符を浮かべる。職業といわれてもぴんとこない。

「まさかそこからかい?」

 おそらく知っていて当然のことなのだろう。ベルディアのほうは額に手を当ててこちらを見る。

「まあいいよ。職業は冒険者にとっての肩書きみたいなものだ。剣士、武闘家、賢者、魔法使い、弓使いに槍使い、そんなところか。ほかは特殊な職業が多いね。勇者なんてその典型だが……」

「わらわは決めたぞっ!」

「お嬢ちゃんはなんにするんだい?」

「わらわはやはり魔法使いじゃな」

 魔法の扱いに長けたフォックステールらしい回答だ。

 ルシアも思案した表情でどれにしようか迷っていた。

「ルシアも何か悩んでいるのかい?」

 羊皮紙とにらめっこをしていたルシアにベルディアが覗き込んでくる。目の前の豊満な胸の谷間が見えて、ルシアはビクッと震えた。

 ――見てはいけない。見てはいけない。

「いや、職業をどうするかな……」

「なるべく慎重に選んだ方が良いよ。職業によって付いてくる特典みたいなものが違うからね」

「特典?」

 更に聞きなれない言葉にルシアは困惑の表情を浮かべた。

「本来、ギルドはダンジョンの攻略ではなく魔王軍と戦う戦力を確保するために生まれた傭兵組織のようなものなんだ」

「傭兵組織ね」

「普通の兵士だと給料制だが、傭兵となれば自分の実力に見合った対価を得ることができる。実力あるやつがその分の報酬を得るのは当然だろう?」

「確かに、その通りだな」

 ルシアが魔王をやっていた時もベルディアが言ったようにそれぞれの実力や成果によって報酬を与えていたので、その言葉に共感が得られた。

「そういう奴ってのは悪人が多くてね。なまじ実力がある分、山賊なんかになるやつが多かったわけだ」

「なるほど、だからか」

 言わんとしていることの意味を汲んで、相槌をつく。

「理解が早くて助かる」

「なんで納得できるんですか?」

 おそらくこの中でただ一人理解ができていないのはユノだけだろう。可愛らしく首を傾げている。

「ユノ、お主は勇者をやっていたんじゃろ? なぜわからんのじゃ……」

「勇者ってだけで、戦いだけに生きていたので……」

 全員から呆れられて、項垂れるユノに仕方なくクレアが代表して口を開いた。

「山賊よりも稼げる仕事があるなら、山賊なんぞやらんでも良いと言うのが自明の理じゃろ。やってることはほとんど同じじゃからな」

「なるほど、確かにその通りですね」

「そんなことより続けるぞ。特典と言うのは、職業ごとに設定されている使用する武器などが破格で買えるものだ。剣士だったら、剣が。槍兵だったら、槍が安く買えるものだな」

「なんだ、その程度か」

 クレアはすっかり興味を無くしたように座っていた椅子の上で足をぷらぷらし始める。

「ルシア、君は見たところ、魔力適正も身体能力もそう高くなさそうだね。ただ、口と頭は回りそうだから指揮官コマンダーとかやってみたらどうだい?」

指揮官コマンダー?」

 ベルディの口から出た言葉にルシアを含めた三人がいっせいに首をかしげる。ユノも聞いたことないということは相当珍しい職業なのだろう。

「その名が表すとおり、自力戦闘ではほとんど役に立たないが味方に指示を与えて戦闘をコントロールする指揮官だよ。ちなみに特典はどんな商品でも割引が効く」

 割引という言葉に反応して、目を見開いた。

「それでいいか」

 それで能力が変わるわけでもないので、ルシアはギルドの登録用紙に指揮官コマンダーと記入することにした。

「また職業を変えたかったらこっちにいいに来な。金はかかるがね」

 ベルディアはそう言うとルシアに対して笑いかける。どうやら、金銭のことに執着していると思われたらしい。

「とりあえず、これをもって向かいの絵描きの家で似顔絵かいてもらってきな」

「わかったよー、言ってくるねベルディア」

 元気よく返事をしてユノが三人分のギルドの登録用紙を集めて扉を開く。

 次にルシアが声をかけようとしたときには、すでに扉は閉じてしまっていた。

「あいつ……本当に……」

「いくぞ人間」

「いってらっしゃい」

 背中に声を受けて言われたとおりにギルドを出て正面の家に入る。ここで似顔絵を描いてもらうようだ。

「いらっしゃい……」

 おくからこの家の主だと思われる老人が出てきた。立派な髭を生やした、男性だ。

「これをお願いします」

「ギルド登録者かい」

 抑揚のない声で店主が、イスに座って絵を描き始める。

 どうにも陰気臭い雰囲気が漂っている。

「どこかに座らなくてもいいんですか?」

「わしはな。一度見たものならどんなものでも書くことができる。嬢ちゃんや後ろの二人も覚えたから大丈夫だ」

 どうやら余計な心配だったようで、老人はその筆を走らせ続けていた。

「どうするかな……」

 これからの予定を再びルシアは頭の中で組み立て始める。ダンジョンがどこにあるのかはわからないが、おそらくそんなに遠くはないだろう。

 遠かったらそれだけ村を作る計画が遅れてしまうだろう。ユノもさすがにそのあたりは考慮しているのではないかとルシアは思った。

「ダンジョンはこの付近には一つだけ。ここから大体に二時間ほど歩いた先にありますよ」

「わらわはあまり歩きたくないぞ」

「子狐は黙ってろ」

「人間……お前というやつは……」

「お前たち、ダンジョンに行くのか?」

 話していた内容を聞いていたのであろう、似顔絵店の店主が筆を震わせていた。

「そうですよ。今日行こうかと」

「本当か?」

 信じられないものを見るような目で店主はこちらに詰め寄ってくる。そして何かを懇願するような目。

「だったらどうした?」

「わしの孫を探してきてはくれないか?」

「孫?」

 老人のあまりの乱れぶりに若干引きながらルシアは老人の前へと出る。

「ああ三日前に急にダンジョンに行くと言い出して行ったきり戻ってきておらん」

「で、それを回収してきてほしいと」

「やりましょうルシア!」

 店主の意図を読み取ったのだろうユノが助けに行こうと身支度を整え始めたところで、ルシアはその手を取って引き止める。

「ダメだ」

「何でですか!」

 相当気に入らないようで、真っ白い肌を赤くさせてルシアを睨みつける。目にはただ助けなくてはいけないという使命感に駆られていた。

「店主、お前が差し出せるものは?」

「強請るつもりか?」

 店主が剣呑な目つきで睨み付けてくる。

「そうは言ってない。ただ、依頼するんだったらその対価を払うのは当然だろう」

「そうじゃな。わらわもその通りだと思うぞ。ただで助けてもらおうとはいささか都合がよすぎるの」

 魔族二人は睨まれたまま、店主を見つめ返していた。

「でも助けるのは人として当然ではっ!」

「俺は勇者じゃない。困っている人に手を差し伸べられるほど、やさしくもない」

「わかった……いいだろう。孫を連れ帰ってきてくれたら金を出そう」

 諦めたような店主の言葉に、にやりとルシアは笑って未だ握っていたユノの手を離す。

「で、近場のダンジョンなのは間違いないんだな?」

「ああ、イオリアの遺跡ダンジョンに行くといっていたから間違いない」

「おぬしの孫の特徴を教えるがよい。あと、名前と年齢もな」

「名前はカルロス・セルベロス。年齢は十五だ。これが孫の似顔絵だ」

 差し出された似顔絵を見て三人は一瞬固まった。

 似顔絵が描かれた紙にはなんとも可愛らしい少女がかかれていた。カルロスの名前からは想像ができないほどの美少女だ。

「じゃあ、この以来確かに引き受けました」

 未だ納得していない様子のユノがしぶしぶといった表情で店主に対して言葉を返してギルドのほうへ向かっていった。

「相当怒っているみたいだな」

「それは良いのだが、わらわたちは一応ただで助けてもらっておるんだがな」

「大丈夫だ。村づくりという大きい対価を払うことになる」

 クレアとそんな会話をして、二人もユノに続いてギルドのほうへと歩き始める。
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