脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

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客船2日目 午後2

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受付まで一旦戻り、セットを借りるとその場で準備を終え、愛音の元に戻る。

……天也が投げ出したくらいだ。
私にも無理だろうが少しは…少しくらいは伸びる……はず。


「愛音、まだ行ける?」

「さ、咲夜……ありがとうございます…!」


私は愛音の手を取りリンクへと向かう。


「愛音、最初は私に重心をかけるようにして。
大丈夫、転びそうになっても私が支えるから。
……というか、私に重心をかけてくれれば転ぶ事はない……はず」

「…は、はいっ!」


私は愛音に合わせるように少しずつ、ゆっくりと進んでいくが愛音が何度か転びそうになるのを寸前のところで支える。

何度か繰り返しているうちに感覚を覚えてきたのか転びそうになることは減ってきていた。


「愛音、次は私の補助無しで行ってみよう。
大丈夫、今の愛音なら出来るから」


私は愛音を安心させ、出来ると思わせるように仕向ける。
いや、仕向けるという言い方だとイメージが悪いか……。


「が、頑張ってみます…」

「じゃあ、途中で離すよ?」


4分の1程度進んだところで私は愛音の手を離す。
すると、最初は少し不安定だったものの途中からは結構上手く滑れていた。


「愛音!
やったね!
じゃあ、最後は私の補助無しで最初からやってみよう」

「はい!」


と、恐る恐る愛音は滑り始める。
……普通に出来てた。
両手を広げているのは気になるもののそれ以外は出来てる。


「咲夜!
出来ました!
ありがとうございます!!」


愛音に喜んで貰えて良かった。
だが…結局何が駄目だったのだろうか?

……よく分からないな。
まぁ、出来るようになったんだしいいよね!


「愛音が頑張ったからだよ。
私は手伝っただけだもん。
おめでとう、愛音」

「はい!
ありがとうございます、咲夜!」


本当に嬉しそうに笑う愛音だったが、リンクの上にいた事もありバランスを崩して転んでしまった。


「きやっ……」


私は苦笑しつつも愛音を起こすと、そのままリンクの外へ上がる。


「……俺の頑張りは何だったんだ……」

「最初から咲夜が教えろよ……」


……2人の声に私と愛音は揃って目をそらすのだった。
仕方ないじゃないか。
まさか私もこんな簡単に出来るようになるとは思ってなかったんだよ。
マジで何が悪かったんだ……。


「あ…天也、紫月と奏橙に…」

「連絡は入れたから安心しろ」


さすが天也と言うべきなのだろうか?
それとも私の配慮が足りなかっただけなのだろうか?


「…成績いいのにな…」

「悪かったね、成績だけで!」


感謝の気持ちが全く無くなったよ。
これが奏橙や魁斗だったら絶対に足を踏みつけてたし。


「愛音はどうする?
まだ滑る?」

「少し休憩してから戻ろうかな…と」

「そっか。
じゃあ、私はもう1回行ってこようかな」


と、リンクへと戻り自由に滑り始める。
そして、午前中にやったループやらを取り入れて滑っていく。
うん、楽しいね。


10分くらいしたところで時間が不安になり戻ると天也達が呆れていた。


「……咲夜、初心者ですよね?」

「……咲夜が特別おかしいだけだ」

「……姉さんとは大違い」


何故か侮辱されているように聞こえたのは気の所為だと思いたい。

私達はセットを返却するとそのままホールへと向かった。
すると、既に奏橙と紫月が来ていたため少し後悔したのだった。


「咲夜、今日の会場変わるって聞いたけど…」

「四季の森だよ。
会場私が1番好きなとこなんだけどね…」

「へぇ……うん?
だけ?」


奏橙は気付いてしまったようで私に問いただすような視線を投げかけてくる。
そんな視線に居心地が悪くなり天也を壁代わりにする私だった。

壁にした事には気付いていない天也はどこか嬉しそうだったが……まぁ、知らない方がいい事もあるよね?


「お嬢!
良く四季の森へと起こし下さいましたぁぁぁ!!」


……相変わらず磯長いそながさんは暑苦しいしウザい。

四季の森っていう自然のイメージが壊されるし懐石料理という雰囲気が全くない。
磯長さんがいると鉄板系のイメージになるのだが。
いつもなら兄が首を掴んで連れていくんだけど…今日は私が対応しないといけないのか…。
正直いって面倒臭い。


「磯長さん、お疲れ様です。
席は…」

「今日は!!
お嬢とお嬢のご友人が来ると聞き!!
この磯長!
腕によりをかけ…」

「料理長っ!
仕事をやれぇぇぇぇ!!

お嬢様、見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございません!!」

「い、いえ…席…」

「さすがお嬢!
お心が広い!!」


もうやだこの人達……。
全く話を聞いてくれない……。
席に案内してもらうだけでかなり精神がすり減ってくんだけど。


「お嬢様、すぐには連れて行きますので!!」

「おい!
離せ!!
俺は、お嬢と話…」


そして料理長が副料理長に連れていかれそれをただ呆然と見ている事になった私達6人。
そして、私の後ろにいる5人の視線は自然と私へと向かっていた。

……いや、言いたい事は分かる。
分かるんだけどさ……あれは私の手に負えないんだって…。


「お、お嬢様!
申し訳ございませんでした!
あの馬鹿……料理長は後で良く言っておきますのでどうかクビにだけは…」

「……腕は確かに ですもの。
首になど、するわけがありませんわ。
それに、この様な事には慣れていますから……。
それより……」

「ありがとうございます!!」


そう言って戻ってしまう副料理長。
……もういいや。
勝手に何処か座ってしまえ。
やっぱ窓側がいいよね?


「……なんというか…その、個性的な方ですわね……?」

「個性的すぎない?」

「……咲夜の周りだからな」


今、サラッと酷いこと言わなかった?
確かに磯長さんは個性的というか、ウザイというか…率直に言うと暑苦しい奴だけどあれでも料理に関してはプロだ。
あの外見で繊細な味を出すのだ。
あの外見で!!


「……失礼致します。
先程は料理長が失礼致しました。
お詫びという事で料理長からワインを…」

「…磯長さんに、私にお酒を飲ませたりしたらお父様とお兄様…下手したらお母様まで出てきますよ、と伝えてください」


遠回しに言ったがつまりは私に酒を飲ませたりしたら父と兄、母から何をされるか分からないぞ、という一種の脅しである。
私達は全員未成年だ。
そんな私達に飲酒させようとする馬鹿がいるとは…。

思わず頭を抱えた私だった。
しばらくすると、磯長さんが慌てて出てきた。


「お嬢ぉぉぉ!!
ど、どうか、どうかそれだけは!!」


……お願いだから包丁を持ったまま出てこない出くれるかな?
慌ててるのは分かるけどさ…。
大男に包丁って地味に怖いと思うんだ。
小さい子が見たら絶対に泣くよ?

……いや、包丁を持ってなくても泣かれてたか。
本人は子供好きなのに泣かれるって可哀想だよね。


「……もういいですわ。
私からは言いませんから……」


どうせ何処かのカメラから見ているのだろうし。

……兄と父が。
そしてきっと父は母に怒られて、兄は発狂して清水達に迷惑をかけているのだろう。
帰ったら私はどうなるのだろうか…。
取り敢えず天也の身の安全は保証出来ないか。


「お待たせいたしました」


と、料理長である磯長さんを放り出してどんどんと運ばれてくる料理。

……料理長がこんなのでいいのだろうかと不安になってきたものの、それは私が決める事でもないということで考えることを放棄した。

そして未だに包丁を持ったまま土下座をしている磯長さん。
そろそろ包丁持って下がって欲しいな。
何度言っても聞かなかったからこのままにしているが…。


……折角の料理だったが磯長さんの土下座もありさっさと食べ終わると席を立ち、温泉に行く事にした。

後で何か用意させよう。


温泉から出るとそこには天也が待っていた。


「咲夜、行くぞ」

「……ん。
愛音、紫月、また後で」

「はい、皆で待っていますね」

「お2人でゆっくりしていてもよろしいのに」


紫月は何を言っているのだろうか。
そんなゆっくりするつもりは私には無いのだが?
私は2人から逃げるようにして離れると植物園の方へと向かった。


「どこへ行くんだ?」

「内緒」

「植物園か?」


内緒って言ったのにすぐに当てられてしまった。
少し悔しく思いつつも、妙な幸福感があるというなんとも不思議な感覚に浸されながらも目的の場所へと急ぐ。


「……風が出てきたな」


やはり1度部屋に戻り上着を持ってくるべきだっただろうか?
そう考えていると天也が着ていた上着を私にかけてくれた。


「……咲夜が風邪をひいたりなんかしたら俺が悠人先輩に殺されるからな」

「あ、ありがと……」


こんなさり気ない気遣いが嬉しく感じる。

綺麗にライトアップされた植物園が見えてくると私達は思わず立ち止まった。


「綺麗でしょ?」

「……あぁ、綺麗だ」


……何故か私の方に視線が向けられていると感じるが…きっと気の所為だろう。


「行くぞ」

「うん!」


天也の差し出した手を取り、私は笑顔で中へと向かう。
そんな私を見てどう思ったのか天也は笑ってついてきてくれる。
それがとてつもなく嬉しく、幸せに思える。

そして、そんな自身の感情に突きつけられる。
私は、天也のことを好きなのだと。
どうしようもないほどに、好きになってしまっているのだと。

転生してからは素直に楽しいだとか幸せだとかよく感じるようになったと思う。
前はそんな事無かったのに。
昔はただ、勉強だけしか頭に無かったからこんな感情は初めてで……。
見つからないと分かっていても、どうしようもないこの想いの行き場を探す。

私は、天也にこの想いを伝える気はない。
少なくとも、今は。
愛音が天也のことを好きになるかもしれないと分かっていてそんなこと出来るはずもない。


「咲夜?
どうかしたか?」

「……別に、(皆とこれて)幸せだなぁ、って思っていただけ」

「………だからそれは反則だ……」


反則って…何がだろうか?
天也って時々意味が分からない事口にするよね。


「何でもない」

「何が」

「……何でもない」

「だから何が」

「………よし、行くぞ」

「いや、流されないし」


いきなり何でもないと言われても…。
それに誤魔化す様に行くぞと言われても気になるだけだし。
というか、天也って誤魔化し方下手すぎない?


「はぁ……今回は流されてあげる」

「わ、悪い…?」


疑問形なのは気になるところではあるが……今回はいいとしよう。


「さて…そろそろ戻ろっか。
皆が待ってるだろうしね」

「そう、だな…」


ゆっくりと戻ると中へ入ったところで上着を天也に返す。


「ありがと。
このお礼はまた今度するね」

「お礼って……。
咲夜じゃないんだがな…」


天也は苦笑をもらす。

私じゃないって何だろうか?
地味に貶されているような気がするのだが。


「……だが、そうだな。
クッキーがいいな。
前に食べたクッキー、美味かったしな」

「じゃあ、また今度、作って渡すよ」

「あぁ、楽しみにしてる」


そんな天也の笑顔が眩しく感じた。
そして今更ながら美味かったと言われた事に胸が暖かくなる。
天也といると知らない自分にばかり会う。

何か不思議だ。
天也といると自分じゃないみたいに胸が高鳴って…こんなにも振り回される。
それが楽しいと、幸せだと感じるなんて…。
私が他の誰かに乗っ取られているみたいだ。


………あぁ、そっか。
誰かに乗っ取られているんだ。
そうだよね、そうじゃなければこんな気持ちになるわけがないし。

あー、スッキリした。
乙女ゲーの効果ってやつだね、きっと!


「おい、咲夜?」

「ん?」

「いや、何で1人で百面相してんだよ……」


……それ、普通本人に言う?
普通は気付いても言わないと思うんだけど!?


「ふふ……よし、その喧嘩言い値で買った!!」

「は!?
何で喧嘩になっている!?
喧嘩売ってないからな!?」

「問答無用ぉ!!」


そして1発天也を殴ったところで私は疲れ果てそのまま自室へと戻り眠りについたのだった。


……後日、皆にニヤニヤと見られていて死ぬほど恥ずかしかった。
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