脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

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客船2日目 午後

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……さて、午後は一体どうしようか?
…………よし、自由にしよう。


「咲夜、これからはどうしますの?」

「それだけど…自由にしようかなぁって」


それを聞き奏橙と紫月は2人で顔を見合わせて小さく笑みを浮かべた。
私の方はどうしようか?


「魁斗、もう一度!!
もう一度だけでいいから、私にスケート教えて!」

「……はぁ…仕方ないな、姉さんは……」


などというやり取りが隣で行われている。

うわぁ……いたたまれない…。

居づらくなった私は無言で席を立ち上がり外へ出る。
1人だろうと知ったことか。

外へ出て潮風に当たる私は背後から迫ってくる人物に気付く事はなかった。


「咲夜」

「ひゃぁっ!」


思いがけずかけられた天也の声にそんなまぬけな声が漏れてしまった。
腹を抱えて笑う天也に対して私は涙目になりながらも、恨みがましく睨みつける。


「……奏橙にやったことと同じこと、してあげようか?」


私は至って本気だ。
それが分かったのか天也は咳払いを1つして私の隣にたった。


「探しただろうが……。
1人で行くなよ……」

「っ……!
……何処に行こうと私の勝手でしょう。それを天也に言われる筋合いは……」


私は熱くなった顔を見せないように何か言おうと口を開いたものの……。

何故こんな言葉になってしまうのか!!
こ、これで嫌われたりはしないよね?
え?え?
本気で無いよね?
そんなこと言ったら父と兄なら絶対に嬉嬉として仕向けるに決まってる。

だから今度はこんな事がないようにしなければいけない…そう思い落ち着こうとするが。


「あぁ。
……だから、俺が付いて行く事にするさ」

「ん…馬鹿じゃないの?」


とは言ったものの、心の中では物凄く慌てていた。
それはそうだろう。
先程決めた事を忘れてまた心にもないこと……ではないが口に出してしまったのだから。


「ははっ…そうかもしれないな。
だが、俺は咲夜といることを選んだんだぞ?
自分の好きな奴といれるなら何だってするさ。
なぁ、咲夜?」

「っ~!!
天也の馬鹿!!」


予想外の言葉に私は何も言えなくなってしまう。
ただぱくぱくと口を開いたり閉じたりしているだけだ。

ずるいと思うんだ。
こんな、こんな歯の浮くようなセリフは無いだろう!
本当、反則だと思う。


「咲夜、俺はお前の事が好きだ。
今も昔も、これからも変わらないって言えるくらいにな。
ようやく婚約者という立場にありつけるんだ。
そう簡単に離すつもりは無い」


天也は少しだけ口元に弧を描いていた。
私は天也のせいで先程からうるさい心臓の音を沈めようとするが無駄だと分かるとさっさとこの場を切り上げてやろうと思うと同時にこの際、私の気持ちとかも言っておいた方が……などと考え始めていたのだった。


「……天也」

「どうかしのか?」


こうしてみると中々言葉に出来ないものである。
言いたい事は纏まっているのにも関わらず、だ。

……あぁ、もう!!
女は気合いだ!!


「わ、私も…天也の事が、そ、その…す、すす…」

「…酢?
酢が欲しいのか?」


……その天也の一言に私は羞恥心よりも怒りやらの感情が勝った。


「違う!
好きだって言いた…あ…」


私の言葉を聞いた天也は何時になく嬉しそうに笑った。


「ち、違うから!
違わないけど違う!」

「どっちだよ……」


こ、こうなったら行動に?
……前世含めて恋愛経験は今回が初めてなのだ。
そんな私が何か出来ると?
……無理だね。


「じゃあ、私は行くから!!」


……よし、ジムに行こう。
そして気持ちを切り換えよう。
そうじゃなきゃやっていけない。


「俺も行…」


聞かなければ問題無いと判断し私は自室へと戻りトレーナーを袋に入れ、更に上の階へと向かった。

…幸い、この辺りには誰もいないらしい。

私はホッとしたのもつかの間、誰かにバレないうちにとジップラインの用意を始めた。
前に兄にやり方を教えて貰ったため自分でも出来るのが良かった。

用意が終わると私はすぐにジップラインでジムへと向かった。
上から見る船上はやはり綺麗だと感じる。
……殆どプールや温泉なのが…なぁ。
などと思いながらも無事ジムへと到着。


「ふぅ…ここに来るのも久しぶりだなぁ…」


と、電気を付けまずは軽くストレッチをする。

天也に離さないと言われた時の事を思い出しまた心臓がうるさい程に音をたてる。

そして私はそんな考えをかき消すようにランニングマシンのスイッチを入れた。



日が暮れてきた頃、私は汗をタオルでぬぐりながらそろそろ戻るか…と準備を始めた。

……準備と言っても服は向こうにおいてきたため持っていくものはタオルしかないのだが。

電気を消し、確認を終えると再びジップラインで戻る。
日暮れという事もあり、海が赤く輝いていていつもよりも綺麗に感じた。

反対へと戻ると私は誰もいない事を確認してから自室へと戻り着替えやらを持って温泉へと向かう。

…こんな汗だくなまま天也の前に出られるはずがなかった。
というか、このままでは気持ち悪いし…。


「ふぅ……気持ちいぃ……。
やっぱり運動後の温泉っていいよねぇ……」


それから少しして私は温泉から上がると先程とは違い、緩めの白いワンピースを着てからその上にカーディガンを羽織る。
そして、以前、天也から貰ったネックレスを身につけると、鏡で確認してから再び自室へと戻る。


自室へ戻ってからすぐ、ノックの音が響いた。


「咲夜、いるか?」


それは紛れもなく天也の声であった。
その突然の訪問(ずっと1人で行動していたため連絡なんて来るはずがない)に慌て、しばらくあたふたした後に意を決して扉を開ける。


「……どうかした?」

「どうかしたって…お前な…俺を振り切ってどこかへ行った挙句、何処を探してもいないってどういう事だよ…」


どうやら私を探し回ったらしく天也は疲れている様子だった。
……今考えれば確かに酷い事をしたと思う。
だが後悔はしていない。

そうしなければ平静を保てなかったのだから仕方ない。
…まぁ今も平静を保っているとは言い難いが。
本当、恋愛は厄介だと思う。
思考能力を低下させるからね。


「……で?
俺から逃げて何処にいたんだ?」

「……何処だと思う?」

「咲夜の事だからな…。
仕事を邪魔するようなところには行ったりしないだろう…。
奏橙達は避けるだろうしな。
咲夜なら体を動かして忘れようとするはずだ……」


さすが天也。
私の事をよく分かっている。
だがそう言われるとまるで私が脳筋だと言われているような気になるのだが。


天也に私の行動を知られていたと知り私は少しだけ恥ずかしくなる。
そして遂に天也は答えを出した。


「ジムか?」


見事に正解を引き当てて。


「よく考えれば、俺はジム以外の場所なら知っているしな」


つまりジムの場所は知らない、と。
よし、ここは誤魔化してジムの場所は隠そう。
何故か?
それは私の心の平穏を守るためだ。
ジムに居れば天也は私の前には来ないという事なのだ。
またこういう事態へと陥った時のために保険は用意しておくべきだろう。


「……私がずっとここにいたとは?」

「無いな。
咲夜がこういった所で半日部屋に籠るなんて事しないからな」


……するかもしれないじゃないか。


「それに…着替えたって事は温泉でも行ったんだろう?
こんな時間から行くとしたらジムとスケート以外は考えられない。
が、スケートの方には愛音と魁斗がいるからな。
咲夜の行動から考えるにそれはないだろう」


……うわぁ。
本当、私の行動パターンが知られてるし…。
天也が少し怖いくなってくるんだけど。


「……それはそうと、天也。
どうしてここに?」

「ん?
あぁ…すっかり忘れていた…。
夕食は7時からでいいか聞きに来たんだ」


7時、か。
うん、問題ないね。
……こんな船上で問題なんかあるわけないだろうけど。


「了解。
あ、会場は四季の森になるから」


四季の森は和食で四季を再現した料理の出る会場だ。
はっきり言って私はあまり好きじゃない。
まず、懐石料理、という時点で無理なのだが。

いや、だって野菜とか桜や椿の形に切られてたり……デザートとかが動物の形になってたりして可愛いけどその分食べにくいし。


「……あそこか。
念の為に皆とは他の場所で待ち合わせにするか」

「あー、そうだね。
じゃあ、愛音のとこから行く?」

「そうだな」


天也は自然に手を差し出してくるが……この手を払ったらどんな顔をするのだろうか?
少し気になる。

……やったら駄目だろうか?
…駄目だね。
諦め……はしない。
また今度、別の機会の時にしよう。

私達の間には会話が無く、ずっと無言だった。

その時、何故そうなったのかは分からないが植物園の事が思い浮かんだ。
……植物園の中には噴水があってその噴水を中心としてライトアップをするのだ。


「……天也、夕食後付き合ってくれる?」


自然とそんな言葉が出ていた。
天也は驚いた様に私の顔を見る。
……そんなに見られると物凄く恥ずかしいのだが。


「…嫌ならいいけど……」

「行く。
何があっても行く。
例え.毒を盛られたとしても絶対に行く」

「いや、それはちゃんと解毒して?
というか、毒は……お兄様とお父様以外は盛らないから!!
………多分」

「多分って……」


というか、船上で毒なんて誰にもられるんだよ!!
だが、まぁ行ってくれるのか。
……いや、嬉しくなんてないし!
……嬉しいけど。

なんか、私この頃色々とヤバイ気がするなぁ。
「でも…ありがと」

「っ……だからそれは反則だろ…」


天也が何かを言ったようだが声が小さすぎて何も聞こえなかった。
…知らないフリをしておこう。
聞き返したら耳が遠いとか思われそうだし。


「と、着いたね」

「あ、あぁ…」


天也は一体どうしたのだろうか?
また顔が赤い気がするが……日の光が反射しているだけなのだろうか?
それとも体調がわるいのか……。


「天也、体調が悪いなら早めに言ってよ?」

「は?
いや、まぁ、善処はするが……」


よし、言質はとった。
まぁ、本当にやるかは別だとしても、ね。
もし倒れられたら泣き落としでもしてどうにかするさ。


「愛音、魁斗ー!」

「あ、咲夜!」

「2人してどうかした?」


2人は丁度休憩中だったらしく近くの席に座っていた。
……どうやら、愛音はまだ滑れていないらしい。
いや、1mは滑れたと言っていたか。
その運動神経というかバランスの悪さというか、とにかくある意味ですごいと思う。
そろそろ慣れてきてもいいと思うのだが。


「今日の夕食だけど……時間は7時からってなってて場所が変わるから5分前にホールで集合ね」

「わ、分かりました。
6時55分にホール……」

「分かった。
……1つ相談なんだけど…姉さんの運動神経の悪さが原因なのか俺の教え方が悪いのかどっちだと思う?」


……どっちなんだろうね?


「1回天也が教えてみたら?」

「俺はいいが、愛音はいいのか?」

「は、はい!
お願いします!」


という事で天也はスケートのセットを借りてきて準備すると愛音の手をとってリンクへと向かった。
そして私は愛音と天也が行ってしまった事もあり少し考えた後、近くにあった椅子へと腰掛けた。

……しばらく見ていたが多少、距離は伸びたもののあまり滑れていない。
つまり教え方のせいでは無かったという事だろう。


「……あんた、いいのか?
彼氏じゃねぇのかよ?
嫉妬とかはしないのか?」


魁斗が口を開いたと思ったら質問だらけだった。
だが、そう言われればそうかもしれない。


「違うし!
私は天也と付き合ってなんかないし!!
って、何でそこ勘違いしたの!?」


魁斗の言葉に反応して私がツッコミを入れると、魁斗は曖昧に笑うだけだった。
本当に何で勘違いしたのだろうか?


「はぁ……やっぱり変わってるよな咲夜って」


あれ?
なんか呆れられた?


「失礼な。
私が変わってるんじゃない。
皆が変わってるんだよ」

「いや、両方だろ」


……え?
更に酷くなってる気がするんだけど!?
気の所為?
ねぇ、気の所為!?

いや、気の所為なわけないってことは分かってるけどさ。

そんな事をしていると天也と愛音が戻ってきた。
天也は神妙な顔をして、愛音は泣きそうな顔をしていた。


「……咲夜、俺には無理だ」

「さ、咲夜ぁ……」


……私はそんな2人の様子を見て踵を返そうとしたのだった。
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