回復術師ですが仕事と婚約者候補に追われています!

紗砂

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酷い。
それが私の抱いた最初の感情だった。
惨たらしいその傷に思わず仕事を忘れそうになる。


「ルー」


そのルドの声で私は現実へと戻ってくると治療を始めた。


『我、神の子なりて主神、エンディールが第5子戦女神シヴァと共に生きしもの。
我が願うは安寧と平穏なり』


ここまでは私の使う回復魔法の常套句。
ここからが本番だ。


『聖なる加護と光のもと、私は願う。
この者の傷を癒し、命を延長する事を。
光よ、私の願いのもとこの者の傷を癒し、苦しみから解放せよ』


1人、また1人と治していき、ようやく最後の1人が終了すると私はホゥッと息を吐いた。

 
「お疲れ様です、ルー」

「ありがとうございます、ルド」


私を労ってくれるルドに対し、お礼を口にする。
無事、全員助けられた…そう安堵したのも束の間。
1人が突然黒い光に包まれ、苦しみ出した。


「なっ……呪い……!?」

「魔族ですか!」


私は自身を責める前に呪いを調べた。

自身を責めるのは後。
今はそれよりもこちらが優先。

そう判断してから素早く動く。
他のものにも呪いはかかっていないかを調べ、無いことを確認すると発動してしまった呪いを確認した。


「思ったよりも侵食が早い……」


これでは調べる事さえままならない。
それが分かると魔法を発動させる。
本来ならばこの呪いをちゃんと調べたかったのだが……仕方ない。


『回復術師たる我が命じる』


多分、今回の呪いの発動条件は回復魔法をかけられるか呪いがかけられてからの時間だ。
だとすれば回復術師対策として反転は想定しているだろう。
だから、私は相手の予想している斜め上をいこう。


『反転せよ』


反転は回復魔法でも秘術と呼ばれる存在。
これを扱えるのはこの国にいる回復術師13人の中でも私とライ先輩の2人のみ。
私はこれを11の時に習得した。
そんな私がこの反転魔法の扱いに長けていないはずがなかった。


「思った通りですね。
これならば問題なく


私の髪が黒く染まった。
いや、染まったのは髪ではない。
黒く染まったのは私の魔力だ。
反転で染まった魔力。


『世界をすべし闇夜に請う。
我が敵を消しされ』


闇は扱いさえ注意すればやっかいな呪いをも消し去る術となる。
少なくとも私はこの属性をそういう風にしか使っていなかった。

反転を解除し、呪いを調べるとちゃんと消滅していた。


「少なくとも、3日間は様子見を。
そう動き回らないように見ていてください。
3日後、17時に王宮診療所のA-2へ来るようにしてください」

「A!?
Aっていうとルーディア様の診療室じゃ……」

「えぇ……それがどうかしたのですか?
やったからには最後までやりますよ」

「ルーディア様……あの…噂通り美しい……」


……聞かなかった事にした。


「名前を伺っても?」

「は、はい!
ダートです」

「では、ダートさん。
この冒険者達の事は頼みます。
それと、診療所に入る際、ギルドの者だと言えば案内されます」

「は、はい!
ありがとうございます、ルーディア様!」


あまりの過剰すぎる反応に、どこかやりにくさを感じながら私とルドは城へ戻った。


「ルド、午後はあの様なことに付き合わせてしまいすいませんでした」

「気にしないでください、ルー。
…あの姿はとても綺麗でした。
もし、それでも悪いと思ってしまうのなら…今度、また付き合ってはくれませんか?」


そんな事ならば何の問題もない。
友人と遊びに行く程度のことであれば。


「そんな事でいいのなら…。
今度、また休みの日を確認しておきます」

「えぇ……。
では、また学園で」

「はい」


私は城の外でルドを見送ると疲労感を残しながらも与えられた部屋に戻った。


「おかえりなさいませ、ルーディア様」

「えぇ、ただいま戻りました……。
ユリア、3日後の17時に冒険者の方が尋ねて来られると思いますから私の対応する2号室へと案内をお願いします」

「畏まりました」


ユリアは恭しく頭を下げるとお茶を用意するために下がった。


「ルーディア、いるか?」


カーフィスの声だった。
私は慌てて扉を開き、カーフィスを招き入れる。
とは言っても応対室なのだが。


「どうしたの、カーフィス」

「あ、あぁ……。
ルーディア、お前殿下と婚約するのか?」

「いきなり何?
カーフィスには関係ないと思うけど」


私の声は自然と数段低くなっていた。
こんなのは駄目だ。
そう思っているのに、理解しているのに勝手に口が動いてしまう。


「私が誰と婚約しようが私の勝手でしょう?
カーフィスには何の関係も無いんだからほっといて。
どうせ、私が婚約した時点でカーフィスとの縁も切れるんだから」


カーフィスはこれでも村長の子。
私が婚約した時点で村に帰らなければいけないのだ。
いや、引き継ぎをしてあるのならばいい。
だが、婚約してからも一緒にいるにはあまりにも……あまりにも私達は親密すぎた。


「っ…ルーディア!」

「それとも何!?
もう、私の騎士じゃいたくないの?
なら、なら言ってくれれば……!!」

「違う!!
俺は、俺は……!」


最低だ。
私……よりによって何カーフィスに言ってるんだろう。
もう、とっくに諦めたと思ってたのに。
もう、初恋は終わったと思ってたのに……。

何も終わってなんかなかった…!!
私、馬鹿だ。
自分の気持ちに蓋をして、諦めたフリしておきながらこうしてカーフィスに当たってる。
ほんと、何やってんだろ。


「俺は、お前の側にいる。
俺は、お前の騎士だ。
お前だけの…。
だから、お前が婚約したとしても俺は、着いていく。
その時は、俺に反転魔法を使ってくれ。
そうすれば、問題ないだろう」


何で、何でそこまでして…。
それじゃあ、私が諦めきれなくなるのに。
私の初恋が終わらなくなっちゃうのに。
なのに、なのに何で?
何でこんなに嬉しいの?


「……で、何でそこまでするのさ…」

「俺がルーディアの事を好きだから。
俺は、お前の側にいたい」


馬鹿……。
何で私を選んだの……。
他の人を選んでくれればまだ…諦めがついたのに。
これじゃあ……本当に……。


「…愛してる、ルーディア」

「……馬鹿」

「あぁ」


しばらく沈黙が流れ、私はカーフィスに答えを告げた。


「……カーフィス。
私、ルーディアの名において命じます…。
あなたを私の専属から外します」

「……あぁ、悪ぃ」

「ほんと、馬鹿なんだから……。
じゃあね、カーフィス」

「あぁ、またな、ルーディア」


リミットは私が学園を卒業するまでの3年間。
それまでに私の婚約者候補が1人増えるか。
それとも、間に合わずに私が他の人と婚約するか。

私は賭けたのだ。
カーフィスが候補にまで上り詰めてくれることを。

もし、入らなかったとしてもその頃にはきっと他の人を愛せるようになることを。


「信じています、カーフィス」
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