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客船2日目 2
しおりを挟む私と魁斗の話が終わった頃になり、ようやく天也や愛音が起きてくる。
それから少し遅れて紫月も降りてきた。
ただ、奏橙だけを除いては全員起きたわけだ。
「あぁ……奏橙は放っておけばいい。
あいつは極端に朝が弱いからな……」
……という事らしい。
まぁ、天也がそう言うのなら…という事で朝食を食べ始める事にした。
朝食はパンと野菜、ハーブティーだった。
多分、私の朝食に合わせたのだろう。
「さて……今日は何をしましょうか?」
「どんなものがありますの?」
私は紫月の質問に答えようと必死に思い出す。
「テニスコートと卓球場、ゴルフ場、ダーツやビリヤードも出来るよ。
スケートリンクは……今は使えたっけかな……?
確認しとく。
ジップラインもあったはず。
中だと…シアタールームかな?
プラネタリウムとかもあるし、昨日の夜に行ったカジノとかね。
下の階にいけば海中を見れるようになってるし……。
あとは…奥の一角には植物園みたいなのもあるかな。
……お父様の趣味で食虫植物が多いけど…」
「おい……それはあっていいものなのか…?
客船としてはどうなんだ……?」
いや、それが地味に人気なんだよね。
だからお母様もあまり強くは言えないし……。
まぁ、流石に家まで持ってきた時は怒ってたけど。
「ジムもなかったか?」
「あるよー」
そこまではジップラインでしか行き来出来ないんだけどね。
というのは敢えて言わないでおこう。
「天童さん、スケートリンクは使えますの?」
「はい、使用可能です。
使用なさいますか?」
「奏橙も来てから決めますわ」
「念の為ご用意しておきます」
「ありがとうございます」
まぁ、取り敢えずスケートリンクは使えるらしいということが分かった。
とは言え奏橙が来ないと話が進まないのだが……。
早く起きてきてはくれないものか……。
「咲夜、俺は少し奏橙を起こしてくる。
……起こしにいかない限り、あいつは午後まで寝ているだろうからな」
さすがにそこまでとは思っていなかったのだが……。
今更だが奏橙の意外な一面を知った私だった。
……いや、よくよく思い出してみればゲーム内の奏橙も朝が弱かったんだけどね?
「……なぁ、サッカーコートとかは無いのか?」
どうやら魁人はサッカーがやりたくてうずうずしているらしい。
私はそんな魁人を見てクスリと笑った後、その問いに答えた。
「勿論、あるよ。
また案内しようか?」
と提案すると魁人は目を輝かせた。
その様子はまるで玩具を与えられた子供のようにも見える。
「本当か!?」
と身を乗り出す姿はより子供のように感じさせるには十分だろう。
そんな子供を見るような私達の視線に気づいたのか魁人は顔を真っ赤に染め上げ咳払いをして座った。
未だに顔の赤みはひいてはいないものの、そんな姿が可愛らしく感じた。
「……で、本当に案内してくれるのか?」
「勿論。
私はどこかの誰かさんと違って言った事はちゃんと守るからね」
例えば天也に対する報復とかもね。
そういえば…そろそろ天也と奏橙も降りてくるだろうか?
ちなみに、どこかの誰かさんとは奏橙や天也のことである。
奏橙はのらりくらりと躱し無かったことに、天也は天然だ。
私達はお茶を飲み待つもののなかなか降りてはこない2人に対しイライラがだんだんと積ってくる。
10分くらいたった頃、私は待ちきれずに席を立ちあがった。
そして、そのまま奏橙の部屋に向かう。
どこへ向かうのかが分かったのか紫月も黙って私についてきた。
その空気を読んでか魁人も立ち上がった。
愛音は席を立ちあがった私達を見て、戸惑いを見せつつも恐る恐るという感じで席を立った。
そして、私達が奏橙の部屋の前まで来ると中から天也の怒鳴り声が聞こえてきた。
『奏橙!
さっさと起きろ!
いつまで寝ているつもりだ!!』
……どうやらまだ奏橙は起きていないらしい。
奏橙はいつも学園に来るときはどうして起きているのだろうか?
私は呆れつつもノックをした。
すると出てきたのは奏橙を起こしに来ていた天也だった。
天也は疲れはてた表情のまま私達に中へ入るよう促した。
ようやく起きたらしい奏橙は未だ眠そうに目をこすっていたが紫月を見るとすぐに顔を洗い着替えてきた。
……なんという変わり身の早さだろうか。
その奏橙の様子に天也は口をあんぐりと開けていた。
それ程いつもはゆっくりと支度をしていたのだろう。
だが.天也のこんな表情を見たのは初めてだ。
「ごめん、どうも朝は苦手なんだ。
明日からは気を付けるよ……」
本当に申し訳なさそうに言った奏橙に文句の1つも言えなくなる。
私は溜息を吐くと小さく呟いた。
「明日から奏橙が起きなかったら氷でも貰ってこようかな……」
その呟きが奏橙と天也には聞こえてしまったらしく天也はニヤリと笑い奏橙は慌て始めた。
「咲夜!?
それ絶対心臓止まるから!!
やったら僕、高確率で死ぬよ!?」
「あぁ、そうだな。
奏橙を起こすにはそれくらいやらないとだな……。
俺の起こし方が甘かったのか…」
「ちょっと、天也まで!?
天也、まさか咲夜の変な思考がうつったの!?」
なんて失礼な事を言い出した奏橙の足を細く高めのヒールのある靴で思いっきり踏んでやった。
痛がる奏橙に対し私は笑顔を浮かべて言ってやる。
私は病原菌か何かか。
「あら…申し訳ありませんわ。
ついつい足が滑ってしまったようですわ」
ふふっ…と口元だけ笑って見せると奏橙は顔を引き攣らせて目をそらした。
自分が悪い事に気付いたのだろう。
それから少しして私の気が済んだ事と、早くしないと片付けが遅くなり料理人の休憩時間が無くなってしまう事を配慮しもう一度、私達は食事会場へとむかった。
そしてようやく食事が終了すると休憩を挟んでからどこへ行くかの相談が始まった。
「私、スケートなんてやった事ありませんわ…」
「私もないよ」
「私は一度だけやった事がありますけど…滑れなかったです…」
という女子3人に対し、3人の男子は顔を見合わせた。
そして……
「よし、スケートにするか」
という天也の言葉で決定した。
…絶対に面白そうだからなんていう理由で決めただろう天也に対し恨みのこもった視線を向けるもののくくっと笑って返された。
諦めてスケートリンクに向かう途中、天也は私の隣に来たかと思うと、私の耳元で囁いた。
「……俺が教えてやるから大丈夫だ。
絶対に滑れるようにしてやる」
などと言われ体温が上昇していくのを感じた。
……耳元で囁くのはやめて欲しい。
最近、天也は声変わりをして低いテノールの声になってきたんだよね。
とにかく、私の心臓に悪い。
スケートの貸し出しなどが終了すると天也が私に向けて手を差し出した。
少しだけ恥ずかしいと感じながらも手をとると「歩くぞ」と天也がゆっくりと進み始める。
そのスピードは私に合わせてくれているのかとてもゆっくりでその不器用な天也に私はダンスの時の様に身を委ねた。
「ひゃっ……!?」
氷の上まで行くと私はバランスを崩し、転びそうになる。
私はとっさに目を瞑るがいつまでたっても衝撃がくることはなく恐る恐る目を開く。
するとそこにはフッと笑う天也の顔があった。
「咲夜、大丈夫だって言っただろう?」
という笑いの含んだ天也の声にあまりの羞恥心で思わず顔を背ける。
「……ん」
天也は相変わらず優し気に微笑んでいて、その笑みが私に安心感を与えてくれる。
1時間もすれば、私もだいぶ慣れ天也の隣をサポート無しで滑れるほどになっていた。
これだけ滑れるようになったのは天也の教え方が良かったことと私が前世で2回ほどスケートに行った事があったからだろう。
その事を知らない天也は苦笑を漏らしていた。
「流石は咲夜……。
俺もこれだけ滑れるようになるにはかなり練習したんだがな……」
「……教える人が良かったんじゃない?」
と言ってやると天也は照れ臭そうに笑った。
そんな天也の表情に思わず私は微笑んだ。
「そうだと良いがな……」
「天也、滑ろう?」
「あぁ、そうだな」
そのまま昼過ぎまで遊んだ私達は少し遅い昼食をとる。
「私、結局滑れませんでしたぁ……」
と落ち込んでいる愛音に私達は苦笑する。
ただ1人、愛音に教えていた魁人を除いては……。
「姉さんがあんなにも運動が出来ないとは思ってなかった……。
バランス感覚も皆無だけど……」
私は見ていなかったのだが愛音がどんな風に滑っていたのかは大いに気になるところだ。
いくら愛音が運動神経が悪いとはいえ…ねぇ?
「私も滑れるようになったのは最後の1時間程度ですし…」
そう慰めるのは紫月だ。
紫月には勿論奏橙が教えていたようだが楽しそうにやっていた。
……特に奏橙が。
あんなにもデレデレの奏橙は見ていて気持ち悪かった。
まぁ、当の本人達は楽しそうだったからいいけど。
「うぅ……私なんて1歩歩いただけで転んでましたぁ……」
という言葉には紫月や奏橙、私ですら思わず目を背けた。
「咲夜はどうでしたの?」
紫月は話を逸らすようにこちらへと話しを投げかけてくる。
その質問には私ではなく天也が答えた。
「…咲夜はな、1時間後にはすでに滑れるようになってたぞ。
それにな…終わりごろには俺よりも上手くなっていた…。
……絶対おかしいだろう!?」
何故か最後の方は愚痴の様にも感じたのだが…気のせいだろうか?
あれか、途中で出来る気がするといってアクセルやらループやらをやり始めたのがいけなかっただろうか?
……最終的には10分の9の確率で成功するようになったけど…。
「おかしいだろ!?
どう考えれば、初心者のくせにアクセルやらループやらをやり始めるんだ!?
しかも普通に成功してるし…!!」
失礼な。
出来るような気がしたからやってみただけじゃないか。
そんな人の事をおかしいという様な言い方をしないでほしい。
「まぁ、ほら。
咲夜だし……」
「咲夜ですもの」
「咲夜ですから……」
「……まぁ、当然の結果じゃないか?」
奏橙、紫月、愛音、魁人の順で言うが、どうにも納得がいかない私だった。
「なんか私がおかしい人みたいに言ってない?」
すると、皆そろって顔を背けた。
「酷くない!?」
本当、おかしいと思う。
なぜ皆して私を…。
「……褒め言葉だよ?」
「嘘つけ!?」
奏橙の一言に私は朝と同じように思い切り足を踏みつけるのであった。
……1つ違うのはグリグリとやってやったことだろうか。
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