竜使いの伯爵令嬢は婚約破棄して冒険者として暮らしたい

紗砂

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皆でテントへと戻っている途中、私は思わず立ち止まった。
何故なら、オークの群れの近くに1人の小さな反応があったから。
この反応はまるで………子供のような……。
そんな予感がした。
だとしたら…ヴェノム家の一員として、ここで見捨てるわけにはいかない。


「……申し訳ありませんわ。
私、少し用事が出来てしまいましたの」


私は皆に背を向け、1人走り出した。
目標は小さな反応だ。
この子がオークの群れへと行ってしまう前に追いつかなければならない。
それなのにこの木々が邪魔をして思うように行くことができなかった。


『オリジナル魔法-銀-脚力強化』


私は脚力を強化し先程よりもスピードを上げる。
そして……。


「見つけましたわ!」


その子は小さな女の子だった。
泣きながらオークの群れの方向へと歩いていた。
だが、遅かった。
既にオークは魔法を放ってしまっていた。
私はそれに気付くと魔法と女の子の間に体を滑り込ませると女の子を抱きしめた。

瞬間、背に激痛がはしる。
そして、まるで私の背を舐め回す様な炎を感じた。
その痛みと熱さをグッと堪えると私は抱きしめた女の子を落ち着かせるように笑顔をつくり抱き上げる。
その時にオークの姿が見えてしまったのだろう。
女の子は私の服をギュッと強く握った。

私は後ろを振り向くと銀でナイフをつくり先程魔法を放ったオークへと投げつける。

……幸いと言うべきなのか、群から離れてきたようで1体しかいなかった。
そのため、私は一旦女の子を連れてテントへと戻ろうとする。
だが、私達の戦闘に気付かれたのか小さなオークの群がすぐそこまで来てしまっていた。
私は一瞬顔を顰めるが女の子を心配させてしまうと思い女の子を降ろすと優しく微笑んだ。


「申し訳ありませんわ。
少しだけここで待っていてくださいですの」


私は風の結界で覆うと2振りの剣を手にオークの群れへと走り出した。


『属性魔法-風-風刃』


本来であれば銀で畳み掛けていくのだがユニークがいるようなので迂闊に魔力を使う事ができなかった。
何故なら、ユニークの中には偶に、魔力を自分のものとして使うタイプ……つまりは『吸収』の能力を持つ者もいるからだ。
そのため魔法は最低限に活かし討伐していく。


「はぁ、はぁ……っ……」


私はオークの剣を片手で受け止めながら魔法で首を切り落とす。
その光景はまるで……『死神』そのものであった。

残りがジェネラル2体とキング、そしてユニークになったところで私は白夜をしまい、両手で白空を構えた。


「……白空、力を貸してください…」


私が白空に話しかけると白空はそれに応えてくれた気がした。
そんな白空を手に私は再び切りかかる。
まずはジェネラル2体の首をはねると滑るような動きでキングの前に出て魔法を打ち込んだ。


『お、前……強い。
お前、俺、主…なる』

「……はい?」

『契約、交わす』


……何故オークが話せるのだろうか?
ユニークだからだろうか?
いや、それはまだ良い。
何故契約を結ぶなどと言い出すのだろうか。
私は既にリアン、エデンと契約をしている。
そのうえ更にオークと契約って……。
それは無いだろう。

私は剣を鞘に戻すと後ろの結界をとき、女の子を抱えると走り出した。


「契約なんて…そんなの交わされたくありませんわ!」


などと叫びながら。

腕の中にいる女の子はただ、ボーッと私の顔を見ていた。
どうかしたのだろうかと思い、少し離れたところで下に降ろすと視線を合わせた。


「私はアメリアと申しますわ。
あなたのお名前は?」

「ぁ……リーシャ……」


どうやらリーシャと言うらしい。
可愛らしい名前だ。
私は優しく微笑むと女の子は安心した様に力を抜いた。


「ご両親はどちらにいらっしゃりますの?」

「……ふぇ…」


私が尋ねるとリーシャは泣き出し、私は戸惑いつつもリーシャを宥める。
しばらくすると落ち着いたのかつっかえながらも教えてくれた。


「お母、さんも…お父さんも……皆、オークに殺されちゃった……の……」


私は思わず顔を顰めるとリーシャを抱きしめた。
リーシャは5、6歳だろう。
そんな子がもう、両親を…家族を失くすだなんて……。
そう思いながら、私は自責の念にかられていた。
…何が冒険者だ、何がSランクだ。
こんな女の子の家族すら守れないくせに……と。


「リーシャ、新しい家族が見つかるまで…私と一緒に暮らしませんか?」

「リアお姉ちゃん……と?」


リアお姉ちゃんか。
アメリアだからリアなのだろうが……そう呼ばれたのはあまりなかった気がする。


「えぇ、リーシャさえ良ければ…ですが」

「いい、の?」

「えぇ、勿論ですわ」

「……行く」


私はリーシャね頭を優しく撫でると再び抱き上げ、テントに向かって走った。

グループ用のテントに入ると全員が武装したままだった。


「ただいま戻りましたわ」


そして途中で狩ったイーグル含めた鳥達。
そしてこれも途中で採った薬草や山菜、そして果物。
……大量だった。


「……何とも言えねぇ!!」

「…感覚が麻痺しそうです」

「いや、おかしいだろ完全に!」

「…………………大量」

「アメリア連れて帰りたいです……」

「サニア、いい加減諦めろ…」

「分かってはいたつもりではいたのだが……サニアの病気は重症だな…」

「ふむ……」

「……アメリア、その子はどうしたんだ?」



それぞれ頭を抱える者、苦笑する者、顔を引き攣らせる者、項垂れる者などがいた。
ようやくレオニード様が質問してくれた事で私はリーシャに自己紹介をするように促す。
しかし、リーシャは私の後ろに隠れてしまった。
仕方ない、そう諦めると私は苦笑して紹介した。


「リーシャですわ。
オークの近くにいたのですが……。
どうやら両親がオークに殺されてしまったらしく1人で彷徨っていたので私と一緒に暮らして貰うことに致しました。
なので少し教官に話して来ますわ。
寮が無理そうでしたら何処か学園の近くに家を購入するつもりですわ」


そして私はリーシャを連れて赤のテントへと向かったのだった。
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