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客船3日目
しおりを挟む3日目
私は昨日の疲れが溜まっていたのか、いつもよりも1時間遅い6時に目が覚める。
まだ少し、眠気が残るもののそれをグッと堪えて着替えを始めるのだった。
上はチェックで明るめの服を。
スカートは白でフワッとしたタイプのものを選び……似合わないなぁ…と鏡の中の姿を見て思うが、まぁ元地があれだから仕方ないのだろう。
そろそろ下に行くか、と思い部屋から出ると、丁度愛音と出くわした。
「あ……咲夜、おはようございます」
「おはよう、愛音」
私と愛音は笑顔で挨拶を交わすと2人で下へ降りていく。
「咲夜、昨日はどうでしたか?」
「昨日って…何かあったっけ?」
「もう………天也と2人で行っちゃったじゃないですか!
本当に来なかったし…」
最後のボソッと呟かれた一言で昨日、天也と植物園を歩いた時の事が鮮明に思い出される。
その時の事を思い出したせいなのか胸が高鳴るのを感じる。
「あ、やっぱり何かあったんですね!?
顔が赤くなってます!
可愛い……」
最後の呟きは本人以外には聞こえなかった。
咲夜が昨日の事を思い出していたのも聞こえなかった1つの原因だろう。
「もう!
からかわないで!
天也とは何もなかったし!
で、愛音は誰か好きな人とかいないの?」
それは無意識での質問だった。
自分の話題から話を逸らそうとしたのだ。
だが、後に気付く。
この愛音の答えにより、ルートも絞られていくと。
そうなればきっと私を殺すかもしれない人が分かる。
……だが、それがとてつもなく怖かった。
誰かに殺されるかもしれないという恐怖。
また、死ぬかもしれないという恐怖。
この幸福は日々が砕け散るかもしれないという恐怖。
それらが私にのしかかる。
だが、それ以上に……天也のルートではなければ返事をしよう、という思いもあった。
……天也は学校ではかなり人気があるし。
愛音以外に取られるのは……ね。
「……いないですよぉ…そんな人!」
「え…あ、で、でも気になる人はいるんじゃない?」
「な、なな何で分かるんですか!?」
そんな愛音の反応を見て私は更に恐怖感に襲われる。
それを隠すように笑みを浮かべようとするが失敗してしまう。
夢中になって考えている愛音は気付いてない様なのでそれは良かった。
「で、誰なの?」
「う……あ、明来…先輩………です…」
明来先輩……か。
まさか、本当に明来先輩を選ぶだなんて……。
私は過去の私に向かって嘲笑する。
過去の私は『誰であろうと愛音を応援する』そう思ってた。
なのに…って、あれ?
明来先輩って攻略対象者だっけ?
……違う気がする。
まぁ、それはいいとして……。
愛音が天也を選ばないのであれば私は……。
「さ、咲夜?
や、やっぱり私じゃあ合いませんよね……」
「え!?
そんなわけないよ!?
こんな可愛い愛音があの明来先輩に取られると思うと……」
私は冗談混じりに明るく言った。
攻略対象者だったとしたら私が覚えてないという事は多分自殺ルートなのだろう。
それか攻略対象者じゃないのか……。
どちらかだろう。
「ふぇっ……な、ななな何言ってるんですか!?
可愛いのは咲夜の方ですよ!」
そんな愛音の慌てように私はふふっと笑みを零す。
よくよく考えれば私は今まで死亡フラグを折るために頑張ってきたんだ。
兄だってその過程でまぁ……シスコン化したけど…それでも兄が関係する死亡フラグは折れただろう。
天也だってそうだ。
告白なんてしてきたくらいだ。
天也が私を殺したりはしないだろう。
奏橙とは友人……(多分)という絆がある。
それにまさか幼馴染を殺す程冷徹……じゃない……よね?
多分、大丈夫なはず……。
うん、何とかなる気がしてこないでもない。
それにまず、あのシスコン化した兄は私が傷つく事を絶対に許す事はない。
わざわざS気質のある兄の逆鱗に触れるような事をするような馬鹿な奴がいるとは思えないし。
朝食会場につくと先に来ていた天也と魁斗に軽く挨拶をしてから席につく。
「咲夜、今日はいつもより遅かったが……どうかしたのか?」
私が席につくなり心配そうに聞いてくるのは天也だ。
「えと、疲れが溜まってたみたい?」
「……自分の事だろ…。
何で疑問形なんだよ……」
天也は呆れたような表情だったがすぐに笑みを浮かべた。
「紫月はまだ起きてない?」
「いや、奏橙を起こしに行った」
「……そっか。
氷をもら…」
「いや、待て!
一旦落ち着け!
お前あれ本気だったのか!?」
何故か慌てた様子の天也に私は首を傾げる。
私は言った事はちゃんとやるって事を知っているはずなのに何故こうも取り乱すのか……と。
「天童さん、申し訳ありませんが氷を……」
「待て、咲夜!
考え直せ!」
「氷を用意してくださ……」
といったところで扉が開き奏橙と紫月が入ってきた。
「……いえ、ハーブティーを用意してくださるかしら?」
残念だが仕方ないという風にハーブティーを頼む。
思わず舌打ちしそうになったよ。
「かしこまりました。
昨日同じものでよろしいでしょうか?」
「えぇ、お願いしますわ」
「すぐにご用意致します」
昨日と同じハーブティーという事で私はあの香りを思い出し、笑みを浮かべた。
すると、天童さんは私の表情を見て嬉しそうに微笑んだ。
「奏橙…良かったな…」
「どうかしたの?」
「……咲夜が氷を、な…」
「…………紫月、起こしに来てくれてありがとう」
疲れきった様子の天也と顔を引き攣らせている奏橙を見て私は小さく舌打ちをする。
……折角氷用意して貰おうと思ってたのに!
私が舌打ちしたのが聞こえてしまったのか奏橙と天也が私を無表情で見つめてきた。
「……咲夜、今舌打ちしたよな?」
「してないけど?」
「……いや、絶対にし」
「してない」
天也と奏橙が私を問いただす。
幼馴染の言うことくらい信じてくれてもいいと思うんだよね。
「そんなにも僕に氷を!?」
「うん」
私が正直に肯定した事で奏橙が崩れ落ちた。
そんな光景を見て笑っている私と愛音と紫月。
天也は無関係を決め込む事にしたようだ。
魁斗は何か呆れてる?
まぁ、いっか。
「咲夜様、ハーブティーをお持ちいたしました」
「ありがとうございます。
皆さんの分もありますの?」
「はい、ご用意させて頂いています」
「ではお願いしますわ」
「畏まりました」
天童さんは手際良く皆にもハーブティーを行き渡らせる。
朝食を用意してもらうようにお願いして下がってもらうと、早速ハーブティーに口をつける。
口に含んだ瞬間、甘い香りが口のいっぱいに広がる。
その香りを楽しみながら雑談に花を咲かせていると、朝食が運ばれてきた。
それを食べ終わると午後の事について話す。
「えっと……午後にはもうドイツにつくってことは言ったよね。
そこに多分だけど……」
「……咲夜の父親がいる、か」
私は天也の呟いた重い一言に神妙な表情で頷いた。
奏橙は再び顔を引き攣らせていた。
そんな重い空気を纏っている私達3人を見て不安そうにしている3人。
「あ、あの…咲夜の父親って……」
「……悠人先輩と同類だ。
悠人先輩をそのまま父親にしたって感じか…?」
「ある意味悠人先輩よりもタチが悪い、か……」
私の家族に対して散々な物言いだな!!
いや、分かるけど!
その気持ちは分かるけど!!
「えっと……す、凄い方なんですのね……?」
完全にひかれていた。
…あのシスコンの兄と同類、いや、それ以上にタチが悪いなどと言われては当たり前だろう。
家族である私だって引くのだから。
「……それでも今回は多分、天也以外には優しいと思うよ?」
「……俺は?」
「……まぁ、頑張って?」
大丈夫。
一応とはいえ母がいる。
天也は不安そうだが私はそこまで心配してはいなかった。
きっと仕事を抜け出しているのだろうから母が連れ戻しに来る、そう思っていたからである。
それと、私にはあまり関係の無い話だった、というのもあるが。
「咲夜様、奥様からお電話が……」
「お母様から……?
分かりましたわ」
私は一言断ってから席を立つと母からの電話に出る。
『咲夜ちゃん、今日のうちには着くんでしょう?』
「はい、そう聞いていますが…」
何かあったのだろうか?
そう不安になるがそれは杞憂だったようで母は電話の向こうで笑っていた。
『ふふっ……。
休みが取れたのよ。
咲夜ちゃんのためにちょっと頑張っちゃった』
思わず私は目を見開いた。
軽く言っているがそう簡単じゃないはずだ。
今は新しい事業に手を出し初めて忙しい時期なのだから。
それなのに私達に合わせて休みを取ってくれたとは……。
「でしたらドイツを案内してくれませんか?
久しぶりにお母様と過ごしたいです!」
『勿論よ。
じゃあ、待っているわね』
電話が切れたところで気づいたのだが…。
休みということは父を止めてくれることがないのではないか……と。
そうなった場合、天也が危険だが…。
私は考える事を放棄したのだった。
皆のもとへ戻ってから私は天也に対して重大な一言を告げた。
「天也、お母様とお父様が休みをとったみたい」
「なっ……」
瞬間、天也が絶望したような表情になる。
失礼な。
母は至って普通な部類に入るというのに。
……私の家では。
「咲夜のお母様ってどんな方ですの?」
「家族の中で1番まとも……かな?」
「綺麗な人だよ。
明るいイメージが強いけど……」
「咲夜の母親って感じがするからな。
1番やばい人でもあるが……」
私は1番やばいと言われた母の行動を思い返すがそんなにもやばいところはないはずだった。
「天也、奏橙…人の家族の事を変人の集まりみたいに言うのやめてくれる!?
確かにお兄様やお父様は変人だけど……!!
お母様は1番まともだからね!?」
「……異様にテンションが高いが」
「……お兄様とお父様よりは」
「……まともだね…」
私はそんな父と兄を思い出して頭が痛くなってくるような気がした。
「……あの、私不安になって来ました」
「大丈夫ですわ。
私も不安になってきましたもの……」
どうやら私達のやりとりが愛音と紫月を不安にさせてしまったようだ。
……とはいえ確かにあのテンションは大変だし。
だが、それだけのはずだ。
「もう少しでご到着致します」
そんな声と共に私達は降りる準備を初めたのだった。
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