脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

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到着

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「咲夜様、ご到着致しました」

「……ん、えぇ」


私は清水の声で目が覚めた。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

外を見ると確かに日本では無いことが分かる。

私は飛行機を降り、両親が手配してくれただろう車に乗り込むとそのまま屋敷に向かった。

屋敷につき、早々に自分の荷物を部屋に置くと、下に降りて執事に尋ねた。


「お父様は仕事でしょうか?」

「はい。
お帰りの予定は7時頃だとお聞きしておりま……」

「咲夜!」


その声は紛れもなく父のものであった。
またもや抜け出してきたのか…と私は大きく息を吐いた。


「お父様、お仕事は……」

「咲夜の方が大切だからな」


答えになっていない答えを聞かされる。
きっともうすぐ母が怒りながら入って来るだろう。


「あぁ、もう咲夜は可愛いなぁ」


デレッとしている父がウザイ。
兄とはまた別のウザさだ。


「お父様、会社へお戻りください。
私もそろそろお部屋の片付けをしますので」

「大丈夫だよ。
私が居なくても仕事くらいまわせ……」

「あ~な~た~?
勝手に仕事を抜け出すのはやめなさいと何度言ったら分かるのかしら?
それが、一企業の上に立つ者のする事なのかしら?」

「ぐっ……そ、それはだな…」

「言い訳は聞きません。
さっさと戻ってください」

「だ、だが!
さ、咲夜と……」

「あ・な・た?
ふふっ、さっさと戻ってくださいな?」


父の抵抗は虚しく、母は有無を言わせずに父を送りだす。
流石は母。
父では勝てなかった。


「さて……咲夜ちゃんごめんなさいね。
あの人を監視してなくちゃいけないから。
美味しいお店を予約したからまた今夜ね」

「はい。
お母様、私の事は気にせずお仕事を頑張ってください」


私は笑顔で見送ると病院へと向かった。
ロイさんとヴィルに会うためだ。
明日はヴィルの手術になるからだ。
それもあり、私は最後に一言くらいは応援の言葉を……と思ったのだ。

そして、私は車の中で人知れず溜息をつく。


「……そろそろ動いた方が良さそうですわね」


私の前世は大学生だ。
デザインを専門にしていたが。
ちなみに、高校の時は商業系の高校へ通っていた。
自分の店を持つために学んでいたのだ。

という訳で、私は自分の店を持とうとしていた。

本当は服よりも小物の方が作るのは好きなのだが……流石に小物だけという訳にもいかないだろうし作ってみよう。
ターゲットとしては、今の私と同じ令嬢かな。
それなら、上手くいけば海野の客船の中に店を出せると思うし。

そのためにもまずは


「従業員……ですわね」


従業員がいなくては始まらない。
とはいえこれについては心配していなかった。

何故なら真城がいるからだ。
真城には埋もれている人材を探すように伝えてあった。
その甲斐あってかリストが手元にあった。

このリストを元にすればすぐに人材は確保出来る。
次に問題になるのは場所だが……。
これは既に清水が良さそうな場所を見繕ってくれていたため問題はない。
まぁ、何度か見に行く必要があると思うが清水が探したのならば問題ないだろう。

……清水はこういった事に関しては妥協しないし。


その他の事も真城と清水がいれば大抵の問題は片付いた。
給料や建物の費用などは今までに貯めた小遣いでなんとかなる。

1度、兄に勧められて株に手を出したことがあった。
それが成功して何倍にもなって返ってきたのだ。
ちなみにそのお金には未だに手を出していなかった。


「咲夜様、到着致しました」

「えぇ」


今までの考えを打ち切って私はヴィルの病室に向かう。


「失礼します」


ヴィルが寝ているかもしれないと思い、静かに扉を開けたがロイさんと2人で楽しそうに話していた。


「こんにちは、具合はどう?」

「あ……こんにちは。
今は大丈夫です」

「そう?
ならいいのだけど……」


それから少し話をしたが明日、手術をするとは思えない程にヴィルは明るかった。
無理をしているのか、とも思ったがそんな様子はない。


「じゃあ、そろそろ邪魔者は出ていきましょうか。

ヴィル、明日の手術、頑張ってくださいね。
無事に成功することを祈っています。
では、また来させてもらいます」


私は立ち上がり、優しくヴィルに微笑むと退室しようとした。


「あ……咲夜さん!
ありがとうございますっ……!」

「えぇ」


お礼を言われたことに驚きながらも私は短く返事を返すと病院を出た。
そして、帰りの車の中で溜息を吐く。


「咲夜様が溜息を吐くだなんて……珍しいですね」

「……そうかしら?」

「はい」

「そう……かもしれませんわね。
まぁ、良いとしましょう。
清水、帰ったら真城と一緒に私の部屋に来てちょうだい。
お茶の準備もお願い致しますわ」

「畏まりました、咲夜様」


たまに思うのだ。
私は本当に正しい事をしているのか、と。
今回もそうだ。

ヴィルを助けるために、私は行動した。
だが、優秀な医者を集めた事でその医者達に手術をしてもらうはずであった人達が命を落とすかもしれない。
それで本当に良いのか。

私には分からなかった。
きっと私は恨まれるのだろう。
私が今回、行動を起こさなければその人達が死ぬ事は無かったのだろうから。

だが、動かないでいたのならば私は後悔するだろう。
助けられたはずなのに、と。
そしてロイさんからは恨まれる事になったに違いない。

だとしても、本当にこれで良かったのか。
これは、私の自己満足ではないのか、と。


いや、それでも私は決めたのだ。
自己満足だとしても、私はヴィルを助けたいと思ったから。
そんな私が後悔をしていいはずがない。
私だけは後悔をしてはいけない。
前を向いていなければ。

私は疑問を無理矢理頭から消し去ると丁度屋敷に着いたようで部屋で荷物の片付けをしながら真城と清水を待つことにしたのだった。
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