脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

文字の大きさ
67 / 87

番外 天童

しおりを挟む



私の主である咲夜様は本当に優しく、慈愛の溢れるうえ、素晴らしいお方だ。


私が初めて咲夜様を見たのは、高校生くらいの時だった。
父は、洋菓子店を営んでいて、そこに咲夜様が訪れたのだ。

その頃、父の店の経営は傾いていて父は店をしまおうか迷っている事を私と兄さんは知っていた。

だが、そんなある日咲夜様が来て、マカロンを買い、食べていった。
彼女は、そのマカロンの入った箱を嬉しそうに開けると、1つ口に入れた。


「美味しい……」


その花のほころぶような、可愛らしい笑顔を見て、店の奥にいた私も思わず微笑んだ。

嬉しかったのだ。
父のお菓子が認められて。
私の憧れであり、目標であった父が認められたから。

その後、嬉しそうに兄らしき人物に話しかけていた。
その兄も、彼女の様子に笑みを零し、仲の良い兄妹だと感じられた。


「お兄様、また連れてきてくださいますか?」

「あぁ、咲夜が望むのなら何度でも」


その日、彼女は帰ったが、またしばらくして店を訪れた。
今度は兄らしき人物はいなく、その代わりに彼女の後ろに控える、使用人らしき人物だった。
そして、店主である父を呼び出すと切羽詰まったように問いただした。


「この店を閉めるつもりというのは本当なんですか!?」


と。
そんな彼女に父は驚いたように目を丸くした後、少ししてから頷いた。
彼女は少し考えるような素振りを見せた後、悲しそうな表情を浮かべた。


「そう、ですか。
では、最後に仕事を頼んでもよろしいでしょうか?」


そうして頼んできた仕事はお茶会のメインとなるケーキの作成とマカロンだった。
父は最後の大仕事だ!と言って張り切っていたのを覚えている。

それを兄さんと一緒に眺めてたのも。


そして、咲夜様は父の作りあげたケーキとマカロンに満足してくれたようで、後日、笑顔でお礼を言いにきた。
だが、それだけでは終わらなかった。

そのお茶会の数日後から父の店の前には長い行列が出来たのだ。
その中にはあの有名な『天野』や『神崎』の家の人までいたのだ。
兄さんと顔を見合わせ、聞き耳をたてるとどうやらこういう事らしかった。


「あの咲夜がマカロンだけじゃなくケーキまでこの店のものを用意していたくらいだからな」

「まぁ、確かにアレは美味しかったし」


という事だ。
マカロンとケーキで思いつくのはあの可愛らしい笑顔を浮かべていた彼女くらいだった。

彼女が一体何者なのか……その時はまだよくは分からなかったがそれでも父の店を救ってくれた天使だということは分かった。

そしてその天使はどうやらマカロンに目がないらしい。
それを知ると、まだハッキリと道の見えなかったものが浮かび上がった。
兄さんは洋食屋、それもパスタを専門とした料理の道に進むと決めていたものの、私にはまだ、料理人になりたいというだけで特にコレといったものは決めていなかったのだ。
だが、彼女と出会った事でそれはハッキリとした。


パティシエになろうと。
父と同じ……いや、父を超えるくらいに。
マカロンを専門としたパティシエになろうと。
そして、あわよくば……あの方の専属となり腕を振るいたいと。


その次の年に私は専門学校へ転校し、優秀な成績を収めた。


あの方に食べて頂きたい。
あの方の側で作りたい。


そんな感情だけを頼りにパティシエとしてデビューを果たし、咲夜様の家である海野家の募集に飛びつき無事、海野家専属のパティシエとなった。
専属の、というのは難しいかもしれないがそれでも良かった。
ただ、あの可愛らしく、嬉しそうに食べる彼女のために腕をふるいたかっただけだから。


それから数ヶ月後、まだ見習いだった私の前に咲夜様が現れ、今に至る。

咲夜様の側付きとして、以前よりもさらに腕を上げなければと日々試行錯誤を繰り返している。
全ては咲夜様のために。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

処理中です...