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番外 天童
しおりを挟む私の主である咲夜様は本当に優しく、慈愛の溢れるうえ、素晴らしいお方だ。
私が初めて咲夜様を見たのは、高校生くらいの時だった。
父は、洋菓子店を営んでいて、そこに咲夜様が訪れたのだ。
その頃、父の店の経営は傾いていて父は店をしまおうか迷っている事を私と兄さんは知っていた。
だが、そんなある日咲夜様が来て、マカロンを買い、食べていった。
彼女は、そのマカロンの入った箱を嬉しそうに開けると、1つ口に入れた。
「美味しい……」
その花のほころぶような、可愛らしい笑顔を見て、店の奥にいた私も思わず微笑んだ。
嬉しかったのだ。
父のお菓子が認められて。
私の憧れであり、目標であった父が認められたから。
その後、嬉しそうに兄らしき人物に話しかけていた。
その兄も、彼女の様子に笑みを零し、仲の良い兄妹だと感じられた。
「お兄様、また連れてきてくださいますか?」
「あぁ、咲夜が望むのなら何度でも」
その日、彼女は帰ったが、またしばらくして店を訪れた。
今度は兄らしき人物はいなく、その代わりに彼女の後ろに控える、使用人らしき人物だった。
そして、店主である父を呼び出すと切羽詰まったように問いただした。
「この店を閉めるつもりというのは本当なんですか!?」
と。
そんな彼女に父は驚いたように目を丸くした後、少ししてから頷いた。
彼女は少し考えるような素振りを見せた後、悲しそうな表情を浮かべた。
「そう、ですか。
では、最後に仕事を頼んでもよろしいでしょうか?」
そうして頼んできた仕事はお茶会のメインとなるケーキの作成とマカロンだった。
父は最後の大仕事だ!と言って張り切っていたのを覚えている。
それを兄さんと一緒に眺めてたのも。
そして、咲夜様は父の作りあげたケーキとマカロンに満足してくれたようで、後日、笑顔でお礼を言いにきた。
だが、それだけでは終わらなかった。
そのお茶会の数日後から父の店の前には長い行列が出来たのだ。
その中にはあの有名な『天野』や『神崎』の家の人までいたのだ。
兄さんと顔を見合わせ、聞き耳をたてるとどうやらこういう事らしかった。
「あの咲夜がマカロンだけじゃなくケーキまでこの店のものを用意していたくらいだからな」
「まぁ、確かにアレは美味しかったし」
という事だ。
マカロンとケーキで思いつくのはあの可愛らしい笑顔を浮かべていた彼女くらいだった。
彼女が一体何者なのか……その時はまだよくは分からなかったがそれでも父の店を救ってくれた天使だということは分かった。
そしてその天使はどうやらマカロンに目がないらしい。
それを知ると、まだハッキリと道の見えなかったものが浮かび上がった。
兄さんは洋食屋、それもパスタを専門とした料理の道に進むと決めていたものの、私にはまだ、料理人になりたいというだけで特にコレといったものは決めていなかったのだ。
だが、彼女と出会った事でそれはハッキリとした。
パティシエになろうと。
父と同じ……いや、父を超えるくらいに。
マカロンを専門としたパティシエになろうと。
そして、あわよくば……あの方の専属となり腕を振るいたいと。
その次の年に私は専門学校へ転校し、優秀な成績を収めた。
あの方に食べて頂きたい。
あの方の側で作りたい。
そんな感情だけを頼りにパティシエとしてデビューを果たし、咲夜様の家である海野家の募集に飛びつき無事、海野家専属のパティシエとなった。
専属の、というのは難しいかもしれないがそれでも良かった。
ただ、あの可愛らしく、嬉しそうに食べる彼女のために腕をふるいたかっただけだから。
それから数ヶ月後、まだ見習いだった私の前に咲夜様が現れ、今に至る。
咲夜様の側付きとして、以前よりもさらに腕を上げなければと日々試行錯誤を繰り返している。
全ては咲夜様のために。
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