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客船2
しおりを挟むプールでひとしきり遊んだ後、遊び疲れた私達は、今度は温泉へと向かう。
夏とはいえ外なので水から出ると少し寒かった。
「わぁ…船の上とは思えないくらい広いです…!」
「向こうへ行けば岩盤浴とかサウナとかもあるよ?」
「岩盤浴って…前来た時にあったか…?」
「んー、多分無かったと思うよ?
1ヶ月くらい前にお父様の思いつきで空いてたスペースに取り付けたやつだし……」
…2、3ヶ月くらい前に父がいきなり、
『そうだ!
サウナを付けよう!』
と言い出したのが始まりだった。
そして、急遽取り付けたやつがこの客船にあるサウナである。
母は口元は笑ってはいたものの……目が笑っていなかったのをよく覚えている。
ちなみに、父がサウナを、と言い出したのはあのころの父のブームだったからである。
「……咲夜の家族って自由だな…」
「……私とお母様は違うし!
…………多分!!」
違う……よね?
私の基準が父や兄なので少し心配になってしまうが父や兄より自由にしていないはずだ。
せいぜいマカロン関係にしか……。
「くくっ……多分って…!」
「だって私の基準がお父様やお兄様なんだもん!
それに、天也だって自由だし、奏橙だって基本自由でしょ?
人をかなりの頻度で面倒なことに巻き込むし!!
だから比べられるような人があまりいないの!」
私が少しムキになって言うと天也と奏橙が口を揃えて言った。
「「咲夜に言われたくないな(よ)」」
「酷っ!?
二人共、私の扱いだけ酷くない!?」
前々から思っていたがやはり私に対してだけ冷たい気がする。
いや、冷たいというよりも遠慮が無いのか。
だが、当の二人は表情を変えずに言った。
「気の所為だ」
「気の所為だね」
「絶対に気の所為じゃない!
横暴だ!!」
そんな風なやり取りをしていると愛音や紫月が面白そうに笑った。
魁斗は……何故か顔を赤くしている。
…何故だろうか?
「仲がいいですわね」
「まぁ、初等部の頃からの付き合いだからね。
……元はと言えば天也がしつこかったっていうのもあるだろうけど」
ボソッと呟いた奏橙に対して天也が「おい」と、どこか楽しそうにツッコミを入れる。
だが、確かにそうだ。
私は最初の頃、攻略対象者である天也や奏橙に近付かないようにしていたのだ。
関われば関わる程、殺される確率が上がる…そう思い込んでいたことと面倒だったという2つの理由からだ。
それに……私は所詮脇役。
だから脇役は脇役らしく、ヒロインである愛音のサポートに徹しつつも死亡フラグを折っていこうと、そう考えていた。
それが今はどうだろうか。
攻略対象者の一人である奏橙は紫月と両思いとなり、私の友人で幼馴染。
天也に限っては……何故か私を好きだとか言い出す始末。
…兄はシスコンと化し、父は親バカになってしまったが。
その他の攻略対象者である先輩や後輩とは友人のような感じで親しくさせてもらっている。
それを思うとシナリオなんていくらでも壊せる…そんな気がしてくるのが不思議だ。
「咲夜、どうかしたか?」
天也が急に黙り込んだ私の顔をのぞき込むように見てくる。
そんな事でドキッとしてしまった私が恥ずかしくなり、ぶっきらぼうに「何でもない!」と返す。
すると、何を思ったのか天也が急に私の手を握ってきた。
私が思わず天也の顔を見ると照れているのか顔を隠した。
「咲夜が走って転んだりしたら大変だからな……」
「っ…。
こ、転ばないし!
……まぁ、天也が転んで怪我でもしたら大変だし…仕方ないからこのままでいてあげるけど」
まるでツンデレのような言葉になってしまったが天也は特段気にした様子もなくいつもよりも嬉しそうに笑った。
「それは反則でしょ……」
と思わず呟く程、見惚れてしまう笑顔だった。
幸いというべきか天也本人には聞こえていなかったようで安心した。
聞こえてたら死ぬ程恥ずかしいし。
砂風呂にでも行って顔まで埋まりたいくらい恥ずかしいだけだ。
「咲夜と天也は二人きりにしてあげよう」
「そうですわね」
「そうですね」
「……分かった」
私が気付いた時にはそんな会話の後に4人は離れてしまっていた。
そして、後ろを歩いていた奏橙がこちらを見てニヤっと笑った。
その目線は私と天也の繋いだ手に送られていた。
死ぬ程恥ずかしいが先程、繋いでいると言った手前離しにくい。
どうすればいいだろうかと考えを巡らせているうち、プールに入った後ということもあり体が冷えたのか寒くなってくる。
「咲夜、取り敢えず近くの温泉に入るぞ」
「……ん。
ここから近くだとワイン風呂になる…」
「あぁ。
少し急ぐぞ」
「……ん」
急ぐといいつつもしっかりと手を握り歩幅を私に合わせてくれる。
そんな天也の事がやっぱり私は好きだと思う。
本人には口が滑っても言えないが。
ーーー天也ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
咲夜が水着を着て出てきた時、一瞬、誰かと思うくらい綺麗で、言葉が出なかった。
いつもは下ろしている髪も今日は1つに纏め、その頬は少し赤くなっている。
いつもとは違う、ピンクの、フリルのついた水着を身につけていた咲夜はいつもに増して可愛らしく、思わず見蕩れてしまう程だ。
自惚れかもしれないが、俺が何も言わないでいると咲夜は心配そうに見てくる。
それがまた可愛いと思ってしまう。
俺が固まっていると愛音が口を尖らせた。
「天也、何か言ってあげてください!
咲夜ったら可愛いんですよ!
最初は着るのを嫌がっていたくせに……」
咲夜は慌てて愛音の口を塞ごうとしていた。
そんな咲夜が可愛らしい。
たまに見せる子供っぽいとこもやはり好きだと思う。
「か、かかか愛音!?
何言ってるの!?」
「本当の事ですから」
「愛音の馬鹿ぁぁぁ!!」
そんなやり取りをしていた咲夜に俺は顔を背けて言った。
顔を背けたのは咲夜が小動物のように思えてきたこととあの慌てようが可愛いらしく直視出来なかったからだ。
「その…なんだ……?
…に、似合ってる…。
可愛いと、思う……」
元々咲夜が可愛いから当たり前だが。
それでも愛音と結城に礼を言いたい。
よくやってくれた。
だが、やりすぎだ。
咲夜が可愛すぎて辛い。
「な、なっ……。
何を言っているんですの!
私ですもの。
当たり前でしょう」
顔を赤くしながらもそんな風に言う咲夜がやはり愛おしいと感じる。
それに、照れると令嬢の様な口調になるのはいつになっても変わらない。
それを思うと俗にいうツンデレとやらを思い浮かべてしまう。
ツンデレな咲夜も可愛いだろうが。
俺達はプールでひとしきり遊ぶと温泉に向かった。
温泉には俺の知らない間にサウナも出来ていたようで驚いた。
しばらく話していると、咲夜が寒そうにしていたので取り敢えず温泉に入ろうと急ぐ。
だが、その移動中も寒そうにしている咲夜を見て思わず
「上着があればな…」
と呟いたのは咲夜には聞こえていないようだった。
咲夜の少しだけ冷えた手を引き、急いで向かおうとする。
だが、それでも俺は咲夜が転ばないよう歩幅を合わせ、しっかりと手を繋ぐ。
自然と俺と咲夜の距離が近くなる中、ドクンドクンと俺の鼓動が響く。
その鼓動は咲夜の隣にいるせいなのかいつもより早く、煩く感じた。
こうしていると余計に愛おしく感じてしまうのだ。
「咲夜が走って転んだりしたら大変だからな……」
本音を言うと、ただ、咲夜と手を繋ぎたかったというだけなのだが、まだ咲夜の想いすら俺に向いていないのにそんな事を言えるはずもなく、とって付けた理由を口にした。
「っ…。
こ、転ばないし!
……まぁ、天也が転んで怪我でもしたら大変だし…仕方ないからこのままでいてあげるけど」
どうやら咲夜にはツンデレ属性もあったらしい。
まぁ、そんなとこも可愛いが。
ほんのりと顔を赤く染めているところが本当に可愛い。
しかも、チラッと俺の顔を伺うのが余計に。
……取り敢えず、咲夜も少しは俺の事を意識しているらしい事がわかったので良かった。
まぁ、まだ恋愛感情まではいってないようだが。
あくまでも、俺が告白をしたから意識している、程度なのだろう。
それでも以前と比べるといい方だが。
あのシスコンの悠人先輩がいるからまだ大丈夫だとは思うが、咲夜はこれだけ可愛いのだからいつ婚約者が出来ても不思議ではない。
それまでにどうにか俺との婚約を頷かせたいが。
それに、悠人先輩の事だ。
俺と咲夜の婚約よりは燈弥先輩と咲夜を婚約させた方が……などと考えそうである。
だが、悠人先輩は咲夜の想いを一番に決めるだろう。
つまり、それまでに咲夜の想いを俺に向ける。
そうすればまだ俺にもチャンスがある。
「……絶対に、咲夜を他の奴には渡さない」
俺は、咲夜に聞こえないよう、そう呟くと、隣にいる咲夜を見て笑みを浮かべた。
本当の意味で咲夜の隣にいるために確実に咲夜を俺に惚れさせようと。
咲夜のためならばなんだって出来ると思うのが不思議だな。
悠人先輩が怖いところではあるが……それで引くようならばまず、告白などしないさ。
さて、悠人先輩の邪魔が入らないこの旅の間にどれだけ距離を縮められるか、だろうな。
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ここまで読んで下さりありがとうございます!
お気に入り2000人越え……本当にありがとうございます!
アドバイス、指摘、感想等をくださる方々もありがとうございます!!
これからもよろしくお願いします!
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