上 下
1 / 87

プロローグ

しおりを挟む
目が覚めると、そこは見慣れたアパートの天井ではなく、病院の天井でもなく……見慣れない豪華な部屋だった。
高級そうなものが並び萎縮してしまうような部屋だ。

とりあえず、近くにあった鏡に近付くと、そこにはサラサラとした金糸のような髪に、海のような深い蒼の瞳の少女がいた。

えーと、誰?
………取り敢えず状況を整理しよう。
私は、杉本 香乃、大学に通う途中で車に跳ねられ……って、あれ?
私、もしかして死んだ?


……あぁ、そうだった。


記憶が鮮明に蘇る。


………そう、私は死んだ。

そして、それは元々予定されていなかったという事で私の好きだった乙女ゲーム『エデンの花園』の世界へ自称神様に転生させられたんだ。
勿論、そこに私の意思は関係なかったが。

……あれ?
じゃあ、私の今の名前は……?
それに、ここは何かスチルで見たことがある気が……。

……あぁ、そうだ。
ヒロイン、黒崎愛音の友人、海野 咲夜の部屋だ。
という事は、私が転生したのは海野咲夜か黒崎愛音のどちらかだろうか?


「咲夜、少しいいかい?」

「あ…はい、どうぞ」


この声は攻略対象の1人で海野咲夜のたった1人の兄
海野 悠人だ。
ということは私は海野 咲夜か。
シナリオだとヒロインを庇って悪役令嬢に殺されるって役だった気が……。

え? 私、何もしてないのに殺されるの?
いやいやいや…そんなのやってられるか!
絶対に回避してやりますとも!
いくら望まない世界に転生させられたとは言っても、折角の2度目の人生、捨てるものか!

って、何であの自称神様はよりによってこんな役に私を転生させたの!?


「忘れてはいないと思うけど……明日は光隆桜学園の試験の日だから」


光隆桜学園……私立の学園だ。
しかも、金持ちしかいない……。
うわぁ……行きたくないよ……。
しかも、兄の声が物凄く冷たい。

まぁ、でも良かった。
礼儀作法はなんとかなりそうだし。
勉強も元は大学生だしなんとかなりそうだし。
その点は本当に良かったぁ……。


「お兄様、私、学園のお話をお聞きしたいです!」


妹である事を利用して情報を聞き出す作戦である。
……兄に嫌われているようだ、というのは理解しているが。

だが、この役、本当に災難としか言い様がない。
この役の結末はバットエンドしかないのだから。

兄、悠人のルートだと庶民であるヒロインと共に生きる為に邪魔だった私(海野咲夜)は殺されるか、ヒロインを庇って悪役に殺される。

他のルートだと、やはり悪役に殺されるかヒロインに勘違いされて裏切り者として殺されるか、嫌われ者となり心を病んで自殺という結果だ。

……つまり、この役のエンドは他殺か自殺かの違いしかないのです。
まぁ、自殺は絶対しないけど。

前世では小学校の頃、虐められていたみたいだったけど特に害は無かったし。
みたいだった、というのは気付いていなかっただけである。
……まぁ、そういうこともあるよね!

まぁとにかく、その結末を回避する為にまずは兄に邪魔者認定されないようにしなければ……。


「そんな事言うなんて珍しいね?」


……そうだった。
私が突然こんな事を言っても怪しまれるだけだ。


「駄目、ですか?」


出来るだけ上目遣いを心がける。

……体が子供だからこそ出来る事だった。
こ、これしか考えつかなかったんだから仕方ない!


「……そうだね。
これから入学するかもしれない学園の事だからね。
気になるのも当たり前か……。
はぁ、仕方ない。
簡単になら教えてあげる」


私は満面の笑みを浮かべ、兄に駆け寄る。
だが何故だろう、兄の笑顔の裏が怖かった。


「ありがとうございます! お兄様!」

「一応、妹だからね」


一応も何も血の繋がった妹ですが。
そんなに私が嫌いですか。


「学園は、一組から九組までの九クラスあって、各家の関わりとかで決められる事が多い。
特別教室は入学式の後に説明があるからいいとして……。
あぁ、学園では決められた時期に期末テストや中間テストがあって成績が張り出されるんだ。
上位三人の中に入っていた場合は光隆会っていう学園の中枢になっている役員につけるんだ」


つまり、光隆会っていうのは他の学校でいう生徒会って事だね。
違うところは普通、大学には無いのだが、この光隆会はあるってとこくらいか。


「お兄様、お兄様も光隆会の役員なのですか?」

「うん、まぁね」


つまり学年で上位三位に入っていると……。
どれだけハイスペックなんだ……。
流石は攻略対象者、というべきなのだろうか?

因みに、後に知った事だが二位などが三人いた場合は1位と合わせて四人が代表になるらしい。


「凄いです! 流石お兄様ですね!」


一応賞賛しておくのを忘れない。

兄は満更でもないようで少し機嫌が良さそうだった。
機嫌のいい兄が私の頭を優しく撫でる。


「咲夜もきっと入れるよ」


名前を呼んでくれたのは初めてかもしれないと私は思わず目を見開いたがすぐに笑みを浮かべた。


「頑張ります!
お兄様、教えてくださりありがとうございます!」

「まぁ、妹のお願いだからね」


私はもう一度お礼を言い、勉強をしようと机に向かった。
机の上のノートを開くと七歳とは思えないほど綺麗に書かれた字が目に入る。
ノートも見やすいように書かれていて兄が光隆会に入れると言った事も納得出来た。
入試に出そうな問題は赤で印が付けられていて分かりやすい。
香乃の七歳の頃と比べしっかりしていると少し落ち込んだのであった。

だが、何故こうもしっかりしていそうな私のことを嫌うのだろうか。
 いくら考えても答えは出なかったが。

そして次の日、ついにこの日が来たか……と少し楽しみな反面、少しだけ緊張してくる。
私の様子に兄は
「咲夜なら出来るよ」
と優しい言葉をかけて見送ってくれた。
母と父も心配性の様で


「咲夜ちゃん、いい?
お名前を先に書いておくのよ?
持ち物は大丈夫? ペンは持った?
消しゴムは大丈夫? ハンカチは?」

「まぁまぁ、落ち着いて…。
咲夜なら大丈夫さ。
何せ私達の娘だからね。
それよりも、いいかい咲夜。
決して知らない人について行ったらいけないよ?
知らない人に話しかけられたらすぐに電話をかけるか、叫びなさい。
いいね?」


私は子供か!
……子供でした。

と、そんなやり取りがあった中、私は学園について色々と考える。
兄からも言われていたが…私の学年には近付いてはいけない人が2人いる。

一人は、天野天也……攻略対象だ。

もう一人は神崎奏橙……こちらも攻略対象だ。


「咲夜お嬢様、御到着致しました」

「ありがとうございます。
では、帰りもお願い致しますね」


攻略対象のことを考えていたら到着していたようだ。

……取り敢えず攻略対象には近付かないようにしよう。
そうすればフラグをたてずに済む、はず。
無理そうなら逆にフラグを折りにいこう。

私は指定された席につき、試験を開始する。

……簡単だ。

まぁ、当たり前といえば当たり前だろう。
私の前世は大学生だったし、ノートもかなり丁寧に書かれていたし。
昨日、猛勉強したし。
家に泥を塗るわけにはいかない事もあってか私は前世の時よりも勉強をしたのだ。
これで出来なかったら逆にヤバイ。


全教科が終了し、私は一息つく。
そして先のテストを思い出してみるとノートに書かれていた、出そうな問題全てが出ていた。
まぁ、最後に小学生にしては難しい問題があったけど。

確か今日はこれで終了のはずだ。
面接もないみたいだし。

うん、帰ろう。
私には話せる友人なんていないみたいだし。
まぁ、これから作っていけばいいし。


私が帰る準備を初めると不意に消しゴムが転がってきた。
その消しゴムを拾い、落としただろう人が「すまない」と言って近づいてきた。
聞き覚えのあるような声だったが気の所為だろう。


「どうぞ」


そう差し出すついでに顔を見る。

瞬間、私は固まった。
そして、すぐに後悔した。
何故顔を見てしまったのだろうと。
何故、消しゴムを拾ってしまったのだろうと。

何故ならそれは、攻略対象であり、シスコンの兄に注意するように言われていた人物、天野 天也だったからだ。
接触しないよう気をつけようと思っていたその人物だったからである。
外見は黒髪黒目で人畜無害の様に見える笑顔を浮かべているが……油断ならない人物だったはず。


「ありがとう。
俺は天野天也だ。
君は?」


こうなったらなるようになれだ。


「海野咲夜です」


さぁ、早く帰してくれ。
私は関わるつもりなんて無いんだ。
忘れてくれ。
そんな思いの中、私は向き合っていた。


「海野……あぁ、あの客船のか」


知っていたらしい。
まぁ、私の家は豪華客船を扱う会社の中でも有名な方だから当たり前かもしれないが……。
それに、日本では三本の指に入るほどの会社でもあるし。


「ご存知でいらしたんですか?」

「当たり前だろう。
海野グループといえば世界で一、二を争う程の客船会社だろう」


そうらしい。
まぁ、あの会社は親の会社だから私には関係ないけど。

……いや、そうでもないか。
将来的に何か関わることになるかもしれないし自分の家の会社だからな。
海野咲夜として生きていく以上、関係ないとは言えない。


「光栄ですわ。
……それでは、私は迎えが来たようなので失礼します」

「あぁ、またな。
咲夜」


私は下の名前で呼ばれた事に驚くが、外面に出さず頭を下げ出ていった。

あー、緊張した。
いきなり攻略対象と接触とかシャレにならない。
ほんと、心臓に悪いから辞めてほしい。


「咲夜様、試験は如何でしたでしょうか?」

「全て埋められたので大丈夫だと思います」

「それは宜しゅうございました」


それより大丈夫じゃないのは天野天也との接触だよなぁ……。
どうしようか?

………………………………よし、決めた。
……忘れよう。

そうして私は考える事を放棄した。

家に帰ると兄が出迎えてくれた。
何か嬉しいね。


「咲夜、おかえり」

「ただいま帰りました、お兄様!」


兄はまた私の頭を撫でてくれる。
昨日もそうやっていたが何か意味はあるのだろうか?
……無さそうだ。


「どうだった?」

「問題無さそうです!」

「それは良かった。
流石僕の自慢の妹だね」


自慢の妹……自慢って言われた!
何か照れるな。
嬉しいや。

……それにしても、最初は私のことを嫌っているようだったのに、一体どんな心境の変化があったのだろうか?
気になるところではあるけど聞きたくはないかな。


「合格発表は明日の午後だったね。
……一緒に来るかい?」


学園に、という事だろうか?
うん、面白そうだし、行こうかな。
予定もないし。


「いいのですか!? 行きたいです!」

「うん、一緒に行こうか。
ついでに色々と案内するよ」

「わぁ……ありがとうございます!」


楽しみだなぁ。
学園の中って教室しか入れなかったんだよねぇ。
明日かぁ……。
早く行きたいなぁ……。

そんな私と兄のやり取りを屋敷の人々が暖かい目で見ていたのに私も兄も気付かなかった。


「あらあら……咲夜は悠人の事が大好きなのね」

「はい! あ、お母様の事も同じくらい大好きです!」


兄も満更でもない様で微笑んでいた。母も心なしか嬉しそうだ。

その日の夜、父は私の入試が終わったからという理由でショートケーキを買ってきてくれた。
もちろん、美味しく頂きました。


そして次の日、ついに私は兄と共に学園に行った。


「咲夜、あまり離れないようにね?」

「はい、お兄様」


私は兄に離されないよう少し早足になる。
それに気付いたのか兄はスピードを合わせてくれた。
私の兄は優しいようです。


「おはようございます、海野さん。
……その子はどうなされたんですか?」

「おはよう如月さん。
僕の可愛い妹の咲夜だよ。
咲夜、こちらは同じ光隆会の如月さんだよ」


気の所為だろうか?
如月さんと私に対する声音が少し変わった気がするんだけど?
それに、可愛い妹って……。
まぁ、スルーしておこう。


「海野咲夜です。
宜しくお願いします」


私は礼儀作法に細心の注意を払って挨拶をする。
すると、如月さんは優しい口調で挨拶を返してくれた。


「私は如月皐月です。
宜しくお願いします、咲夜さん」

「あ、あの……如月先輩って呼んでも良いですか?」


優しい先輩って感じするし、駄目かな?
まぁ、ダメ元だから駄目って言われても良いけど。
……少し傷つくだけだし。


「ふふっ……皐月でいいですよ」

「ありがとうございます!
皐月先輩!」


皐月先輩って容姿端麗で成績優秀とか羨ましいなぁ……。
容姿端麗は無理だとしても成績優秀くらいは頑張れば何とかなるよね。
だって、前世の記憶もあるし。


「如月さん、そろそろいいかい?
僕は咲夜を案内しなきゃいけないからね」

「海野さん、仕事は終わらせましたの?」

「咲夜の方が優先順位は上だよ」


え……つまり、仕事はやってないと。
これってどう考えても私のせいだよね。
まぁ、月先輩のためにもどうにかして仕事をやらせなければ……!!


「私、お兄様のお仕事する所見てみたいです!」

「咲夜がそう言うなら行こうか」

「咲夜さん、ありがとうございます」


兄よ、少しは考えたらどうなんだ。
変わり身早すぎはしないか?
……まぁ、皐月先輩は笑顔だからいっか。


「うん? 悠人? 珍しいね。
悠人がここに来るなんて」

「来る予定は無かったけど咲夜の『お願い』だからね」


兄よ、来ただけで珍しいと言われるとは。
いつも仕事をサボっているのか……。


「咲夜?」

「……その汚い口で僕の可愛い可愛い妹を呼び捨てにしないでくれるかな?」


兄よ、キャラが変わっていないか?
気の所為なわけないよね。
少なくとも最初よりは完全に変わっている。


「お兄様……?」

「咲夜、怖がらせたかな?
ごめんね、大丈夫だよ」


……先輩がぎょっとした様子で見ているのだが。
兄は一体何をしたんだ?
シナリオだと優しい先輩で通っていたと思うのだが……。
あれ、もしかしてまた私のせいとか?


「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。
海野咲夜と申します」

「え、あ……。
白鳥 涼太だ。
宜しく、咲夜ちゃ……海野さん」


何故呼び直したのだろうか?
……視線の先には笑顔で黒いオーラを出している兄がいた。
うちの兄が申し訳ない。


「白鳥先輩、私で良ければ何かお手伝いさせてください」

「え、本当に? じゃあこれを……な、なんてね。
大丈夫だよ。海野さん、ありがとう」


何かやらせて欲しかったんだが……私はまだ7歳とうこともあってか手伝わせては貰えなかった。
最初に言いかけてやめたのはきっと兄のせいだと思うけど。


「咲夜、こんな奴はほっといていいよ。
……そろそろお昼にしようか」

「はい、お兄様」


あ、皐月先輩も一緒がいいな。
……迷惑かな? 今回は諦めよう。

などと思っていると兄が私をジッと見てきた。
かと思えば皐月先輩に話しかけた。


「如月さんも一緒にどうかな?」

「あら、海野さんが私を誘うだなんて珍しいですわね……。
咲夜さんもいますし、ご一緒させていただきますわ」


あ、兄は私が皐月先輩も一緒がいいって思ってたのに気付いたのかな?
だとしたら何か見透かされているみたいで恥ずかしな。


「お兄様、皐月先輩、ありがとうございます!」

「海野さんは咲夜さんが絡むと人が変わりますのね」


皐月先輩はそう言うがそれ程なのだろうか?
私にはあまりよく分からない。
が、兄は悪びれもなく言い放った。


「咲夜は可愛いからね」

「お、お兄様!」


やめてくれ! 恥ずか死ぬ!
そして、本当に昨日のあの兄はどこいった!?

食堂にくると普段なら多分、混んでいるだろうが今日は誰もいなかった。
私達と料理人だけだ。


「今日は僕達の学年の光隆会メンバーしかいないからね。
空いているんだよ」


兄が説明してくれた。やはりいつもは大勢いるらしい。
まぁ、当たり前ではあるが。

私は皐月先輩と同じ日替わりセットを頼んでみた。
兄はAセットを頼んだようだ。

物凄く豪華だった。
……根が庶民の私にとっては食べにくい。
兄も皐月先輩も全く気にしないように食べている。

……私も食べるか。

流石、豪華なだけあって美味しい。
美味しい食事に私は自然と頬が緩む。


「可愛い……ですわね……」

「だろう?」


はっ……。
皐月先輩にも兄にも見られた、だと……!?
くっ……私は何をやっているんだ……!!

思わず顔を赤くして俯くとふふっと皐月先輩と兄が笑った声が聞こえた。

私達は食べ終わると下へ向かった。


「そろそろ合格発表が張り出される頃だね。
行こうか」

「はい!」


合格、してればいいなぁ……。


「あら、咲夜さんは新入生なんですの?」

「あぁ、今日が発表だから少し先に来ていたんだよ」


皐月先輩には私は新入生と見えていなかったのか……。


「そうだったんですか……。
私も一緒に行っても?」

「皐月先輩、いいんですか?」


それは、嬉しいけど……。
いいのかな?


「えぇ、咲夜さんの結果、私も気になりますから」

「ありがとうございます!」

「さ、行こうか」


兄に手を引かれ私達は発表の会場まで来た。
そこには人盛りが出来ており、既に張り出された後だった。
あぁ、緊張する。
私は下から順に自分の名前を探していくが名前は見つからない。


「咲夜、あったよ」

「咲夜さん、おめでとうございます」


もう、見つけたらしい。早いな。


「咲夜、上だよ」


上? 上から見ろという事だろうか?
上位から見ていくか。

………見つからないわけだ。
まさかこんなとこに名前があるとは……。

一.海野咲夜 500

二.天野天也 497

三.神崎奏橙 486


とあった。
まさか一位とは。
満点か。
やったね。


「咲夜!」


この声、まさか……。


「まさか首席を取られるとは思わなかったよ。
おめでとう、咲夜」

「ありがとうございます、天野様」


覚えられていたか。覚えなくてよかったのに。
……何故だろうか? 兄の笑顔が怖いのだが……。


「天也で構わない」

「そうですか。
では、遠慮なく」

「同じクラスになれるといいな」


え? 嫌だよ。
攻略対象と同じクラスとか……私はあまり、というか全く関わりたくないのに……。


「九クラスもあるようですからそれは無理そうですね。
では、私はこれで失礼します」

「あぁ、またな」


兄の機嫌が頗る悪い。
さぁ、どうしようか?


「お兄……」

「咲夜、あいつとはどんな関係なんだい?」

「試験の時に落し物を拾って渡してあげただけですが……」


嘘は言ってない。全て本当の事だ。


「へぇ……」

「お兄様、どうかされたのですか?」

「咲夜さん、放っておいて構いません。
海野さんはただ拗ねているだけでしょうから」


兄が拗ねてる? へぇー、あの兄がねぇ……。ま、いっか。


「それより咲夜さん。代表の挨拶頑張って下さいね」


皐月先輩に言われるまですっかり忘れてたよ。
そうだった。私、首席とったんだった……。
あぁ、めんどくさい。

今更になって少し間違えておけば良かった、などと思ってしまうのは仕方ないだろう。


「ふふっ、それでは私はこれで……」

「皐月先輩、今日はありがとうございました」

「入学したらまた一緒に食事をしましょう」

「はい!」


皐月先輩、いい人だったなぁ……。

また一緒に食事出来るのだと考えるとちょっと嬉しく感じる。


「お兄様、私早くお母様とお父様に報告したいです!」

「あぁ、そうだね。じゃあ、帰ろうか」

「はい!」


兄は笑みを浮かべ私の手をひいてくれる。


「ご褒美は何がいいかい?」


ご褒美ですか……。そんな突然言われても何も思い浮かばないって……。


「えっと……。また今度勉強を教えてください」

「そんな事でいいのかい?」


兄は目を丸くしていたが、私は満面の笑みで返事をする。


「はい!」

「分かった。いいよ」

「ありがとうございます!」


その頃には兄の機嫌も戻っていたようで柔らかい笑みを浮かべていた。

こんな優しい兄がいて良かったなぁ…と改めて思う。
私は前世では一人っ子だった事もあり兄妹に飢えていたのだ。
あぁ、でもこんな優しい兄が高等部になると豹変するのか……そう思うと胸がギュッと詰まるような気がした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,053pt お気に入り:457

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,098pt お気に入り:19

ロリコンな俺の記憶

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:4,203pt お気に入り:16

言霊S.W.O.R.D.(DieはSHOWを兼ねる...)

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:653pt お気に入り:177

殿下、それは私の妹です~間違えたと言われても困ります~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,781pt お気に入り:5,280

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,516pt お気に入り:1,958

三人のママ友

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:398pt お気に入り:0

処理中です...