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段々と感覚が戻りつつある頃、ようやく外出許可を得ることが出来た。
だが、やはりなにか大切なことを忘れてしまっているようで得体の知れぬ気持ち悪さは残っていた。
「ルナ、大丈夫?
力は戻った?」
カインは街を歩きながらも未だ暗い顔をしている私を心配にしつつ、声をかけてきた。
「少しだけ、感じられるようになりました。
ですが……」
「まだ弱い?」
「……はい」
あれから、数日経ったにも関わらず、感じられるのは夜、月が完全に登った時くらい。
偶に、このまま戻らなくなるのではないかと思うこともあるくらいにゆっくり、ゆっくりと力は戻ってきている。
だが、まだ遠い。
「そんな顔しないで。
ルナ、きっと大丈夫。
私も少し、過去の月持ちについて調べてみるよ。
同じようなことがあったかもしれないからね」
「ありがとうございます、カイン」
過去の月持ちの記録にあったとしても。
そんな想いが邪魔して素直に喜べなかった。
せっかく、カインとのお出掛けなのに。
と、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「そうだ。
劇でも見に行こうか。
少しは気が紛れるかもしれないからね」
カインが笑って、そう口にした。
そうしてカインと向かったのは、貴族街と平民街の間くらいにある劇団だった。
その劇団は決して大きいとは言えはしないが、評判のいいところだ。
「そろそろ始まるみたいだ」
劇の内容は、私が知らないものだった。
主人公は、私と同じ月持ちで。
なにかの鍵を探すといったものだった。
その探し物の途中、彼女はある人と出会って恋に落ちるのだ。
そして、彼女はいつしか探し物のことを忘れ、彼と恋仲になっていく。
その知らないはずの物語に、なにか私は違和感を感じていた。
目覚めた時に抱いた、あのへんな違和感と似たようなものを。
そう、なにか大事なことを忘れているような。
月の力が感じられないだなんて、些細なことに思えてくるような、そんなことを。
公演が終わってからも、私は上の空でずっと考えていた。
「……ルナ。
今日はもう帰ろうか?」
カイン様が、そんな私を心配して帰ろうと口にした。
だが、その言葉になにかが引っかかった。
「帰る……?
帰るかえる……。
還る?
それに鍵。
思い、だした……」
私に課せられた使命を。
月持ちがやらなければいけないことを。
「鍵を、鍵を見つけなきゃ。
早く……。」
でも、何の手がかりもなかった。
ただ分かっているのは、鍵を見つけなければいけないこと、そして鍵となるものを倒さなければいけないこと。
そして、あの変な空間が、世界樹の中にあるということ。
扉を全て開かなければならない。
それだけは理解した。
「ルナ……?」
「あ……。
世界樹に行けば……」
もしかしたら、何かしらの手がかりが掴めるかもしれない。
「ルナ!」
「あ……。
カイン、様……?」
すっかり考え込んでしまっていたせいで、私はカインにかなり心配を掛けてしまったようだ。
「ルナ、どうしたんだい?
なにか他にあった?」
「あ……」
カインの心配そうな瞳を見て、少しだけ悩む。
言ってしまっていいのかと。
このことを話してもただの夢と切り捨てるかもしれない。
それに、話したところで……。
カインを信用していないわけではなかった。
ただ、怖いのだ。
もし、話してカインが変わってしまったら。
傷付くようなことになったら、と。
「……私にはいえない、か」
「いえ、ちがっ……!
違います!
……虚言と思うかもしれませんし、カインを危険なことに巻き込んでしまうかもしれません」
「ルナの言うことなら信じるし、ルナ一人を危険なめに合わせるなんてしないよ。
私は、どんなことがあろうとルナと共にいるよ」
その言葉に、私はカインに話すことを決意した。
だが、やはりなにか大切なことを忘れてしまっているようで得体の知れぬ気持ち悪さは残っていた。
「ルナ、大丈夫?
力は戻った?」
カインは街を歩きながらも未だ暗い顔をしている私を心配にしつつ、声をかけてきた。
「少しだけ、感じられるようになりました。
ですが……」
「まだ弱い?」
「……はい」
あれから、数日経ったにも関わらず、感じられるのは夜、月が完全に登った時くらい。
偶に、このまま戻らなくなるのではないかと思うこともあるくらいにゆっくり、ゆっくりと力は戻ってきている。
だが、まだ遠い。
「そんな顔しないで。
ルナ、きっと大丈夫。
私も少し、過去の月持ちについて調べてみるよ。
同じようなことがあったかもしれないからね」
「ありがとうございます、カイン」
過去の月持ちの記録にあったとしても。
そんな想いが邪魔して素直に喜べなかった。
せっかく、カインとのお出掛けなのに。
と、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「そうだ。
劇でも見に行こうか。
少しは気が紛れるかもしれないからね」
カインが笑って、そう口にした。
そうしてカインと向かったのは、貴族街と平民街の間くらいにある劇団だった。
その劇団は決して大きいとは言えはしないが、評判のいいところだ。
「そろそろ始まるみたいだ」
劇の内容は、私が知らないものだった。
主人公は、私と同じ月持ちで。
なにかの鍵を探すといったものだった。
その探し物の途中、彼女はある人と出会って恋に落ちるのだ。
そして、彼女はいつしか探し物のことを忘れ、彼と恋仲になっていく。
その知らないはずの物語に、なにか私は違和感を感じていた。
目覚めた時に抱いた、あのへんな違和感と似たようなものを。
そう、なにか大事なことを忘れているような。
月の力が感じられないだなんて、些細なことに思えてくるような、そんなことを。
公演が終わってからも、私は上の空でずっと考えていた。
「……ルナ。
今日はもう帰ろうか?」
カイン様が、そんな私を心配して帰ろうと口にした。
だが、その言葉になにかが引っかかった。
「帰る……?
帰るかえる……。
還る?
それに鍵。
思い、だした……」
私に課せられた使命を。
月持ちがやらなければいけないことを。
「鍵を、鍵を見つけなきゃ。
早く……。」
でも、何の手がかりもなかった。
ただ分かっているのは、鍵を見つけなければいけないこと、そして鍵となるものを倒さなければいけないこと。
そして、あの変な空間が、世界樹の中にあるということ。
扉を全て開かなければならない。
それだけは理解した。
「ルナ……?」
「あ……。
世界樹に行けば……」
もしかしたら、何かしらの手がかりが掴めるかもしれない。
「ルナ!」
「あ……。
カイン、様……?」
すっかり考え込んでしまっていたせいで、私はカインにかなり心配を掛けてしまったようだ。
「ルナ、どうしたんだい?
なにか他にあった?」
「あ……」
カインの心配そうな瞳を見て、少しだけ悩む。
言ってしまっていいのかと。
このことを話してもただの夢と切り捨てるかもしれない。
それに、話したところで……。
カインを信用していないわけではなかった。
ただ、怖いのだ。
もし、話してカインが変わってしまったら。
傷付くようなことになったら、と。
「……私にはいえない、か」
「いえ、ちがっ……!
違います!
……虚言と思うかもしれませんし、カインを危険なことに巻き込んでしまうかもしれません」
「ルナの言うことなら信じるし、ルナ一人を危険なめに合わせるなんてしないよ。
私は、どんなことがあろうとルナと共にいるよ」
その言葉に、私はカインに話すことを決意した。
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