勇者と魔王の明るい農村計画―最強魔王は最弱になり、勇者と共に開拓する―

灰色人

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勇者と魔王のダンジョン攻略1

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「それで、ダンジョンに早く行きたいと……」

「はいっ!」

 真剣な眼差しで見つめるユノにベルディアは呆れるように頭を抱えた。

「あのね。そういう話はギルドを通してもらわないと困るんだよ」

「でも……」

 ベルディアの言葉に必死に食い下がるユノ。それがギルドに着いた時にルシアとクレアが見た光景だった。

「何してんだ……」

 ルシアもベルディアと同様に頭を抱える。まだ二日しか経っていないが、ユノは割と猪突猛進なイノシシ娘だ。

「お主の言いたいこともわかるがの」

「ユノお前はいつもそうだが、今はもう勇者じゃない。特例は許されないんだ……」

「報酬を貰わなければ大丈夫なんですかっ!?」

「そういう問題じゃないんだよ」

 どうするべきなのだろうかとルシアは考える。この状況を打開する策を練らなければいけないだろう。

「依頼を出せばいいのか?」

「だが、依頼の審査がある。それが終わるまで出られないぞ」

「どれくらい時間がかかる?」

「王都のギルド本部へ連絡をつけなければいけない。今の時間からだとおおよそで半日ほどかかる」

「人の命がかかってる場合、緊急性が高い依頼ならもっと早く対応できるんじゃないか?」

「ダンジョンから戻ってこないと言う事なら、ダンジョンに潜っている可能性もあるからね。緊急性を要さないと判断されかねない」

「ふむ……。ちなみに、冒険者の登録をしていない人間がダンジョンに入った場合、なにか不都合はあるか?」

「本来ならありえないが……冒険者じゃ無いものがダンジョンに入った場合は王から厳罰を受けることになる……強制労働とかな」

 かすかにベルディアの目に不安の色が宿ったのをルシアは見逃さなかった。

「なるほどな……」

 手で口元を隠して目を閉じ、ルシアは思案する。

 人間界に来てからの会話を思い出し、口元に笑みを浮かべる。

「冒険者の中にカルロス・セルベロスという名前はあるか?」

「セルベロス? 似顔絵かきのじいさんの孫か。登録はないはずだが……おい、まさかっ!」

「それなら一般人として緊急を要するはずじゃないのか?」

「わかった。確認してくる」

 奥の部屋に入っていくベルディアを見送りながら、ルシアは一息つく。

「どうしてカルロスさんが一般人であることが分かったんですか?」

「あの爺さん、身内の危険だと言うのに依頼してなかった。という事は依頼をできない理由があるはずだ」

「冒険者でないのにダンジョンに行っておることを知っていたということかの。少なくともあの爺さんはユノが元勇者だということを知っていたということじゃ」

「二人ともよくわかりましたね」

 その言葉に二人は同時に頭を押さえる。あの場でルシアが動かなければユノは長い時間この場所で留まっていることにいなっていたであろう。

「やはり、カルロス・セルベロスと言う名前の冒険者はいないね」

 奥の部屋から戻ってきたベルディアに、先ほどと同じ笑みを浮かべながらルシアが口を開く。

「取引しないか?」

「取引だと……」

 ルシアの言葉にベルディアの顔が歪む。屈辱だと言わんばかりの表情にルシアは内心でほくそ笑む。

「一般人がダンジョンに入った場合、責任を取らされるのはダンジョンに入った本人だけじゃないよな?」

「ッち……よくわかったね。イオリアの遺跡ダンジョンに一番近いこのギルドの支配人のあたしにも責任がある」

 舌打ちをしてどこかせいせいした顔のベルディアにルシアはたたみかける。

「この話を聞かなかったことにしてくれないか?」

「ルシア……お前はユノと違うな」

「そうだ。だが、別に悪い話ではないだろい?」

 ベルディアにとっても良い話のはずだ。このまま依頼を出せば、支配人でもあるベルディアの地位も危ぶまれるだろう。しかし、ここで内密にことを運んでしまえばその責任をとる必要はなく、こちらとしても似顔絵屋の老人の依頼を完遂することができる。

「……わかったよ。今回の話し、私は何も見ていない。それでいいかい?」

「上出来だ」

 その言葉に安心して、ルシアは笑みを浮かべる。

「ルシア……ありがとう」

「まあ、よかろう。出発するんじゃろ?」

「後の手続きはあたしがやっておくよ」

「ありがとう、ベルディア。じゃあ、行きましょうか」

 感謝の言葉をベルディアに送って、三人はギルドの扉を開いて走る。

 もしかしたらすでに死んでいる可能性もあるが、一刻も早く到着したいという感情がユノの全身から伝わってくる。

「街を出たら、全力でイオリアの遺跡ダンジョンまで走ります。ちなみに、クレアはどれくらい速く走れますか?」

「わらわは今の十倍程度までなら軽く走れるぞ」

 街の中を疾走しながら走る二人の速度についていけずにルシアはへろへろと二人の後を追って大通りを駆け抜けていく。

「む……おい、ユノ。あ奴が遅れておるぞ」

「そうですね。クレアは先に街の入口に行っててください」

 そう言いながら、更に速度を速め、二手に分かれていく二人を見て、ルシアはついて行けずに走るのをやめて歩くことにした。

 ――あの馬鹿ども……早すぎるだろ……。

 荒れた息を整えながら、ルシアも少しずつ街の入口の方へと近づいていく。

 ――といっても、戦闘で使えそうなものもないしな……。

 恐らく戦闘になったとしても役立たずなのは必須だろう。

「どうしたものかね……」

 微々たる魔力しかないルシアでは正直なところ足手まといがいいところだろうが、それはルシアが納得できるものではなかった。

 ――魔界最強が聞いて呆れるな……。

 手持ちの道具は何もない。

 考え事をしながらああるいていると、衝撃を受けた。人とぶつかったのだろうか、衝撃によって転んだ体を起こして目の前にいるはずの人物を見たが、そこには誰もいない。

「何だったんだ……?」

 そう思いまあ割を見渡した時、目の前に見たことのあるものが置かれていた。

 それを手にとって、持ち運びやすいように魔力で作りだした空間の中へとしまいこむ。

 ルシアの顔には安心したような表情で彩られていた。

「これがあれば多少なりとも戦えるな」

 後ろの陰でほほ笑む者に気づかずに、そのままルシアは街の入口へと歩いていった。
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