脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

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番外 天也

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俺は天野グループの会長の一人息子である天野天也だ。

世界的にも有名なグループである天野グループの跡取りという事もあり、初等部へと入る前から勉強にあけくんでいた。

その甲斐あってか、周りの大人からに対する俺のイメージは
『優秀な天野グループの跡取り』
というものであった。

だからなのだろうか。
俺には、友人と呼べる者は1人しかいなかった。


「奏橙、絶対に負けないからな」

「僕は少し不安だなぁ……まぁ、天也に負けるつもりは微塵もないけどね」


その友人というのがコイツ、神崎奏橙だ。
奏橙は神崎財閥の跡取りであり、奏橙の父と俺の父親が学生時代からの友人という事でお互い仲も良く、こうして勝負をする程、能力においても俺と近い実力の持ち主だった。

だから今回の試験も俺と奏橙で争うものだと思っていた。


「あ、残念。
僕と天也の教室、違うみたい」

「あぁ、そうみたいだな」


少し不安だが仕方ない。
まぁ、どうせ試験の間だけだからな。


「隣みたいだし、終わったら僕が天也の教室へ行くよ」

「なら頼む。
じゃあ、また後でな」


そう言って俺は自分に振られた教室へ入る。
教室には既に、殆どの者が来ていた。
友人同士で話している者がいたり、直前の追い込みをしているものがいたり……。

そんな中、1人だけ、友人がいないのかそれとも俺と同じように友人と離れてしまったのか、つまらなそうに窓の外を眺めている令嬢がいた。
日本人とは思えない金糸のような髪に印象的だった。
まぁ、どうでもいいが。

俺は席に付き、ただ時間が過ぎるのを待つ。
それは案外短かった。

スグに問題用紙と答案用紙が配られただカリカリというペンの音だけがする。
この静けさや、緊張感が心地よいとさえ感じた。

……テストが終了すると俺は振り返る。

あのテスト、最後の問題だけが難しかった。
満点を取らせる気がないだろうと思うくらいに。
一応、最後まで書いたものの何処か間違っていそうで怖い。

そこで皆が片付けているのを見て、俺も慌てて片付け始めた。

……そのせいなのか手が滑り、消しゴムが転がってしまった。


「あ……」


俺の口からそんな間抜けな声が漏れる。
慌てて追っていくと、消しゴムはある令嬢が拾った。

その令嬢は試験が始まる前、窓の外を眺めていた令嬢だった。
令嬢に関しては嫌な思い出しか無いため顔を顰めかけるがギリギリのところで踏みとどまる。


「すまない」


そう近付くと彼女は顔すら見ずに消しゴムを差し出してくる。


「どうぞ」


俺が受け取るとようやく顔を上げた。
すると微かにだが眉をしかめた気がした。

……今まで何人も見てきたが俺に対し初対面でこんな表情をしたのはコイツが初めてだった。
それに加え、日本人離れしたその容姿。
輝く金色の髪に深く暖かな蒼の瞳。
今まで見てきた誰よりも綺麗だった。
それもあってか、少しだけ惹かれた。

この令嬢であれば友人となれるのではないかと思ったのだ。


「ありがとう。
俺は天野天也だ。
君は?」


俺は自然と笑みを浮かべお礼を告げる。
そしてそのついでとばかりに名を聞くことにした。

彼女は少し考えた後、名を口にした。


「私は海野咲夜と申します」


海野の家は聞いた事があった気がした。
何処でだっただろうか?

……あぁ、前回の俺の誕生日パーティーの時だ。
誰だったか忘れたが客船での旅を誘ってきた奴がいたんだ。


「海野……あぁ、あの客船のか」


彼女……咲夜は驚いた様に目を見開いた後、嬉しそうに笑みを浮かべた。
ブロンドの髪があい極まってとても美しく感じた。
それから暫くたわいもない話をしている
と遂に咲夜は帰ってしまった。

咲夜が出ていってからすぐに奏橙が教室までやって来る。


「天也が初恋かぁ……」


なんて馬鹿な事をいいながらニヤニヤしている。
イラッときてつい、俺は奏橙の足を蹴り飛ばす。


「痛っ……本当の事だからって蹴ることないと思うんだけど」

「何が本当の事だ。
馬鹿な事言ってると置いてくぞ」


俺の背後で痛がる奏橙を置いて、どんどん帰ろうとすると奏橙が後ろから走ってきた。


「はいはい、仕方ないからそういうことにしておいてあげるよ」


などと学習しないのかニヤニヤとしていた。
もう1度、今度はさっきよりも強く蹴ってやろうか。
別にそれくらいやってもバチは当たらないだろうしな。


「で、結局のところあの海野咲夜さん、だっけ?
その人の事、どうしたいの?」


どうしたい、か。
そんなの決まっているだろうが。


「友人になりたいだけだ。
手伝ってくれるよな、奏橙。
盗み聞きしてたくらいだもんなぁ?」

「うっ……!
……分かった、協力するよ」

「そうか、ありがとう奏橙」


これで咲夜と友人になれる可能性が上がったな。
まぁ、盗み聞きの件は許すつもりはないけどな。


「っていうか、元はと言えば天也が遅かったからじゃないか……」

「うん?
何か言ったか?」


奏橙が文句を言っていたので笑顔で振り向いてやると失礼な事に奏橙は震え上がった。

……それは酷いだろう。


「……何も言ってないよ?」


疑問形にしたところは気になるが……まぁいいだろう。

……次に会えるとすれば、合格発表だったよな。
咲夜に会えるだろうか?

そんな期待を胸に、その1日は終了した。


次の日、合格発表という事もあり朝からテンションが高かった。

咲夜と友人になる!!

という高い目標を胸にしつつ、今か今かと奏橙の到着を待っていた。


「天也様、奏橙様がご到着になられました」


その声に反応し、ベットから飛び起きる。


「……通してくれ」


俺は声のトーンが上がらない様、落ち着こうと深呼吸をしてからそう伝える。


「承知致しました」


彼はそう答え、下へ降りていった。
それからすぐに奏橙は俺の部屋までやってくる。


「やぁ、随分浮かれてるようだけど……」

「浮かれてなんかない。
ただ結果が楽しみなだけだ!」


奏橙には咲夜との件を見られていた事もあり無駄だと分かっていたがそれでも一応否定しておく。
やはりすぐに嘘だと気付いたのか奏橙は笑いをこぼした。


「あはは……あの天也がたった1人の、それも一度会っただけの令嬢に対してそんな表情するなんて……」


そんな表情とはどういう意味だろうか?
悪い意味にしか聞こえないのだが?


「おいそれはどういう意味だ」


そう尋ねると奏橙はキョトンとしたマヌケな表情になる。
かと思えば、面白そうに笑った。


「気付いてないの?
天也、前よりも活き活きしてるよ。
その咲夜さんの事を話す時は特に、ね。
僕は応援するよ?」


……俺が、活き活きしてる?
咲夜の事を話す時は特に?
何だそれ?
ありえない。
咲夜とはただの友人になりたいだけで他の邪念なんかある訳がないんだ。
……あぁ、そういう事か。
また奏橙は俺で遊んでるのか。


「騙されないからな?
俺で遊ぼうとしたって無駄だからな?」

「えー、遊んでるわけじゃないんだけど……」


何故か不満そうにしているが気にしたものか。
よし、そろそろ時間だな。


「そろそろ行くぞ」

「そうだね。
天也の愛しの咲夜さんに会いに行かないとだからね」


などと茶化してくるので遠慮なくむこうずねを蹴り上げてやる。


「痛っ!?
図星だからってここまでやらなくても……」

「逆の足もやってやろうか?」

「エンリョシマス……」


最初から何も言わなければいいものを。

学園に着くと、真っ直ぐ合格発表の会場まで歩く。
既にボードの前には人盛りが出来ていた。
こんなものを見に来なくても下手な問題さえ起こしていなければ合格となるのだが。
どうせこれは形だけだしな。


俺は自分の名前を探すように上から見ていく。


1  海野咲夜  500

2  天野天也  497

3  神崎奏橙  486


という結果だった。
俺は1番上の名前とその点数に目がいく。
仕方ないだろう。
それは、初めて奏橙以外で俺よりも上位にいる奴で、なによりあの咲夜だったのだから。


「あーあ、また負けちゃったかぁ……。
それにしても、天也ですら満点逃したっていうのに……凄いね」

「あ、あぁ……。
咲夜か……卒業までには絶対に勝つ」


なんて決意をしながら咲夜を探そうと周りを見渡す。
すると、少し向こうに先輩に囲まれた(といっても2人だが)咲夜を見つけた。
1人はブロンド髪の男の先輩でこの先輩は多分髪の色からしても咲夜の兄か何かだろう。
もう1人はオレンジの髪の綺麗な女の先輩だった。
咲夜とはどういう関係なのだろうか?

咲夜は下から探しているのか未だに名前を見つけられないらしく不安げな表情をしていた。
その兄らしき先輩は既に見つけたらしく優しく微笑み咲夜に教えてあげていた。
それを聞き咲夜がバッと顔をあげ、本当に嬉しそうに笑っていた。

その咲夜の表情を見て、俺も穏やかに微笑んだ。
そして俺は奏橙の事を忘れ、人混みをかき分けながら咲夜のもとへ向かう。


「咲夜!」


そう声をかけると咲夜はその大きな可愛らしい瞳で俺の方を見る。
その瞳の中に俺が映ると、顔が熱くなっていく気がした。


「まさか首席を取られるとは思わなかったよ。
おめでとう、咲夜」


動揺がバレないように心がけつつお祝いの言葉を伝える。
咲夜は優しく微笑み、その暖かな声を発した。


「ありがとうございます、天野さん」


天野さんと呼ばれた事に距離を感じ、普段なら言わないであろう事であったが下の名前で呼んで貰えるように頼んだ。
すると彼女は快く了承してくれる。


「同じクラスになれるといいな」


そうすれば仲良くなれるかもしれないし。
少なくとも今よりは話せるだろうし。
そんな事を考えていたがまさか口に出してしまっていたとは思ってもいなかった。


「9クラスもあるようですからそれは無理そうですね。
では、私はこれで失礼します」

「あぁ、またな」


咲夜がそう答えたのはきっと俺が無駄な期待をしないようにという事だろう。
俺が無駄に期待してがっかりしないようになどという気遣いが出来るだなんて本当に優しい奴だと思う。

そして咲夜が行ってから気付いたが咲夜に友人となってくれるよう言うのを忘れていた。

……入学式の時にはちゃんと伝えよう。



その後、家に帰ると俺は父に初めて頼み事をした。

客船会社令嬢である咲夜と同じクラスにして欲しいと。
それに、父は驚きながらも快く了承してくれた。
本来ならばこんな事を頼むのはダメなのだろうが……。


それから9年間、ずっと同じクラスにしてくれるとは思ってもいなかったが。

高等部へと進学してからは俺と奏橙と咲夜の他にもう1人、愛音も共にいるようになった。
それは咲夜の好奇心から友人となったが、密かに愛音に対し嫉妬もしていた。
俺が咲夜といる時間が短くなり、咲夜は愛音と共に居るようになったからだ。
愛音に咲夜をとられたような感覚だった。

その時、俺はようやく理解した。
俺が咲夜に対し、恋愛感情を抱いていたのだと。
薄々理解していたのかもしれない。
ただ、それを認めたく無かっただけだった。
認めたら咲夜とは友人で居られなくなるかもしれなかったから。
だが、俺は友人以上になることを求めてしまった。
それこそ、ずっと共に居られるような、そんな関係を。

だからこそ、初等部に入る前からの友人である奏橙に相談する事にした。

俺が全て話すと奏橙は笑顔の中に少し呆れを含ませた様子で口を開いた。


「ようやく理解したの?
僕は初等部の頃から気付いていたのに。
馬鹿だなぁ、天也は」


その意外な言葉に驚くが、俺の様子を気に止める事もなく奏橙は続けた。


「……で、僕にそれを話したって事は咲夜と付き合いたいって事?
それとも、諦めるとか?」


奏橙の口から出たその選択肢は思いのほかあっさりと決めることが出来た。


「……諦めたくは、ない。
俺は、咲夜が好きだ。
咲夜の婚約者に、なりたいと思う。
もし、振られたらその時は……しばらく引きずるだろうが……」


父が許してくれるかは分からないが、それでも諦めたくは無かった。

奏橙はフッと笑みを浮かべ「そうか……」と呟いた。


「協力するよ。
まぁ、咲夜は天也の事をそういう対象として見てないみたいだからそこをどうにかしないとだけどね。
それと、最大の障害があるからね……。
僕が協力する以上、途中でやめるなんてマネはしないでよ?」


最大の障害……。
悠人先輩か。
悠人先輩を説得……は無理だな。
あのシスコンの先輩をどうにかしないといけないのか。
そう思うと気が滅入るが咲夜の事を思い浮かべると自然と前向きになれる気がした。


「悠人先輩なら咲夜が言えば何とかなるだろう。
それと、当然だ。
簡単に諦められるようならばこんな事相談していない。
諦められないからこそ、お前に相談したんだからな」


悠人先輩は咲夜の意思を1番に尊重する。
だからこそ最初は渋るかもしれないが、咲夜が言えば何とかなるだろう。
となれば、問題は咲夜か。


「なら、問題は咲夜だね」


そう。
まずは咲夜に男として見てもらう必要がある。
今のままではいけない。

そう思った瞬間だった。




だが、その次の週の夜。
俺のところに奏橙から電話が入った。


『咲夜が泣いているらしい』


と。
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