勇者と魔王の明るい農村計画―最強魔王は最弱になり、勇者と共に開拓する―

灰色人

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勇者と魔王の村作り5

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 結局、夕方になる頃には読み終えて村への帰路にルシアはついていた。

「ユノの過去か……」

 ベルディアに聞いたユノの過去の出来事の一部は、ルシアにとってどこか気になるものだ。まだ、ユノ自身にはルシア達が知らない秘密があるのではないかという疑問が頭の中に残る。

 考えはまとまることなく、夕焼けの中をルシアは歩き続けた。

「……」

 ユノの事以外にも考えなければいけない事は山のようにある。正直に言って、このまま放置しておけない問題はあった。

 ルシア自身の魔力を封じ込めた方法と、それを取り戻す方法、それに加えてイオリアの遺跡ダンジョン内の光景。村作りなど、考えなければいけない範囲は多岐にわたっている。

 流石のルシアでも、全てを把握できるわけでもない。それに自分だけでは手が足りそうにない。

 そうなってくると元魔王として、やはりどう考えても《人を使う》という結論にたどり着いた。

「ユノ……クレア……アリス……ガンド…………」

 一人づつ名前をあげながらルシアは考える。どうすれば良いのか、おそらくこの中で完全に異変に気がついているのはルシア自身だけだろう。

「イオリアの遺跡ダンジョン……アリスとガンドにつけられていた首輪……騎士団……」

 そんなことを考えながら歩いていると日はどっぷりと浸かり、村にたどり着いた時にはすでにみんなが寝静まったあとだった。

「……甘くなったものだな……」

 虫の音しか聞こえない家の中で川の字になってスヤスヤと寝息を立てている三人を見ながらルシアはぼそりと呟く。

 ――人間も魔族も滅ぼとか言っておいてコレとは……我ながら情けない。

 助けてくれたユノに、慕ってくれるクレアとアリス。魔界から懸賞金が出ているというのに、ルシア自身をつきだそうともしない。

 少しだけ胸の奥が暖かく感じた。

「だが……」

 それでもルシアは自分をこんな目に追いやった奴らを許すことはできなかった。力を取り戻したら、必ず滅ぼしてやるという決意をその目に宿して、積まれたままになっている木の上へと腰を下ろす。

 月明かりに照らし出された書き散らかした見取り図を見ながら、ルシアは今後の方針を固めていく。

「とりあえずは家が必要だよな……」

 結局のところどう考えても、何をしようとしても拠点が必要だった。

 考えているうちに睡魔に襲われて、ルシアは夢の世界へと誘われた。

 ※※

「魔王様、ご報告が……」

 魔界の玉座に座るルシアに跪いて、一人の魔族が口を開いた。

「コーウェンか、なんだ?」

 肘置きに手を置き、跪く場所よりも数段高い場所からルシアはその者を見下ろし退屈そうに返事をする。

「人間界の勇者がいよいよ魔界に攻め込んでくるようです」

「そうか。警戒を怠るな」

 つまらない報告に同じようにつまらなさそうに呟いた。そんなことを報告するよりも他にすることがあるだろうと言いたげな表情で手を払い、退出を命じる。

 勇者など歯牙にもかけなかった。魔界の王と人間の戦士ではあまりにもいろいろなものが違う。

「魔王様、よろしいですかな?」

 考え事に耽っていると、ふと隣からルシアに声がかけられる。

「なんだ、グラーフ」

「魔王軍に不審な動きがありますので、ご注意くださいませ」

「些末なことだ。俺がいればなんとでもなる」

 魔王の執事であるグラーフの進言をルシアは切り捨て、玉座を立つ。

「どちらへ?」

「執務だ」

 グラーフにそう告げて、ルシアは玉座の奥にある自身の仕事部屋へと足を向けた瞬間、ルシアの世界は暗転する。

「魔王様っ!」

 グラーフの焦ったような言葉が最後に耳に届いた。

 ※※

 ハッとして、ルシアは目を覚ました。目を見開き、息が上がる。

「なんて夢だ……」

 忌まわしい、力を失った日の記憶の一端。

 その記憶を脳の外に追い出そうと深呼吸をして、ルシアは自身の座っていた木から立ち上がった。

「忌々しい……」

 一言つぶやいて、ルシアは周りを見渡した。どうやら、日は登り始めているようで朝独特の雰囲気を醸し出している。

「もう……朝なのか」

「大丈夫でしたかルシア……うなされているようでしたが」

 荒い息を整えている最中、後ろからユノが声をかけてきた。手には井戸からくみ上げたであろう水を入れたコップを2つ持っていた。

「大丈夫だ……」

 本当は大丈夫でもない。だが、今の現状でその負の感情に囚われていても何も進まないで、ユノにそう告げてルシアは手渡された水を一口飲んだ。

「本当ですか?」

「本当に大丈夫だ」

 もう一度、自分に言い聞かせるようにルシアは呟く。

 あまり寝られていないため少しだけぼーっとする頭を振り払って気合を入れ直す。

「ごはんですよ、ルシア」

 ユノのその言葉に頷いて、ルシアは二人が待っているであろう家に向かって歩き始めた。

「主様ーっ!」

 まるで主人の帰りを待っていた犬のようにクレアがルシアに向かって駆け寄ってくる。いや、むしろ飛んできた。

 最初の頃は少しウザいと思っていたルシアだったが、最近はこのやり取りにもどこか安心感を覚えていた。

「何をなさるのですか……主様……」

「悪い……」

 安心感を覚えているのだが、体が条件反射でクレアに向けて足を差し出していた。

 勢い余ってクレアの鳩尾がちょうどルシアのつま先にヒットする。

「大丈夫か?」

「ひどいのじゃっ!」

 相当に痛かったのだろう、涙目になりながらクレアはお腹をさすり、抗議するようにルシアに目線で訴えていた。

「ルシア様、クレアちゃん……ごはんなのですよ」

 そんなやり取りを少しだけ呆れたようにアリスが見つめていた。

「悪い……」

 よもや魔王が形無しだなと思いつつ、ふと違和感を覚える。

 些細な変化ではあるが、ルシア自身はそれを見逃さなかった。

 呼び方の変化は距離が縮まった証なのだろう。少し、ルシアの頬が緩む。

 ――本当に、甘いな……。

 だが、それが心地よい自分がいてルシアは朝食の準備されているテーブルの前に腰掛ける。

「テーブルなんてあったのか?」

 思わず座ってしまった後に、テーブルがあることび気がついて疑問の声を上げた。こんなもの、昨日の朝村を出た時には無かったはずだと記憶を辿るが、やはり見覚えはない。

「作ったのですよ」

「アリスが?」

「はい、なのです」

 よくよく机を見て見るが、かなり綺麗に作りこまれている。テーブルと椅子が並んでいる。そこまで大きくはないが、六人ほどなら簡単に座ることができるであろう。

「すごいんですよアリスちゃんは?」

 後ろから暖められたスープを持って、ユノが近づいてきた。

 木で造られた皿なども新調されている。

「このあたりの木で造られたものほとんどアリスちゃんが昨日作ってくれたんですよ」

「どんな特技だ……」

「わたしたちヴォーパルバニーは森で生活するために、木から色々なものを作るのです」

 どこか照れくさそうにアリスが話す。確かに、ルシア自身はヴォーパルバニーの生活自体にあまり詳しくはなかった。

「流石だなアリス」

「いえ、それほどでもないのです……」

 ルシアの言葉に対して、どこか気恥ずかしそうに顔を染める。

「アリスばっかりずるいのじゃ……わらわも褒めてほしいのじゃ……」

 アリスに対抗するようにクレアがひょっこりと顔を表わす。

「そんなことより、飯にするぞ……」

「そうですね。頂きましょうか」

 全員で席について、朝食を食べ始める。太陽の光が、眩しく照らしていた。
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