脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

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4日目

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朝、私は昨日の夜、母に選んでもらった服を着る。
今までとは違い、白の服だ。
白い服だと汚れが目立つためあまり好きではないのだが…。


「女は度胸…女は度胸……」


パーティー以外では着る事のない白の服ということもあり少しだけ不安があるのだ。
そのため、ただひたすらに「女は度胸…」と言っていた。


「ふぅ……いざ、勝負!!」


落ち着きを取り戻すとまるで戦場へ向かうかの様な形相で扉に手をかけた。

そして1歩扉から出ると私は自然に笑みを浮かべていた。
これはお嬢様としての生活の成果である。


食事をとるホールへ行くと、既に私以外の全員が揃っていた。
1番最後という事もあり待たせてしまったと申し訳なくなるが、それを笑顔で隠して挨拶をすると自分の席に着く。

そして、入ってきた時から気になっていたことをついに耐えきれなくなり、質問を投げかける。


「お母様…その、お父様は……」


私の隣は父なのだが何故か紐で縛られていた。
そして口にはガムテープ。
そんな不自然な光景だったものの母は笑みを深めるばかり。
そして私は理解した。

きっと父は天也のことをまた『虫』か『害虫』と表現したのだろうと。
それにより母が怒りこの光景が作り出されたのだろうと。


……うん。
いつもの光景だ。


「ンンンーンッン!
ンンンンンンンンンンンンン、ンーンッンーンンンンッン!!」

(訳:  この害虫め!
私の咲夜を騙すなど、到底許さぬぞ!!)


皆が黙り込む中、私と母は溜息をついた。


「咲夜、何を言っているんだ…?」

「…この害虫め。
私の咲夜を騙すなど、到底許さぬぞ。
だと思います」


天也は顔を引き攣らせていたが他の皆はただ引いていた。
分かってしまった自分が辛い。


「ンンンッ!
ンンンンンンンッン、ンーンンンンンンンンンンッンンーンン!」

(訳:  見たか!
お前とは違って、私と咲夜は分かちあっているのだ!)


である。
ただ、意味は分かっているが父が子供っぽく見えてしまうので残念だが……。

先程のことで天也もウンザリしたのか、私に訳を頼むことがなくなった。

取り敢えず食べ終わったので父を放っておくことにして庭へ行くと言ってホールを出る。

私がゆっくりと散策していると背後から声をかけられた。


「お嬢様」

「何でしょうか?」


私に声をかけてきた使用人はどこかヒヤリとする笑みを浮かべていた。

だが、無表情な人が無理やり作った笑みと似ているような気がしたためあまり追求はしないでおく。
私も昔は笑みが硬いやら引きつっていると言われて凹んだ事があったからでもある。


「天也様がお待ちになられていますので御案内致します」

「天也が……?
分かりましたわ」


天也が待っていると言われ私は何も違和感を持たずに彼について行く。
その時、私は気づくべきであった。
天也ならば自分で探しに来ると。
決して、誰かに呼んで来てもらうような事はしないと。


「お嬢様、申し訳ありません」


そう言われ、私はハンカチで口元を抑えられる。
薬品の染み付いたそのハンカチのせいで私の意識は闇の中へと落ちていった。





私が気付いたのは屋敷ではなく、倉庫のような場所だった。

ひんやりとした、少し埃っぽい空気を吸い込み身体に悪そうだなどと思いながらも周りを観察する。
いざという時に逃げやすいようにだ。
それに……私の靴には仕込みもされているし護身術程度は齧った事がある。
だが、私はある失敗を悟る。
今日に限ってナイフを持ってきていなかったのだ。
あるのは麻痺針と弱い麻酔針だけだ。
そして何も塗っていない針といくつかの解毒薬。
そして靴の仕掛けはちゃんと使える。

……後でこれを用意してくれた2人にお礼を言わなきゃだね。
でも、あの人も可哀想に。

などと、私を騙した使用人のフリをした人物の事を思う。
だって、私を溺愛している兄と父がこれを許すわけがないのだから。


この3つの武器でいけるだろうか?
そう考えるがここがどこだか分からない限り無理だろう。
山中の倉庫だったとしたら遭難して終わる。
縄抜けは残念ながらできないし…。
兄なら出来るのだが……。


「あぁ…お目覚めになられたのですね?
お嬢様」

「……えぇ、最悪な目覚めでしたが。
せめて、空気清浄機の1つも欲しいのですが」


私は淡々と口にする。
感情を表に出すと恐怖が伝わってしまうと思ったからだ。
それは私のプライドが許さなかった。


「……お嬢様が元気そうで何よりですよ。
まさか、空気清浄機を寄越せと言うとは思っていませんでしたが」

「あら、私の何処が元気そうだと?
精神の方は全く元気とは言えない状態なのですが?」


図太いと言われているようなきがしたのでそこはスルー。
私は図太いのではない、遠慮がないだけだ。


「それは失礼しました。
お嬢様が賢い方で本当に良かった。
馬鹿な方ならば喚き散らしますからね」


何の悪びれもなく『失礼しました』と言った彼はそう続けた。
だが、その言葉の中には他にも何度かやった事が分かるような台詞が入っていた。
ならば私がここから逃げるのは困難だと言っていいだろう。
絶対に、何か対策をしてある。


「お嬢様、御安心を。
今はあなたを生かしておきますので。
なので逃げ出したりしないでくださいね?

そうなればついうっかり手が滑って殺してしまうかもしれませんから」


そう笑顔で念押しした彼に私は恐怖を感じた。
笑顔のはずなのに、冷たく、周囲の温度まで下げるような瞳。
もし、本当に殺し屋というものがいるのであればきっとこんな目をしているのだろうと思ってしまう程に冷めきった瞳。
そして、まるでゲームのように楽しんでいる事が分かる声のトーン。
私の命はこんな奴に握られているという恐怖。

何より、『生かしておく』と言った事。
全てが終われば私は殺されるのであろうと理解してしまったから。
だからこそ今までよりも何倍もの恐怖を感じた。
だが、それでも私は眉をピクリと動かすだけだった。
必ず助けが来ると信じているし、今は何もしない、何も出来ない令嬢を演じておく必要があったから。


「……この私がそんな馬鹿な事をするとでも?
私は何の力も持たないただの子供なのです。

なにより私は勝てる勝負しか致しませんの。
そんな私が、その様な一か八かの勝負をすると思いまして?

それに、今頃お父様が探してくださっているはずですもの。
私、これでもお兄様やお父様に溺愛されているという自覚がありますから」


そう。
私はちゃんと考えてから行動する。
そうしなければ簡単に捕まってしまうから。
私の体力と武器から見ても1回しか無理だろう。
それに2回目以降はきっと武器も全て取り上げられるし監視も増えるだろう。
だからこそ、入念に作戦を練らなければいけない。


「……聞いていいかしら?」

「えぇ、私に答えられることであれば答えますよ」

「そう。
でしたら、何故この様な馬鹿なことを?」


私は情報を集めるために行動に出た。


「お金の為ですよ。
何一つ不自由なく暮らしてきたお嬢様にはおわかり頂けないとは思いますが」


そう答えた男の表情は何故か少し曇っているような気がした。
そして、そこには私に対する棘がある。
だが、そんなことを気にする私ではなかった。
他の令嬢なら気にするかもしれないが。

というか、それ以前に他の令嬢ならこんなこと聞いていないだろうという自信がある。


「そう、ですの。
では2つめの質問です。
私はどれ程眠っていたのですか?」

「2時間程度、かな?」


2時間だとしたら車で移動したとしても山中では無いだろう。
ならば逃げ出しても大丈夫だ。
揺れもないので海や空ということもないだろうし。


「では3つめです。
これが一番重要なのですが……。
そろそろ疲れたので素で話してもいいでしょうか?
誰かさん達のお陰で精神的にも余裕がないので辛いのですが」

「……は?」


さすがに私も令嬢として話していると疲れるのだ。
それにこんな状態だと尚更。
私の精神的にも素で話していたいのだ。


「あ、いや…いいですが」

「そう?
じゃあ遠慮なく、そうさせてもらうよ。

ふぅ……あぁーもう疲れたぁー!!
大体さぁ、何で私ばかりこんな面倒な事に巻き込まれるかな……。

お兄様とかお父様とかお兄様とか!!
本当、あの2人も妹離れと娘離れをさっさとしろって思うんだ。
というか、私に負担かけないように誘拐して欲しいんだけど!!
お兄様やお父様から守るのは私の負担になるんだからね!?
もう……折角のシスコンから逃げられる時だったのに!!」


後半は誘拐に関して何も関係の無い事を言っているが日頃の愚痴というものである。
どうか聴き逃してほしい。
そして最後の方は文句になっている。
まぁ、そういうこともあるよね。


「……くくっ……。
あんた、本当はそんな口調なのかよ」

「あんな硬っ苦しい口調をずっとしてろっていう方が無茶。
私には無理。
生粋のお嬢様なら出来るんだろうけど私は違うから。
もうさ、お嬢様とか無理。
大体、私はあの私立って時点で嫌だったんだから」


彼も取り繕ったような口調ではなくなっているのであれが素なのだろう。
私も素を晒してしまっているので多分大丈夫だろう、などと思ったのだろう。


「でも……恐怖心とか無いの?
誘拐されてるっていうのに……。
普通は怖がるとかするでしょ?」


私はその問にどう答えるか考える。
本当の事を言うと少し怖い。
まだ殺されないという事は分かっているため恐怖心は少しだけ和らいだのだ。
だがそれでも、毅然として立ち振舞っていられるのはきっと自分自身を守れる術があるからだろう。


「……あるにはあるけど、今騒ぎ立てたところで疲れるだけで何にもならないでしょう。
それに……今のところは殺されない様だし?
なら、今は休んでおきたい。
あとは面倒。
私は昨日お母様に着せ替え人形にされて疲れてるから」

「本当に面白いよ、あんた。
そのままじっとしていてくれたらいいがな」


そんな彼の言葉を私は何も言わずに顔を下に向けた。

彼がここから出ていった事を確認すると、靴を片方だけ脱ぎ仕掛けを作動させ縄をきる。
その後は仕掛けの刃に持っていた麻痺毒を塗ると何事もなかったかのように平然と外へ出る。
とはいえ真正面から行くわけにもいかないので近くにあった荷物をずらし窓から出たが……。


「いっ……たぁ……。
第1段階、成功ってね。
んでもって……急がないとか……」


ようやく外へ出られたと思っていたがそこは薄暗い路地裏のような場所でほんの少し恐怖心が増す。
そんな恐怖心を振り払うように頭を振ると私はその暗く狭い路地を歩き出した。



ーーー天也ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


咲夜が誘拐されたらしいことを聞いてからもう2時間程が立つ。
咲夜の婚約者にも関わらず、何も行動できない俺はなんの力も持たないと改めて分かった。


「くそっ!
咲夜……」

「天也、気持ちは分かるけど落ち着いて。
あの咲夜が黙ってやられるだけなはずがないんだから」


奏橙は言い聞かせるように言っているがその声には焦りの色が見える。
だが、確かにその通りだった。
あの咲夜がそう簡単に黙っているはずがない。


「咲夜……」


俺は名前を呟くと咲夜を探すための行動に出たのだった。
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